1040 星暦558年 赤の月 25日 音にも色々あり(3)
アンディとの昼食を終わり、再び特許登録されている魔術回路を探しに戻りながらアレク達と相談する。
幾ら魔具が工房で職人が一つずつ丁寧に作る製品だから高いとは言え、慣れや素材の購入を考えるとそれなりの数を作らなければ製造にかかる費用が高くなりすぎて売れない。
販売数が少なすぎたら商会や工房の方でも扱ってくれなくなる。
販売制限なんて、手続きが面倒になるから販売数が少なくなるだけでなく費用も上がるし、最悪だろう。
最初から分かっていても嫌だし、分かっていなくて多めに素材とかを購入したのに売れなかったら更に悲惨だ。
「もしかして、防音結界系の魔術回路ってどれも販売制限を食らっちゃうから廃れるのかね?」
「その可能性も高そうだな。
取り敢えず、遠くまで響いて耳障りだと感じやすい高音は全部消してもいいとして、下の方の音は完全に消せないような仕組みにしないと駄目そうだ」
溜め息を吐きながらアレクが言った。
「あの片側からの音だけ止める結界って、音の動きを片方向きだけ止める効果があるんだけど、それを止めるんじゃなくって弱めるって感じの効果の魔術回路に出来ないかな?
片側からの動きって指定している部分が音への干渉部分だから、そこを色々と変えてみたら何とかなる・・・かも?」
シャルロが何やら難しそうなことを提案してきた。
とは言え。
確かに、単に音を止めるだけの魔術回路や結界は幾らでもあるが、それを部分的にしか音を止めない様にするのは難しいだろう。
魔石の使用量を減らせば結界の効果が薄れて部分的に音が漏れるようにはなるが、音が漏れる程度の強度で造ったとしても魔石を大きくして魔力の流れを強くしたらほぼ完全に中の音が外に漏れないようにしてしまうのは可能なので、悪用されないために販売制限される可能性は高い。
その点、あの片方向だけに音を止める魔術回路は特定の音だけに干渉している。
特定の音を選ぶためには音を何らかの形で選択・指定している訳で、選択できるのだったらそれを部分的に弱めるという魔術回路を造れるかもしれない。
なんとも面倒そうだが。
と言うか、部分的に選択して弱めるのだったらついでに盗聴防止の魔具にもなりそうだ。
話している会話の一部を聞き取れないようにすれば盗聴できなくなる。
まあ、完全に盗聴防止をしたいなら口元が見えないようにスクリーンか何かで周囲を囲うべきだけどな。
「確か、完全な防音って極めると空気も温度も伝わらなくなるって魔術学院で習ったよな?
片方向だけ伝わるって指定している部分を色々と他の防音結界でしている作用と組み合わせて部分的にってやれないか、試してみようぜ」
魔力供給を増やしても確実に全部の音を止めない結界となると、部分的って言うのを確実にしないとなんだが。
試行錯誤で色々と部分の指定を頑張ってみるか。
「すご~く低い音と高い音は聞こえなくてもいいと思うんだよね。
後は中間層ぐらいの音をある程度通すって感じにして・・・盗聴防止だったらこう、母音は止めるとかにしたら会話の内容が分からなくならなるし音量も小さくならないかな?」
シャルロが提案する。
「防諜防止や劇団の練習の音の軽減にもそれで良いかもだが、楽器の音は母音とか子音とか、ないぞ?」
アレクが指摘する。
確かに。
時々街中で楽器を鳴らして通りすがりの人たちからおひねりを貰っている連中が、どうやっているのか楽器でしゃべっているような音を出しているのもいるが・・・あれは例外だろう。
「結界に穴をあけるか、結界で止める音に部分的に例外な音程を指定するか、じゃなきゃある程度以下しか音が流れていなかったら結界の効果を止めて常に多少の音は漏れる様にする?」
シャルロが考え込む。
「そう言えば、水門の魔具か何かで水流の調整をする効果がある魔具があるってどっかで聞いた気がする。
あれって流れを確認して弱めるんだろ?
だとしたら音の流れも同じ感じに出来ないか?」
音楽も『奔流』って感じで扉を開けたらぶわっと流れて来る感じがする時があるから、『流れる』って要素がある気がするんだよなぁ。
「ふむ。
音と水流に同じ魔術回路を使えるかは不明だが、探してみるか」
アレクが頷く。
まあ、駄目だったら魔術回路に使う素材を物理的に細くして、強すぎる出力の際には回路が焼き切れちまう様にするのも一つの手ではあるしな。
一々故障すると苦情が来そうだから最後の手段だが。
ノイズキャンセリング耳栓とかってある程度の音は通すらしいですが、どう言う仕組みになっているんですかね?




