1065　星暦558年　紺の月　2日　例年の時期と言えるかも（2）

「近日中にパストン島に行こうという話になっているんですが、学院長もなんでしたらご一緒しません？

お急ぎ何でしたらパストン島で遊んだ後にジルダスに送ったらそこから転移門を使えますから、直ぐに帰れますよ？

去年お土産を持ってきた時に興味がありそうな事を言ってましたよね？」

行きはちょっと水牛臭いかもだが。

今日はアレクは水牛の引き取りと運搬関係で港の方で忙しく、シャルロは一緒に来ることにしたケレナの休暇前の仕事を片付けるのを手伝っているので俺1人だ。

まあ、学院長と一番色々とあったのは俺だしな。

「無茶を言うな。

今は年初に新しく学院へ通い始めた新入生たちの中でイマイチ上手く適応できていない子供たちとの話し合いが極めて重要な意味を持つ時期なんだ。

しかも来月には学院祭があるから警備や招待客の諸々を決める必要もあるし。

誘ってくれて有難いが、紺の月は忙しいんだよ」

苦笑しながら学院長が俺の誘いを断ってきた。

あ～。

そう言えば、来月には学院祭があったっけ。

卒業してから殆ど遊びに来ていないが、覚えていたら今年は遊びに来ても良いかも？

とは言え、俺がスポンサーしていた二人はもう卒業しちゃっているから特に誰かのクラスに興味があるってことも無いんだよなぁ。

温泉を使いに学院にはちょくちょく来ているし、試作品を試してもらうために時折事務の人とかと会うこともあるんだが、学生たちのやっている事は全然見てもいない。

まあ、久しぶりに昔を思い出すために見に来ても良いかもって一応シャルロとアレクに提案してみるか。

「やっぱ年末とかじゃないとのノンビリ遊びに行く暇はありませんか？

それとも夏休みの方が良いです？」

新入生というのが学院長に取って色々と面倒（と言っちゃいけないか）な問題が出てきやすい事案だとしたら、入学の申込やら手続きやらの最後の追い込みがある年末も忙しいか？

とは言え、俺は年初より少し遅れて入学出来たんだから、年初までに入学の手続きをしなきゃいけないって言うのもそれ程厳しい決まりじゃあないんだろうが。

「ふむ・・・。

まあ、夏休みはそれなりに長いし暑いからだれるので事務職員も併せて皆で休みを取るようにしているから、その時が一番余裕があるかな？

それを狙って王宮とかから変な頼みごとをされることも多いが」

学院長が言った。

おいおい。

王宮のやつら、未だに学院長に頼み事してるのかよ。

と言うか、正確には王太子？

まあ、王太子に取っちゃあ学院長は自分の教育係として、利害関係なしに一番信頼できる相手なんかも知れんが。

そう考えると、相手の利害関係とかを常に考えていなきゃならない王太子なんて、世知辛い職業だよな。

もっとも、接する相手の下心を警戒しなきゃいけないのは別に王太子じゃなくってもある程度利権を持っている人間だったら誰にでもある問題なんだから、王太子なんて言う人から見たら至高の境遇へ生まれた人間に文句を言う権利なんぞないという気もするが。

本人が王太子として生まれたかったかどうかは知らんがな。

それこそ、どこぞの公爵と結婚する予定だった女性と恋に落ちた時なんかは『王国が自分の肩に伸し掛っていなかったら二人で駆け落ちしたのに！』なんてアホなことを考えていた可能性はありそうだ。

そう言う夢見がちな性格だからヤバい手紙なんぞを大事に取っておいたんだろうし。

ガツガツと利権や富を集めたいと思うようなタイプが王になって周辺国へ戦を仕掛けようなんて事になったら困るが、国の一番上が現実を分かっていない夢見がちな甘ったれなのも困る。

まあ、王太子はここ数年で俺が知っているだけでも色々と問題に巻き込まれているから、少しは甘ったれた根性が叩き直されていると期待したいね～。

「そうですか。

ではまた、夏にでも声を掛けますね。

お土産は何か希望はあります？」

パストン島って茶葉なんぞ育ててないんだよなぁ。

ある程度日持ちするトウモロコシの焼き菓子でもないか、キャリーナにでも聞こうかな？

「まあ、適当に珍しそうなものでも頼むよ」

軽く笑いながら学院長が言った。

海からサンゴとか真珠が取れるんだったらそれも面白そうだが・・・それを男である学院長に贈っても微妙な気がする。

「そう言えば、学院長て付き合っている女性とか女性の親戚とかっているんですか？

南の島なんでサンゴとか取れるかもだけど、そう言うのって女性の方が好きでしょう」

ついでなので聞いてみた。

学院長の家族の話って聞いたことが無いんだよなぁ。

「いや。

妻は子供が生まれる前に死んでしまったからね」

学院長の顔からすんっと表情が消えた。

いや、一応口は笑いの形のままなんだが、感情の表現としての表情じゃなくって単なる口の形って感じになってて・・・中々怖い。

「そうですかぁ。

では、何か適当に美味しい物を持ってきます！！」

やべ～。

何か踏んじゃいけない物を踏んだ気がする。

後でアレクとシャルロに何か知らないか、聞いてみよう。