1059 星暦558年 紫の月 21日 音にも色々あり(22)
「赤ちゃん生まれたんだ~。
オムツ洗うのに便利な魔具を開発したから、試作品を一つあげるね。
なんだったらドリアーナでテーブルクロスとかを洗うのにも使えるかもだけど・・・試してみる?」
シャルロが同じことを考えていたのか、魔具の提供を提案する。
そっか、テーブルクロスとかの洗濯にも使えるか。
まあ、洗った後に干す場所が必要なことを考えると微妙か?
魔具で乾かすのも可能だが、魔力の消費量が上がるし、どうも皺くちゃになるんでオムツはまだしも、テーブルクロスの仕上がりとしては困るだろう。
「オムツを洗える魔具??
随分と贅沢そうだけど、確かに助かるかも。
私たちも休みの日とか早く上がった日には手伝っているんだけど、あれって果てしがなくって大変なのよねぇ」
ゼナが遠い目をしながら頷いた。
そう言えば、ゼナの所は双子だったのだ。
オムツが倍になって大変だっただろうな。
どっかの貴族の館で働いていたって聞いたが、そう言う場合って下女が屋敷の洗濯物と一緒に洗ってくれたのかな?
貴族の屋敷の洗濯物とウンチも付いた赤ちゃんのオムツじゃあ大分と内容が違うから、あっさり一緒に洗ってくれるかは微妙な気がするが。
「ちなみに、盗み聞き防止用魔道具は防音機能もあるから、赤ちゃんのベッドの周りにでも展開したら、お皿を落としたとか外で何か騒ぎがあったとかで、赤ちゃんがびっくりして目覚めて泣くのを防げるかも?
ただ、赤ちゃんの泣き声も少し聞こえにくくなるから心配性な母親だったら嫌がるかも知れない」
アレクが付け足す。
赤ちゃんって夜中に泣きわめいているのを気付かずに放置するのって駄目なのかな?
まあ、お腹が空いているんだったら出来るだけ乳を飲ませる方が大きく健康に育つだろうし、濡れたオムツも随時交換する方が肌が被れたりしなくて良いんだろうが・・・赤ちゃんって特に意味もなく夜泣きすることもあるらしいから、ある意味それに気づかずに両親が寝続けられたらそれはそれでいい事なのか?
それともちゃんと泣いているのに対応してあげないと赤ちゃんの性格が歪むのかな?
・・・まあ、何か問題があった時にこちらが責められても困るから、防音結界っぽい使い方はあまり勧めない方が良い気もする。
「今だったらアドルが家にいるから、交代で面倒を見ているんですって。夜泣き当番じゃない時にキリナがすっきり眠れるように、防音効果があるんだったら夜だけでもここの盗み聞き防止用魔具を貸し出すのも有りかも知れないわね。
流用してもいいのね?」
ゼナが聞いてきた。
アドルがドリアスの息子で、キリナがその奥さんかな?
「ああ、構わない。
何だったら試作品を一つ持って来ても良いけど?
ちなみにアドルがその船乗り息子?」
一応確認の為に聞いておく。
奥さんの家族だったりして誤解があったら話が混乱する可能性もあるし。
「そう、私の従兄弟ね~。
次の航海に出る前に輸出品の仕入れやその確認とか、船の修繕とか、季節風待ちも兼ねて2月ぐらいいるんですって。
今のうちにしっかり赤ちゃんの面倒をみて、覚えておいて貰いなさいよ~って皆で言い聞かせているから日中は出ていることも多いけど夜はかなり頑張って面倒を見ているみたいね」
笑いながらゼナが言った。
「ああ~。
船乗りじゃあ、帰って来た時に『いらっしゃいませ、オジサン』って言われる可能性が高そうだね~。
せめて『赤ちゃんの頃にあれだけオムツの取り換えとかあれやこれや、面倒をみたのに~!』って言えるようにしないといつまで経っても他所のオジサン扱いになりそう」
笑いながらシャルロが相槌を打つ。
そっかぁ。
船乗りって留守が長いから親だと子供に認識されない危険があるのか。
普通の家のガキが『いらっしゃいませ』なんて言うかは知らないが、ドリアスに遊びに来ていたら客に対応するアゼラーナの真似をするかも?
その場合に『お客様』って言いそうだけど・・・『オジサン』は誰かの悪戯で仕込まれるのかな?
ゼナがやりそうな気もしないでもない。
まあ、頑張れ。
夜が遅いサラリーマンも、週末に接待ゴルフばかりしてたら同じ事になるかも?
最近は接待ゴルフそのものが減ってるらしいから大丈夫かな?




