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シーフな魔術師  作者: 極楽とんぼ
卒業後7年目

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1091/1357

1091 星暦558年 紺の月 17日 裏社会からの依頼(14)

地下室は何やらカビ以外の異臭がする場所だった。

・・・誰か閉じ込めていたのか?


東大陸から呼び込んだ暗殺者を地下室に隠すならまだしも風呂も入らせずに閉じ込めるってことは無い筈だが。

そう思いながら心眼サイトの強度を上げて地下室の壁や床を更に見回したら、壁の一部として塗り固められている元は扉だった空間があり・・・その向こうに白骨が幾つかあるのが視えた。


おいおい。

ペディアグナ子爵は人身売買系の関係者だったのか?!


「そこの壁の向こうに白骨化していると思われる遺体が放置されている。

壁を壊せる人間はいるか?」

使い魔のアスカを呼べば土竜ジャイアント・モールの能力で壁だろうが塗り固めた漆喰だろうがあっさり崩せるが、ここまで臭くて人の苦しみが沁み込んでいるだろう場所に幻獣を呼び出すのはちょっと遠慮したい。


とは言え、急ぎではあるかも知れないからなぁ。

攻撃魔術でぶっ飛ばすというのも有りだろうか?


一緒に来ていた第三騎士団の男(ゲッカとか言う名前で紹介されたが・・・本名なのかね?)が塗り固められた場所を調べて、頷いた。

「漆喰で塗り固めているだけのようだから、これだったら取り壊す用の専用の魔具があるから直ぐにぶち抜ける」

都合の悪い部屋を漆喰で塗り固めて隠すという手法や良くある方法だから、その対処法も第三騎士団には用意されているようだ。


ゲッカが対漆喰用の魔具の準備をしている間に周囲を見回して、何か書類のようなものが無いかを確認する。


ペディアグナ子爵の書斎や寝室の隠し場所には人身売買関係の書類なんぞは無かったんだよなぁ。

死体が白骨化していて、人身売買用に攫ってきたと思われる人間を閉じ込める場所も封鎖してしまったってことは、どこぞの組織が摘発されて解体された際に慌てて損切りをして取引から手を引いたんだと思うが・・・昔の書類を態々全部燃やしたのだろうか?


確かに冬だったから暖炉に火は入っていただろうが、書類って言うのはばっさりまとめて火にくべても上手くは燃えない。

ちゃんと燃やす為にはそれなりな火力か手間が必要になるから、貴族が自分でちゃんと燃やすかどうかは怪しい気がするのだが。


そう考えるとこの部屋か、隣の封鎖した部屋に書類が隠されていても不思議はない。


一応書類と言うのは仲間の悪事も記録してあって裏切られた時の報復用とか当局との取引用という面もある筈だから、腐って白骨化していく死体と一緒に埋めてしまったとは考えずらいのだが。

この部屋だってそれなりに黴臭いが、死体が白骨化する際にはもっと体液が滲み出て紙とかがカビで凄い事になると思う。


まあ、そこら辺の現実的な問題点を考えずにバカが全部一緒に放り込む可能性も無きにしも非ずだが。


この地下室は昔から物置きのような要らなくなった家具や壊れた道具で修理するか決めかねた物を放り込んである場所らしく、あちこちに棚や箱のような物があるからその中に書類が隠されていても不思議はない。


しょうがないので書類を隠せる空間がある家具系の物を一つ一つ軽く叩いて中身を確認して回る。

長く人が触れていない紙と木材って心眼サイトでほぼ同じように視えるから、探しにくいんだよねぇ。


誓約書とか魔術契約の書類等だったらかなりの年数まで魔力が残るのだが、普通の人間が単に記録として書いただけの書類は数か月たてば魔力の痕跡が殆ど無くなる。


なので物理的な手段で確認する方が早くなるのだが・・・。


「何をしているんだ?」

コンコンとあちこちの棚や箱を叩き回っていた俺に、ゲッカが声を掛けてきた。


「お、そっちの手配は終わったか?」

箱を順番に叩きながら尋ねる。

こっちも後3つ程確認したら終わりだ。

まあ、封鎖された部屋の向こうに拘束具や白骨死体があるのが見つかったらこの部屋もちゃんと調べられるとは思うけどな。


「ああ。

・・・ちょっと耳を拭塞いでくれ」

ドスっと何やら重そうな道具が置かれる音がしたのを聞いて、ゲッカが指示してきた。


慌てて耳を塞ぎ、ついでに目を閉じて息も止める。

魔術で漆喰をぶち抜く時って物凄い埃と言うか粉が舞うんだよな。

魔具だったらそこも対処してあるのだろうか?


でも一応、上に行くまで待って欲しかったぞ。


ドゴ!!!

凄い音と共に、一瞬部屋の空圧が大きく変動し、次に何やらすえたような臭いが部屋に流れ込んできた。

埃はそれ程舞っていない。魔具がそこも対処する機能付きだったようだ。


まだ臭いがあるぐらい比較的最近な案件だったんだなぁ。

もう半年早ければ、ここに捕まっていた人間も助けられたかもしれないのに。

いや、人身売買の商売が潰されたからこそゼルパッグ伯爵が暗殺業に手を出しこの依頼が来たのだから、どちらにせよタイミングが間に合うことはあり得なかったか。


溜め息を吐きながら壁際の残りの箱へ手を伸ばして叩いてみる。

ゴンゴン。

お、中にそこそこ重い物が入っている。

金属だと心眼サイトに違う様に見えるから、書類の可能性が高い。


手を伸ばして箱を手元に動かし、蓋を開けてみた。


「一応この書類も調べてみたらどうだ?

関係ないゴミかも知れないが、もしかしたらそこに閉じ込められていた人間に関する書類の可能性もありそうだ。

俺はその間に屋敷の他の部分も調べるよ」

書類ごと箱をゲッカに押し付け、空気が落ち着き始めた地下室から脱出する。


マジで漆喰を破る前に上に行くべきだった・・・。

思っていたよりも埃は少なかったとは言えそれなりにあったし、隣室からの異臭もあったからなんか喉がイガイガしてきた気がする。

ちょっと台所で水を貰ってうがいでもするかな。

漆喰をぶち抜く魔具w

建物の解体現場とかでも役に立ちそう?


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


カクヨムさんで別に書いている短めに終わる予定(希望!)な話の最新話を久しぶりにアップしました。

良かったら読んでみて下さい。

https://kakuyomu.jp/works/16818023211694735678

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― 新着の感想 ―
[一言] やらかしの後始末すらできてないのかぁ。 というか、これで報告上がったら激怒案件だろうなぁ。 ついでに他の貴族も、ゴーストによる抜き打ちが入るかもしれんなぁ。 という訳で、今回も楽しませて頂…
[一言] 王家の呪いを連想してしまいました
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