1034 星暦558年 赤の月 12日 ちょっと想定外な流れ(9)
「これは興味深いな」
結局、手当たり次第に商業ギルドの役付きの家を調べる訳にも行かないし、手紙が他者に渡って脅迫の材料にされた時点で脅迫された人間が他の書類を全て処分した可能性もあるから探したところで何も出て来ないかもだしと言うことで、セビウス氏に相談することになった。
で。
見せた時の反応が、『興味深い』。
アレクなんかは『裏切りだ』と見せた当初は怒っていたけど、セビウス氏はそうでもないんだな。
それとも単に表情の管理が上手いだけなのか。
まあ、お偉いさんの裏切りなんて珍しくないと知っている可能性も高いが。
「商業ギルドの誰かにこれを見せて、背任している人間を見つけ出して処分させるべきだとは思うけど、この手紙だけだと誰が関与しているのか分からないんだが・・・どうするのが良いかな?」
アレクがセビウス氏に尋ねる。
「特に特徴がある筆跡でもないし・・・名前が出ている訳でもないから微妙なところだな。
この手紙の時期の後で密輸量が増えた商品からたどればザルガ共和国側で関与している商会は分かるかもだが、必ずしもこちらの商業ギルドの人間が直接密輸の商品を扱っているとも限らない」
コツコツと机の上を叩きながらセビウス氏が考え込んだ。
「ちなみに、これはとある美人局活動が盛んな貴族の次男が持っていたんだが、実際にそれで誰かから金を搾り取っていたというよりは、もしもの時の保険用だったんだと思う」
脅迫に使われた手紙を戻す相手を探せるかと、一緒に隠してあった脅迫用の裏帳簿っぽい手帳も持って来てそれを見比べて調べたのだが、次男が王都に出て来てからの2年間の金の受け取り(と言っても脅迫を思いつくのか材料を集めるのかに時間が掛かったのか、殆どの記録はここ1年ちょっとのものだが)と手紙を繋げて確認したところ、この商業ギルドの手紙に対応すると思われる金の動きはなかった。
「こんなバレたら確実に商業ギルドから追放になるし、場合によっては国家反逆罪に問われるかもしれないような悪事の資料を使うなんて、危険すぎるから余程差し迫った時だけだろうからな。
使っていたら既にその次男坊が死んでいるか、家が取り潰しになりそうだったのが奇跡的に逃れられたと話題になっていただろうさ」
セビウス氏が薄く笑いながら応じる。
まあ、そうだよなぁ。
と言うか、貴族の家が取り潰しになりそうな時に商業ギルドの役職持ちってそれを止められるほどの権力があるのか??
「商業ギルドの役職持ちを脅迫することで貴族の家の取り潰しを救えるかな?」
ちょっと不思議そうにアレクが聞き返す。
あ、やっぱアレクも意外に思ったんだ。
「商業ギルドの上位役付きなんて、王宮の人間にもそれなりに貸しを持っているか、弱みを握っているかな人間以外がなるもんじゃないのさ。
そうじゃないとあちらと対等に交渉なんて出来ないだろ?
権力者って言うのは自分の要求が理不尽だなんてこれっぽっちも思っていないからね。
『ちょっとしたお願い事』のつもりで気軽に色々と言ってくるからきりがないし、何でもかんでも王宮や貴族の言う事に従っていたらあっという間に商業ギルドの役職から追い出されてしまうよ。
だからシェフィート商会も商業ギルドの役職を得ようと動いていないんだ。
・・・まあ、役職を持っている人間を動かせるように常に情報は集めているけどね」
セビウス氏がアレクに説明した。
なるほど~。
自分たちで王宮の誰かの弱みを握らなくても、握っている人間を動かせれば何とかなるのか。
遠回りだし時間が掛かりそうだが。
きっとセビウス氏だったら王宮の人間を直接動かせるような情報も集めてあるんだろうなぁ・・・。
ある意味、シェフィート商会はセビウス氏が引退した後はどうなるのか、ちょっと心配だ。
まあ、その頃には俺も引退してノンビリ日向ぼっこでもしている毎日になっている可能性が高いから、知ったこっちゃないけど。
「取り敢えず、私の方で誰が自分の私欲の為にザルガ共和国と通じたのか、調べてみるよ。
これを預かっていても良いかな?」
セビウス氏が俺の方を見て尋ねた。
「どうせ俺が持っていてもどうして良いか分からない微妙な書類だからな。
何か出来そうなんだったらそちらでやってくれたら有難い」
理想としては国を売ったアホが自発的に辞職する様にでも仕向けてくれれば良いが、誰がやったのかセビウス氏でも分からなかったら燃やしてくれたって構わない。
どうせ手紙の時期的に、密輸の抜け道は去年の年初のお手伝いで潰された可能性は高いんだし・・・駄目だったとしてもまた数年以内に手伝いに駆り出される際に見つけるだろう。
なるようになるさ。
シェフィート商会の裏のドンへ丸投げw




