1324 星暦558年 桃の月 21日 久しぶりの手伝い(3)
「う~ん、意図的な配置なのか、偶然なのか」
紙に描き出した森の見取り図と見つかった巨木の場所を見ながら唸る。
それなりに均等な配置っぽい気がする。外周周辺の超巨大樹が森全体を隠す結界を展開する紋様の一部だった(多分)のと同じように、この内側の巨木も何か紋様的な配置な可能性もありそう?
が。元々木って言うのはお互いが近くに生えていると日光や栄養の取り合いになるから、ある程度距離を離さないとずば抜けて大きくは育たないとも聞いた気もする。
だとすると、それなりに規則的っぽく見える感じに距離が離れているのは偶然というか成長のための必然な可能性もある。
それに、外周の巨木が一本枯れていたのと同じように、内部の巨木だって何本か枯れている可能性はあるのだし。
というか。
考えてみたら、これだけ超巨大樹が生えていたら、雷が落ちたりしないのかね?
何か落雷を防ぐ術が木に刻まれた紋様の一部にあるのだろうか?
落雷防止の魔術回路や術は色々とあるが、どれも完璧とは言えない。
数百年以上この森の巨大樹を守った紋様だったらその実効性はかなり確かなものになるから、どの紋様が落雷防止なのかが分かればかなり利用価値は高そうだ。
それの実証実験が限りなく難しいが。
魔術院の方でこの遺跡から入手した紋様の解明で何か進展があったか、年初のパーティででも聞いてみようかな?
一応歴史学会が提供した情報なのだ。
進展についての報告を受ける権利もある筈。
誰が興味を持ってその情報をちゃんと集めているかは不明だが。
もしかしたら、シェイラあたりが一番そこら辺の情報をしっかり収集しているかも?
俺に教えてくれてないってことは何か守秘義務があるのかもだが。
「取り敢えず、行ってみるか」
目に付いた、外周の超巨大樹よりは小さいが森の中では明らかに群を抜いて大きく育っている巨木を目指して浮遊の術で飛んでいく。
一応空を飛ぶ用の飛翔の術もあるのだが、あれは疲れるし、制御が難しいので下手をすると飛びすぎるか巨木の幹に激突するかなので、ノンビリ浮遊の術で行く。飛翔の術は難しいしかなり魔力消費量が大きいしで、今では空滑機の方が便利なので最近は廃れつつあるって話なんだよな。
もう魔術学院でも『ある』ことは教えても実際に使い方は教えていないとニルキーニ師がこないだ言っていた。
普通にちょっと街中で高いところに上がって見るとか作業をするなら浮遊の術の方が良いし、遠距離移動だったら転移門か空滑機で十分なので、態々魔力消費が多い上にそれなりに制御がむつかしく危険な術を子供たちに教える必要はないという結論になったらしい。
確かに、俺たちが教わった時も色々とはしゃいでやって落ちた奴もいたからなぁ。
授業中は安全装置をがっつり起動させて練習したが、放課後とか休憩日に使おうとして怪我する奴は毎年出ていたらしい。私的に練習するのでも魔術学院の安全装置を使っていいから誰か教師に声を掛けろと言われていたのに、俺たちの年度でも勝手に自分一人で飛ぼうして怪我したのがいた。
幸いにも単なる腕の骨折程度でそれ程の大怪我ではなかったのだが。
そんなことを考えながら、ふわふわと目を付けていた巨木に辿り着く。
心眼でじっくり下の方を視ると、ほのかに光っている部分がある。どうやら紋様が刻み込まれているようだ。
「シェイラが喜ぶかな?」
紋様部分を見逃さぬように、かつ他にも魔力が通っていない紋様の痕跡があるかもという事で幹の周りの心眼と自前の目で観察しながらゆっくりと回りつつ降りていく。
なんかこう、枝の折れた後なのか、紋様を掘ったのか、分からない傷跡っぽい線みたいのもあって紛らわしいんだよなぁ。
どうせ俺はフォラスタ文明の紋様や文字に詳しくはないのだ。変な線を一生懸命解明しようと時間をかけても無駄だから、取り敢えず確実に魔力が通った痕跡がある紋様だけをメモしておいて、印となるリボンを撒いておくことにしよう。
またツァレスか誰か、学者たちの一人を抱えてここまで登って来る羽目になるんだろうなぁ。
……ツァレスが年末の報告書をまとめるのを放り投げて、こっちを調べたがるかも?
シェイラにはこっそり知らせるが、発掘チーム全体へ知らせるのは来年になってからの方が良いかもだな。
シェイラに後で相談しよう。
年初になるとウィルが居ないから、上の方の紋様を調べられないw




