1046 星暦558年 紫の月 4日 音にも色々あり(9)
「普通の会話だと却って音が足りなくて時折会話が洩れる感じだな」
アレクが言った。
キルス達に煩い楽器の練習なんかの防音を試してもらうのは任せたが、普通の会話の盗聴防止に関してもそのままあれが使えないかと期待した3人だが、反響度を最高まで上げた試作品を起動して普通にシャルロとパディン夫人がキッチンで話しているのを扉の所から聞いていたら、それなりに所々で何を言っているのか分かってしまった。
「こう、会話の途中で一瞬何かの弾みに沈黙が流れた後なんかに音が妨害されないで流れ出ちゃっている感じなんだよなぁ。
何かの雑音を二重結界の中でずっと出し続ける様にでもしてみるか?」
小さな箒みたいのを床に擦りつける感じで動かしたらシャカシャカと音がして外に漏れる声が雑音に紛れそうな気がするが。
「試してみる価値はあるかもだな。
パディン夫人、シャルロ、ありがとう。もう良いよ。
どうも会話の始めとか途中で途切れた際に次の音が雑音に紛れずに洩れる感じがするんで、何か雑音を立てる物を結界の中に入れて置いたらどうかと言う案があるんだが、どう思う?」
アレクが台所の中の二人に向かって声を掛けた。
「鈴でも転がす?
じゃなきゃ何か南国の楽器っぽいので棒の先に丸い容れ物の中に何か入っていて、振るとシャカシャカ音がするのもあったと思うけど」
シャルロが提案した。
「あ~。
何か祭りの時なんかに来る流れの踊り子とかの伴奏っぽいので、シャカシャカやっているのが時々いるよな」
力を籠めずに揺らすだけで音がするのかは知らないが。
何かあんな感じに楕円っぽい容れ物に小石でも入れて動かしたら音が鳴るかな?
「鈴はちょっと注意を引きすぎるかも知れないから、シャカシャカとした音の方が良いだろう。
適当に容れ物を作って小石でも入れて試してみて、駄目そうだったらキルスにでも何か簡単にシャカシャカした音が出る楽器が無いか、聞いてみよう」
アレクが提案した。
だな。
◆◆◆◆
「なんかこう・・・意外と音を立てるって言うのも大変だな」
シャカシャカ音の為に楽器の形を適当に真似た形の容れ物を探して小石を入れようとしたのだが・・・容れ物も中々良いのが無く、結局取り敢えずは木のコップを二つ張り合わせて使うことにした。
金属で適当に形を造ろうとしたんだが、どうしても重くなる上に音が思ったより響かず、まだ木のコップの方がマシと言う結果になったのだ。
更に小石は丁度いい小さいのが中々見つからなかった。
砂利サイズの大きいのだと重いから動かすのが大変だし、音もそこまで響かないんだよね。
砂利を砕いてもっと小さな小石にしようかと話し合っていたら、パディン夫人が『音が立てばいいんだったら水で戻す前の乾燥豆でどうですか?と言われたので使ってみたら悪くなかった。
ただ、考えてみたら豆の硬度ってどの程度なんだろ?
ずっと使っていたらそのうちボロボロに柔らかくなって音がしなくなるかも?
本格的に使うとなったらマジであの流れの連中が使っていた楽器か、少なくともその中身を確認して同じ物を使った方が良いかも知れない。
まあ、取り敢えずそれなりに音が出るようになる楽器モドキが出来て、それを揺らす魔具も付けたのでシャカシャカ音が鳴るようになった。
と言うことで、最終実験はこれを二重の音反射結界の中に入れたらどうなるか。
まずは会話なしに魔具だけを動かしてみた。
シャカシャカシャカシャカ・・・
小さいがシャカシャカ音が流れてくる。
それ程耳障りな音ではないが、静かな場所だったらちょっと違和感があるかも?
取り敢えずパディン夫人とシャルロが再び話し始めた。
「・・・さっきよりは確実に話している内容が聞き取れない感じだな」
アレクが満足げに頷きながら言った。
「書斎や会議室で使ったら微妙に違和感があるかもだが、少なくとも天井や扉の向こうで盗み聞きしようとされても聞き取れなくなるかな?
客が余り入っていない食事処とかで使ってみて、違和感が無いかの確認も必要だな」
普通の定食屋や、高級路線なドリアーナみたいなところで使ってみてどんな感じか確認した方が良いだろうが・・・定食屋は適当に近所の店を使えば良いだろうが、ドリアーナは流石に客が入っている時に実験に使わせてもらえないかなぁ。
「どこかで給仕係を訓練したがっている高級食事処が無いか、聞いてみるか」
アレクが提案する。
「あとはそれこそ、軍部に売り込むんだったら第三騎士団の食堂でも使わせてもらうのもありかも?
プロがそれとなく耳を澄ませていてどのくらい聞き取れるのか、確認してみても良いかも知れない」
王宮とか軍部に売り込むんだったら盗み聞きする専門の方に効果を試してもらってから売り込む方が効果的だろう。
誰かを咎めるような気不味い会議で、沈黙が流れると聞こえてくるシャカシャカ音・・・w




