1329 星暦558年 桃の月 23日 久しぶりの手伝い(8)
「魔術院の方でやっていたフォラスタ文明の研究はほぼ完全に行き詰ったらしい。
魔具の幾つかの解明は上手くいったし太陽の熱と光を日中に吸収して夜使うタイプの魔具は一応実用化出来たらしいけど、肝心の巨木に彫られた紋様に関しては樹木霊との意思疎通のために精霊の助けが必要なせいで、それが出来る研究者がいなくてお手上げなんだってさ」
シェイラに夕食に連れて行かれた食事処でのんびりと食事を楽しみながら、日中の成果について話す。
ちなみに俺の礼服に問題はなかったことは報告してある。シェイラは注文していた新しい礼服が予想以上に良い感じに仕上がっていたと嬉し気に教えてくれた。年初のパーティに着る予定らしいから、楽しみにしておこう。
俺にどこが今までのドレスと違うのか、分かるかは不明だが。
太陽光を活用する魔具は初期に発見されてそれなりにその建物の夜の明かり等に使えることは実証出来たものの、夏にため込んだ熱と光を冬に使うのは無理らしく、そうなると魔具を作る素材や魔石の費用と夜に使う灯りなどに掛かる費用を比べると費用対効果が微妙なところなので、爆発的には広がっていない。
平民程度の小さな家だと日中にため込める魔力の量が限られているし、大抵の平民は暗くなったら寝るという生活スタイルなので活用する時間がそれ程無いのだ。平民の殆どは高額な魔具を買うよりはちょっと良い酒や服でも買いたいと考えるし。
大きな商家や貴族の屋敷だったらそれなりに活用できるが、パーティなどを開いた場合に必要な光量には程遠いので、態々大々的に工事をして屋根や建物内の改修をするだけの価値があるかも微妙なのだろう。
新しく屋敷を立てる貴族や豪商なんかは取り入れている所も多いらしいが。
とは言え、爆発的な売り上げという訳ではないので歴史学会はそれ程潤ってはいないだろうとアンディは言っていた。
残念ながら直接ツァレス達の発掘予算に反映される訳でもないし。
「あらら。
確かに精霊との契約ってちみちみと部屋の中にこもって研究をしているようなタイプには向かなそうよねぇ。
でもそれだったら、ウィルが今度見つけた巨木の樹木霊に、何のための紋様なのかとか、紋様を刻む際に交わした契約は何を約束したのかとか、聞いてみたら良いんじゃない?」
シェイラが指摘した。
確かに?
「冬が近付くと樹木霊がいつも以上に寝ぼけている感じになってちゃんと応じてくれるか微妙に不明だが、確かに聞いてみる価値はあるかもだな?
役に立つ情報が手にはいったら、それこそ他の森やパストン島の巨木で樹木霊付きなのを探して実験出来ないか試してもいいかもだし。
というか、考えてみたら妖精王に聞いてみるのも手かも?」
昔行ったサラフォードの妖精の森も巨木が多かった。
同じような術を使っている様子はなかったが、気が付かなかっただけかもだし、術の存在ぐらいは知っているかも知れない。
これの言葉にシェイラの顔が明るくなった。
「妖精王様に色々頼むのは流石に気が引けるけど、聞けそうだったらちょっと聞いてみて。なんだったらサラフォードの妖精の森まで遊びに行って、そこで暇な妖精に話を聞けたら良いわよね~」
「サラフォードの妖精の森が現実に近くなって遊びに行ける時期って言うのは何か条件があっていつでもって訳じゃないらしいが、今度シャルロに聞いてみるか。
アルフォンスを呼び出すだけだったら一度ぐらいなら構わないだろうし。
美味しいお菓子でもシャルロのお気に入りの店で買っておいて、シャルロとアルフォンスに渡せばちょっと話を聞いても構わないだろう」
シャルロほどではないが、アルフォンスもそれなりに甘い物が好きだと聞いたと思う。
「あらそうなの?
だったらここのパウンドケーキを持ち帰ってもいいかも? たっぷり蒸留酒をしみこませているから20日ぐらい美味しいらしいのよね」
シェイラが提案した。
つまり、今のうちに買って年末か年初にシャルロに話を聞いておけという事だな。
まあ、今は暇だし。
明日の朝にでもシャルロに連絡するか。
アルフォンスもシャルロが好きなので、たまに呼び出して貰えるとご機嫌で話に応じますw




