1047 星暦558年 紫の月 5日 音にも色々あり(10)
「これをテーブルの周りに設置するのか?」
盗聴防止用魔具の試作品を見せられて、ドリアスが首を傾げた。
「あら、それだったら目立たないから、他のテーブルに会話が聞こえなくなる様に出来るなら喜んでくれるお客様も多いかも?
全ての席に設置してプライバシーも万全ですって売りにするのも有りかも知れないわね」
アゼラーナはかなり前向きらしい。
近所の食事処で盗聴防止用魔具を幾つかのテーブルでこっそり使ってもらって、客から何か違和感に関して言われるかと食事が終わったところで他のテーブルに話が漏れなくなるような魔具を設置してみたが何か感じたかを確認するのを頼んでみたところ、特に不満げな感想は無かった。
シャカシャカ音が気になるか心配していたのだが、それなりに大声で皆がしゃべっている店なので周囲の音があまり気にならなくて良かったかも?というコメントの方が多く、シャカシャカ音がしていた事に気付いた客自体が少なかった。
そこで今度はドリアーナで試せないか、ドリアスとアゼラーナに頼みに来たのだ。
勿論、話し合いが終わった後に賄いを食べられる時間を狙っている。
ふふふ。
最近はドリアーナ側から改造の依頼とか修理の連絡が来ていなかったし、俺たちも新しい料理用魔具を試作していなかったので暫く賄いにありつけなかったから楽しみだ。
「話を始めた時とか、料理を味わっていて一瞬沈黙が流れた後などの会話の最初の部分が漏れやすいんで、それを防ぐために小さめながらずっと音を流しているから静かな場所だったら気になるかも知れないんだが・・・これだと客の気に障るだろうか?」
アレクがシャカシャカ音のする試作品を近くのテーブルの傍に設置して起動して見せる。
シャカシャカシャカシャカ・・・。
静かながらあのシャカシャカ音が聞こえてくる。
それ程神経に触るような音じゃないし、調理室から漏れてくる音とか、他の客の話し声とかがすれば目立たないと思うんだが。
「ちなみに、もっと可愛らしいのが良いなら鈴の音のとかベルの音のもある」
最初に動かした試作品を止め、鈴を中に入れた試作品を設置して動かしてみる。
こっちの方がチリンチリンと音がして、俺としては気になる気がするなぁ。
シャカシャカ音と違って『雑音』ではなく『鳴らしている音』って感じがするんだよね。
「ベルだとこんな感じだ」
鈴音の試作品を止め、近所の牛用のを貰って来たベルを付けた試作品を動かす。
鈴の音が比較的高いんで、もっと低い目の音で何かないかと牛の行方をたどる用のベルを貰って付けてみたのだ。
こっちは鈴より音が低いが大きいので、ちょっと反射の強度を高めて出来るだけ外に音が漏れないようにしてある。
反射している間に音が変化するのか、一つだけベルを鳴らしているのに微妙に音程の違う合奏みたいになって面白いと言えば面白いが・・・食事処で聞こえると違和感があるかも?
「ちょっとその鈴の音は気になるかも。
高い音って意外と注意を引くのよね。
お客様に声洩れ防止の魔具の試作品を試してみますかと聞いて、シャカシャカ鳴るのと、ベルのを使ってみても良いかも知れないわね」
アゼラーナが言った。
どうやら夫でトップである筈のドリアスよりも妻で客と対応するアゼラーナの方がこういう場合の発言権は強いらしい。
「お客さんが会話が隣のテーブルに洩れず、隣のテーブルの話し声もはっきり聞こえなくなるような魔具を欲しがるかも確認したいから、試してみますか?って聞いて試したいと返事する客の割合と、あちらからの感想を集めてくれないだろうか?
協力してもらえるなら、今後もこの店で使う分は賄いと交換で無料で試作品を提供するので暫く試してみてもらいたい」
アレクが頼み込む。
うむうむ。
毎日どんな調子かとか、何か新しいリクエストが無いかとか、聞きに来るから。
暫く賄いを楽しめそうだ。
シェフィート商会でも会議室とかに使う様に幾つか試作品を提供してあるが、あっちはアレクに回収を任せれば良いだろう。
軍部は・・・シャルロに頼もう!
ジジイも俺よりお気に入りなシャルロと会いたいだろう。
高級レストランと言ってもそれなりに会話はあると思うけど、却ってお偉いさんの話って他に聞かれたら不味いし静かだったら声が響きそうだし、盗聴防止は喜ばれそう?




