1068 星暦558年 紺の月 6日 例年の時期と言えるかも(5)
「やあやあ立派な角だね~!
有難う、本当に助かった!!」
パストン島に辿り着いた俺たちは、待ち構えていたジャレットに出迎えらえた。
まあ、俺たちと言うよりも水牛たちを待ち構えていたみたいだけど。
ラフェーンに促されてあっさり港側へ船から降りた水牛たちは、落ち着いた様子で周囲を見回していた。
でも、『立派な角』なんて無い方が良くないか?
どうせパストン島には危険な肉食獣はいないのだ。
下手に人間へ突き刺さりそうな角なんぞ切っておく方が良い気もするが・・・海賊とかに誘拐されにくい様に残しておくべきなのかな?
まあそれに子をドンドン産ませて増えて欲しいのに、雌にとってのアピールになる部位(多分?)を切っちゃったら子を増やす計画に支障をきたすかもか。
でも、マジでこんな大きくて立派な角まである動物が落ち着きがなく周囲を警戒しまくっていたら、危険だよなぁ。
普通だったら綱で縛って成人男性が何人も抑え込む感じで動きを取れない様にでもしないと、そこら辺の住民や船員に突っ込んで大惨事になりそうだ。
そんな風に碌に身動きも取れない状態じゃあますます水牛の機嫌も悪くなるだろうが。
その点、ラフェーンが宥めている水牛たちは大人しく言われたとおりに動くから、『こっちだよ』と示すための手綱っぽいロープを首に巻いているだけだ。
犬の散歩用のリードと殆ど変わらないな。
と言うか、躾のなっていない犬よりもよっぽど聞き分けが良かったぞ、この水牛たち。
まあ、もしかしたらラフェーンがいたら犬もちゃんと聞き分けが良いのかもだが。
ユニコーンであるラフェーンの動物をなだめる能力って草食動物以外にも効くのかね?
狼とか野犬とかって弱った馬を襲うこともあるって話だが・・・ユニコーンってどうなんだろ?
まあ、幻獣なんだからそこら辺の犬に負けるとは思わんが、言うことを聞かせられるのかは微妙に不明だな。
犬って強者に従う習性があるから、ラフェーンに睨まれたら躾のなっていない馬鹿犬程度だったら大人しくなるかもだが。
単に強者に従っているのか、ユニコーンの能力の効果なのかは不明だが・・・今度アレクに聞いてみるかな?
「牛はこの島ではダメだったのか?
以前連れて来たのはそれなりに適応している様な感じに思えたが」
アレクがジャレットに尋ねる。
「一応病気にはならないんだが、怠いのかあまり動きたがらないし乳の出も悪いし、それこそあんまり発情期になっても子作りに励まないんだよ・・・。
子牛の生存率もあまり良くないし。
暑すぎてその気にならないのではって話になって、水牛の方がこの島の気候に合っているかもってことで呼び寄せようと本国の方と交渉して、やっと予算が降りたんだが中々連れて来る船の手配が上手くいかなくてね~」
ジャレットがやれやれと言った感じで肩を竦めながら教えてくれた。
へぇぇ。
牛と水牛ってそんなに違いがあるように見えないが、確かに牛の方が寒い地方にいる感じだな。
レディ・トレンティスの領地にも牛は居たが、水牛は居なかった。
まあ、気温だけじゃなくって湿度とか雨の頻度とか食事用の草とかも重要だから、水牛だったらこの島で上手くやれるという保証は無いが、上手くいくことを期待しておこう。
「ちなみに去年準備した防衛用の設備とかは上手く機能しているのか?
というか、使うような羽目になったの?」
特に何も聞いていないから海賊に襲われて港と街が焼き払われたとか言うような大惨事にはなっていないとは思うが。
「おう!
検疫ってことで入港前に足止めして調べる様になってからヤバそうなのが入港する数が減ったし、強硬手段で襲って来ようとしたのを2回程上手く撃退してからはこちらを伺っている不審船の数も減ったな。
空滑機のお蔭で変なところから上陸して来ようとする連中も撃退しやすくなった」
ジャレットがご機嫌に教えてくれた。
それでも2回程撃退しているし、変なところから上陸しようとする連中もいるのかぁ。
長閑な南の島って印象なのに意外と物騒だな。
まあ、上手くいって良かった。
「何か改善点とか、こんなのが欲しいとか、ある?」
シャルロが町の中に連れていかれる水牛に別れの手を振りながら聞く。
ラフェーンは一緒について行っているが・・・後でちゃんと合流できるのかね?
まあ、使い魔なんだからアレクの場所は感じ取れるのかな?
あまりアスカは工房以外に俺を訪れてこないから使い魔と魔術師の繋がりって使い魔側だとどんな効果があるのか不明だが。
でも、考えてみたら昔ここの開拓作業を手伝った時はアスカが島の奥の方で作業した後も普通に俺の所に戻ってきてたから、やっぱ分かるんだろうな。
見た目が優雅なラフェーンならまだしも、それなりに大きくてごっついアスカが他の人たちに俺の居場所を聞きながら帰ってきたとは考え辛い。
「う~ん、大体他は問題ないかな?
まあ、日常的な細かな問題は常に起きてるけど。
後で収支報告書を見ながら何か疑問があったら聞いてくれ。
それより!まずは食事にしよう。
キャリーナが腕によりを掛けて準備してあるんだ!」
おお~~。
楽しみだ。
ついでにお土産に良さげなこの島の特産物っぽい焼き菓子でもないか、聞いてみようかな。
水牛より牛の家畜の方が多いのってどうしてなんでしょうね?
やっぱ牛の方が大人しいとか、水牛の方が水が沢山必要とか、あるんですかね〜?




