1064 星暦558年 紺の月 1日 例年の時期になった
「また、パストン島に行かないか?
そろそろ去年の収支報告や諸々のまとめを確認しても良い時期だろうし、前回設置した侵入禁止結界やあっちに提供した空滑機改や広告幕に関して何か修理や改善点があるか、聞いてみたい」
軍との盗聴防止用魔具の納品に関する契約が片付いたので、次にどうしようかと話し合いを始めようとしたところでアレクが手を上げて提案してきた。
「あ~。
そう言えば、去年行ってからもう1年になるかぁ。
確かに良いかも。
今年はケレナも誘おうかな」
シャルロがノンビリとお茶を飲みながら言った。
シェイラは年末に東大陸の方に行ったし、パストン島は遺跡っぽいのは無いからあまり興味は感じてないっぽいんだよなぁ。
それだったら学院長でも誘う方がまだ釣れそうな気はするが、学院長だって魔術学院を放置して遊び歩きに遠出する訳にはいかないだろう。
「良いんじゃないか?
そう言えば、ダメ元で一応学院長も誘ってみるか?
去年お土産を持って行った時にちょっと興味があるっぽい事を言っていたから」
考えてみたら学院長もそれなりな年な気がするが、引退っていつになるんだろ?
まあ、学院長とか魔術院の長老とかって言うのは体がヨボヨボなジジイでも出来る仕事だからボケるまで現役のままかもだが。
そうなると遠出できるのは・・・死ぬ間際??
ちょっとそれは可哀想な気もする。
夏季休暇の前にでも、誘うべきか?
いや、年末の休みの方が却って暖かいパストン島だったら過ごしやすくて良いかも。
「実は・・・ちょっとジャレットに先日連絡したら、水牛を何頭か購入しようとしているんでそれの運搬もお願いできないかと頼まれたんだが・・・良いか?
どうも山羊や豚に比べて牛の繁殖が思う様にいっていないから、水牛の方があの島の気候にあっているんじゃ無いかと試す事にしたらしい」
アレクがちょっと気まずそうに聞いてきた。
おや。
昔は抜き打ちで行って書類検査をしなきゃ!って感じだったのが、今では前もって連絡するようになったんだ?
まあ、いい加減信頼できるぐらいジャレットの事は分かっているし、国による監視もあるんだからそれ程の心配は必要ないよな。
アレク曰く、俺たちの投資であり資産であるんだから、ちゃんと定期的に確認するのは当然の責務なんだそうだが。
以前言っていたが、商家は横領犯を殺人と同じぐらい嫌うけどちゃんとチェックしないで横領される場合は因果応報というか、当然の結果だと見做すらしい。
殺人と横領が同等って言うのが微妙な気がするけどな。
まあ、それはさておき。
水牛ねぇ。
ラフェーンが居れば暴れないだろうが、ちょっと糞の臭いがするのは避けられないだろうな。
向こうに着いてから蒼流に船の中を丸洗いして貰えば帰りは平気だろうが、流石に客を呼ぶ際に動物臭い船は不味いか?
「水牛ねぇ。
態々アファル王国から仕入れるの?
東大陸からの方が近いだろうに」
シャルロがちょっと首を傾げつつ尋ねた。
「大型な家畜を運べるような船が来るような港は気候的に水牛に向いていないんだそうだ。
一番水牛の質が良いのはザルガ共和国なんだが、あそこは遠い上に鼻血が出そうな程ぼったくられるからな。
それなりに良い若いのをやっとアファル王国で手配して、何とか搬送する船を見つけようと頑張っていたところに丁度私から連絡が入ったんだそうだ」
アレクが言った。
交易船って航海中の食糧として山羊とかを運ぶことはあるが、大型な家畜の運搬は中々大変だし、何頭かは弱って死んじまうことがあるから大型で高価な家畜であればある程、そこら辺の損失費用を考えると船長側もしり込みするらしいからなぁ。
パストン島の大型家畜の殆どは、俺たちがラフェーンと一緒に運んだ奴らの子孫らしいし。
鶏とか家鴨はまだ搬送しやすいし航海中に死んだら美味しく食べているそうだが、牛よりも更に大きいって噂な水牛だったら難しいんだろうな。
「俺は構わないぜ。
学院長だって多分気にしないんじゃないか?
とは言っても、今の時期に休みを取って呑気に遊びに出られる可能性はあまり高くないと思うが」
「もう少し待てば中休みの時期なんだが・・・水牛の運搬を考えると流石に15日も待てないかな」
アレクがちょっと残念そうに言った。
「中休みって学生は遊んで過ごしていたけど、教員側は忙しかったみたいだから学院長も気楽に遊びに行けるかはどちらにせよ怪しいんじゃないかな?
一応軽く声を掛けるだけ掛けて、年末にでもまた誘ってみようよ」
シャルロがあっさり言った。
そっか。
休みの間も教員側にはすることがあるというのは知らなかった。
教員のトップとなると、生徒が遊んでいる間にも教員たちが働いているのに、学院長だけ遊び歩くのは不味いのかな?
偉くなって組織の責任者になるっていうのは色々面倒なんだなぁ。
まだ学院長が断るとは決まってませんが、既に諦めているウィル君w




