1333 星暦558年 桃の月 26日 久しぶりの手伝い(12)
取り敢えず、まずは一度一緒にヴァルージャへ行って森の樹木霊と話し合いが出来るか確認しようという事で、魔術院の転移門のところでシャルロと待ち合わせした。時間通りに現れたシャルロにシェイラが声を掛ける。最近はしっかりケレナが見張っているのか、頭の後ろで髪の毛が跳ねてたりって事もないんだよね。
朝が弱いシャルロは、一緒に工房に住んでいた頃は時折そう言うやらかしがあったのだ。パディン夫人やアレクが気付いたら指摘して直させてたけど。
俺は別に髪の毛がはねていようが構わないタイプなので、目に入っても気にならないから注意しなかったんだよなぁ。
お陰で時折シャルロに『言ってくれれば良かったのに』と文句を言われたものだ。
「おはよう、シャルロ。
森の中の巨木の枝をちょっと切っていったところで分からないだろうとは言え、正式に遺跡からの供与を認める権限は私にはないわよ?」
「いいのいいの~。
取り敢えず、どの位樹木霊と意思疎通が出来るかを確認して、実家の方のちょっと涼しい気候でも試す気があるかとか聞いてみておきたいことがあるからね。
父上にもまだ話してないし、下調べの更に前準備だと思って〜」
シャルロがノンビリと手を振りながら応じる。
というか、考えてみたらシャルロの実家だったら知り合いの農家とかが熊に襲われて怪我をしたらシャルロがショックを受けるだろうからと、蒼流がこっそり危険な動物を排除していそうな気もしないでもないんだが。
まあ、シャルロが死んだあとにはそういう保護が無くなる可能性が高いから、将来の世代の為には長期的に効果の続く熊よけを設置出来たらそれはそれで良いっちゃあ良いだろう。
近くにシャルロの知り合いが住んでいない森とかだったら蒼流も守っていないだろうしな。
「ちなみにシャルロの知り合いで熊に襲われて怪我をした奴って今までにいるのか?
全然熊が出ない地域だったら木を植えて樹木霊と交渉しても効果が分からないと思うが」
10年後となったら効果を確認しに行くのを忘れる可能性も高い気もするけどね。
「流石に領都近辺だったら領兵たちが定期的に見て回っているし狩人に補助金を出して危険な動物の駆除も頼んでいるから、熊に襲われたなんて話はほぼ聞かないかな?
でも、領地の中ではそれなりに熊の被害は出ているよ」
シャルロが教えてくれた。
そっか、過去に知り合いが襲われたからと言うのではなく、領主の息子として興味を示しているのか。
「じゃあ、シャルロが個人的に水をやりに行ったりする訳ではないんだな?」
オレファーニ侯爵領でも普通の魔術師にやらせるなら、ヴァルージャ近辺でクルストフの爺さんに頑張って実験してもらわなくても良いかも?
「最初の挿し木の時点だけは僕が魔力を注ぐ方が育ちが良いとか成功率が高いっていうなら、手伝ってもいいんだけどね。流石にずっとは難しいかな。
まあ、僕が手伝う場所と普通の魔術師にやらせる場所とを何か所か試して、精霊と縁がある魔術師が最初だけでも手伝った方が良いって結果が出るかは試してみようと思っているよ」
シャルロが言った。
「そうよね、やはり色々と試してみるべきよねぇ。
こちらは精霊の加護持ちじゃなくって単に精霊と使い魔契約をしている魔術師を短期的に雇って試せないか、やってみようかしら」
シェイラが考え込みながら言う。
「それもいいね。
なんだったら、ヴァルージャ近辺でのテスト費用も枝を貰う報酬の一部としてオレファーニ侯爵家で払ってもいいよ。
父上が納得しなかったら僕が払ってもいいし。
最初に術を使っていた地域の方が、生育環境として向いている可能性が高いからね~」
シャルロが提案する。
確かに、定期的に魔術師を雇って水やりや土への魔力充填をさせるならスポンサーがついた方が良いだろうな。
クルストフの爺さんに手伝ってもらうにしてもある程度は支払いがある方が良いだろうし、最初だけとしても精霊と契約している魔術師を雇うならそれなりに金が掛かる。
「そう言って貰えると、有難いわ!」
シェイラが嬉しそうに言って、スキップしそうな足取りで転移室の方へ進む。
流石シャルロ。
お金の使い方に関して、あっさりしているな。
俺だったらついけちけちと色々考えて迷っちまうんだが。
子供の頃からの習慣ってそうそう抜けないもんだよなぁ。
シャルロもぽわぽわだけどちゃんと世の中のことはそれなりに分かってますw




