1067 星暦558年 紺の月 5日 例年の時期と言えるかも(4)
結局学院長もパディン夫人も誘ったが今回は同行せず、俺たちとケレナと臨時雇いのメイドだけでパストン島へ航海に出た。
比較的あっという間に着くんだけどね。
海で朝を迎えるのも中々気持ちがいい。
流石に日の出を見られる程は誰も早起きしなかったけど。
「これからもこういうことが頼まれるかも知れないなら、甲板に家畜小屋っぽい簡単な小屋を建てたら良いかも?」
朝になり、甲板に設置した簡易テントみたいのから出てきて餌用の枯草を食べている水牛を見ながらシャルロが言った。
出てきた直後に餌から離れたところにどかっと大きく牛糞も落としていた。
自分が寝るスペースよりも外でウンチをしたかったらしい。
ラフェーンを見張りに付けていたから特に綱で繋いだりしなかったが、夜中に甲板を散策して用を足したりはしていなかったらしい。
もしかしたら俺たちが目撃したウンチと同じで、直ぐに蒼流が海へ洗い落としていただけなのかもだけど。
「テントの方が使わない時は仕舞っておけるから良いんじゃないか?
テントの設置をしやすくするように何か所かに柱でも立てておいたら便利そうだが。
真冬だったら寒くて駄目かもだが、流石に冬に家畜の輸送を頼まれることは無いだろ?」
まあ、別に冬に動かすのは理に反するという訳ではないが・・・あまり俺たちが態々冬にパストン島に行こうと思わないだけだ。
とは言え以前に一度、アレクの母親たちとかが新年に東大陸に行く際に荷物を大量に持って帰れるようにこの屋敷船でケレナも一緒に行っていたっけ?
「雨除け結界の上に布をかぶせる形にしたテントで良いんじゃないか?
布が吹き飛ばされない様にちゃんと固定する仕組みが必要だろうけど」
アレクが意見を述べた。
なる程。
風精霊が見張っていてくれる可能性が高いとは思うが、一応テントが吹き飛ばされないようにする仕組みはあった方が良いだろうな。
ついでに日中にくそ暑いようだったら冷風機を使って家畜が熱で倒れない様にしても良いしな。
南の島に連れて行くのにそこまで暑さに弱い動物を持って行くとは思えないが、陸でだったら木陰なり泉の傍なりに避難するのに、海の上では身動きが取れないから冷風機を効果的に使える様に雨除け結界を設置してその中に居させるのはありかも知れない。
影を提供するためにテントは出しっぱなしが正解だろうね。
雨に濡れるのも家畜の健康上にはイマイチだろうし。
塩水で毛皮がべたべたになるのは余り良い事ではないだろう。
多分上陸したら最初に真水で丸洗いされるんだろうけど。
最初に入植したころに持ち込んだ山羊や牛たちはそこまで贅沢な扱いはされていなかったが、今では水もそれなりに余裕があるのだ。
灌漑用水を使って海水を被って汚れた家畜を一度洗うぐらいはするだろう。
多分。
するよな??
しないんだったら一度洗ってやるぐらいは構わないが。
「考えてみたら、雨除け結界にテントを被せて直射日光を遮るなら、他の船でも船倉に入りきらない荷物を運ぶのにも使えるかも知れないな。
我々の船以外だったらうっかり船が揺れた時に積み荷が海に落ちてしまう可能性があるが」
アレクがふと思いついたように言った。
「船って下の方に重心が無いと転覆しやすいんだろ?
甲板に荷物を積むのは不味いんじゃないか?」
以前沈没ので探す羽目になった新しい船は、確か重心が上の方にありすぎたせいで強風で煽られた際に体勢を直せなくて沈んでしまったのだと聞いた気がする。
雨除け結界があれば荷物が濡れないし、ちゃんとテントで固定すれば荷物が滑り落ちる危険も減るかも知れないが・・・それで船が転覆したら元も子もないだろう。
とは言え。
雨除け結界と冷風機の組み合わせって金持ちが船に乗って航海に出る際に甲板から外の景色を楽しむのに使われるかも?
女性って海風で肌がべたつくのが嫌いだといていたが、雨除け結界って基本的に風も遮るから海風のべたつきも防ぐんじゃないかな?
今度実験してみたら良いかも知れない。
まあ、それで効果があったとして誰に売り込むのかは知らないが。
客船を持っている商会って誰かアレクが知っているのかね?
それとも交易船って客も載せて金をふんだくっているんかな?
豪華客船は無いかもだけど、個人用の豪華ヨットみたいのはあるかな?
でも転移門があるんだし、交易船に人が乗るだけの程度かも。




