1330 星暦558年 桃の月 24日 久しぶりの手伝い(9)
「アルフォンスの妖精の森って、シェイラたちが調べているヴァルージャの外のフォラスタ文明の遺跡みたいな巨木に紋様を刻んで効果を強めて長持ちさせるような術とか使っているのかな?」
シェイラと王都で夕食を楽しんだ翌日、シャルロの家に遊びに行った。
シャルロはちょくちょくオレファーニ侯爵家の王都宅に手伝いに行ったり、親戚に会いに行ったり、ケレナの手伝いをしたりとそれなりに充実した毎日を過ごしているらしいが、昨晩夕食の後に通信機で連絡したので今日はどこにも行かずに家で待っていてくれたのだ。
「どうだろ?
聞いたことがないから知らないなぁ」
シャルロがお茶の準備をしながら首を傾げた。
「ヴァルージャの森で外周だけでなく中の巨木にも紋様が掘られているのを見つけてね。
何の為なのか、どう起動しているかも分からなくてちょっと気になるんだよなぁ。
一応樹木霊にも聞いてみるつもりだけど……」
樹木霊はかなりノンビリおっとりだからなぁ。
「あ~。妖精たちが似たような術を使っているなら、アルフォンスに聞いた方が早いかもって?
確かにねぇ。
でも、妖精の森って僕たちが行った時みたいに時々暗黒界と繋がっちゃうじゃない?
あの連中が来ると巨木でも一瞬で灰になることがあるから、下手に巨木に繋がって維持するタイプの術だと却って困ることになるかも?」
シャルロがポットにお湯を注ぎながら指摘した。
そういえば、暗黒界からの魔物の卵というか濃縮した雫みたいのが入ってきて、結界の穴をすり抜けて巨木に触れた際に木の生命力を喰らいつくして大きくなって、巨木はあっという間に灰になって消えてたな。
そう考えると、暗黒界と繋がってヤバくなった際に下手をしたら破損しちゃう術なんて、却って弱点になって困るか。
「妖精ってこっちの世界の森とかにもふらふら遊びに出回っているのか?
フォラスタ文明の連中があの森に生きていた頃にあそこに遊びに行った妖精が居たら、どういう術だったのか聞けないかな?」
フォラスタ文明の連中が召喚の術を使って使い魔を得る習慣があったかどうかは知らないが、召喚術を使わなくてもふらふら遊びに来た妖精と人間が仲良くなることは極まれにはある筈。
少なくとも伝説とか御伽噺ではそういう話が時折だが出てくる。
精霊とそれなりに仲良くして自然との共生を重視していたっぽいフォラスタ文明の連中だったら、妖精とも相性が良さそうだ。
「人間の世界に出てくる妖精は時々妖精界と繋がる場所を見回りに出てくることが多いらしいけど、気まぐれにふらふら出歩く変わり者は妖精にもいるらしいからね。
誰かがあそこに居た可能性はあるかも?
アルフォンスに聞いてみようか?」
シャルロが先ほどデルブ夫人から受け取っていたクッキーの乗った皿を俺に差し出しながら聞いてきた。
「そうだな、出来ればお願いできるか?
何がどうなのかある程度でも分かったら、それこそパストン島の未開地の森とかで実証実験してみてもいいし」
実験をするなら一応アレクとシャルロとジャレットあたりと前もって相談しておく方が良いかな?
多分悪い効果はない筈だが。でも考えてみたら侵入者の警戒とかの効果だったりしたら、ちゃんと『侵入者』の定義づけが出来ていないと変な警報音が鳴るようになったりして、ヤバい幽霊が居る森だとかそんな悪評が立ちかねない。
まあ、未開地の森だったらそれこそ違法な麻薬を栽培しようとする犯罪者以外は殆ど立ち入らないと思うが。
狩人とかが肉目当てに入っているなら問題かもだけど。
どうなんだろ?
「そうだね~。
良い効果だったらそれこそオレファーニ侯爵領の森でも使ってみてもいいし、しっかり実証実験が出来たら王宮の方に売ったら歴史学会の人たちも喜ぶかも」
ふふふっと笑いながらシャルロが応じる。
森に掛ける術で普通の領主が喜ぶような効果ってあまり思いつかないけどな。
取り敢えず、販売できるかどうかはともかくとして、何なのか分かるだけでも学者たちは喜ぶだろう。
「じゃあ、アルフォンスから何か情報が入りそうだったら教えてくれ。
そういえば、お礼にこれ。シャルロの分とアルフォンスの分と、一個ずつな」
昨日持ち帰ったパウンドケーキをシャルロに渡しておく。
「ありがとう!!」
嬉しそうにシャルロがケーキを受け取り、匂いを深く吸いながら応じた。
これでアルフォンスの返事も早くなると期待しよう。
シェイラが妖精の森に遊びに行くのは難しいかも?




