1033 星暦558年 赤の月 12日 ちょっと想定外な流れ(8)
「商業ギルドの役職ってどう決まるんだ?」
翌朝、朝食を食べながら俺はアレクにちょっと気になった点を尋ねた。
取り敢えず、ブラグナル男爵家長男の美人局に引っ掛かった女性関連の手紙は全部取ってきた。
と言うか、考えてみたら美人局って美人を使って男を引っ掛ける事を言うんだが、駄目っぽさで女を釣るのってなんて言うんだろ?
まあそれはともかく。結局、悩ましいと思った手紙も含めて、脅迫用の手紙も全部取って来た。
どうせ女性関連の脅迫用の手紙が無くなったことに気付いたらそれなりに動きがあるだろうから、それで逃げるなら良いし、逃げないなら・・・なるようになるだろう。
普通に汚職とか浮気関連の脅迫はそのまま証拠の品を失くしたのをそ知らぬふりをして続けるとしてもある意味脅されるような行動をしているのが悪いんだし。
証拠の品が無くなったから諦めて脅迫を止めるんだったらそれはそれでいい事だろう。
が。
最後のちょっとヤバそうな手紙はなぁ・・・。
多分これは日常的な脅迫用ではなく、何かがあった時に身を護るための保険用なのだと思う。
それが無くなってあの次男がどういう行動をとるかは知らないが。幸いにも長男が引っ掛けて脅迫していた対象が多すぎるせいで、シェイラの友人の従姉妹が原因だとは確定出来ないだろう。
一応被害者だった女性が分かる分はそっちに匿名で送り付けておくから、素知らぬ振りの脅迫もできなくなって収入が減る筈。
それは良いとして。
問題は、保険用の手紙がかなりヤバ気なんだよなぁ。
どうするか、悩ましい。
「商業ギルドか?
基本的に商業ギルドは会員である商家の事業規模に応じて拠出金も大きくなるから、事業規模が大きな商会はそれだけ発言権が大きくなる。
数年に一度、ギルド長や副ギルド長の再任を投票するから、その際に発言権が落ちている商家出身だと再任を否決されて改めて立候補して皆で投票し直すことになるな。
各部門長は変に汚職や利権が発生しない様に3年おきに変える決まりになっているから、こちらも一応投票することになるな」
アレクが教えてくれた。
「商業ギルド内の大手商家がお手盛り投票して決めるなら、大抵決まった商家の人間が交代しつつ役職を回す感じなのか?」
大臣職や高位文官職もそれなりに世襲に近い感じに決まった貴族の人間が請け負うことが多い。
流石にずっと変わらずということは無いが、それなりに知識や人脈的な必要性から全くの素人に任せるのは難しいという点があるのだろうし・・・全般的に金をばら撒くよりは、決まった連中にそれなりな心づけを常に渡しておいて『仲良く』なっている特定の業界のトップやそれに関連する高位文官として働く方が効率的なのだろう。
「商業ギルドへの拠出金から投票権を計算するんだから、事業規模が大きく変動しなければ似たり寄ったりな商家が毎回自分の所の人間を役職に就けることが多いな。
歴史があると規模が小さくなってきてもそれなりに過去の貸しで他の会員の投票を左右できるし、新規に大きくなってきた商家は他からのやっかみで協力票が少なくなる事が多いが」
アレクがバターに手を伸ばしながら答える。
なる程。
となると、ここ数年で軍とかへの販売とかも広げてきたシェフィート商会なんかは目の敵・・・とまでは行かなくてもそれなりにやっかまれて事業規模相応には役職を得ていない感じなのかな?
まあ、それはともかく。
「ちなみに国外の商家との関係はどうなんだ?
ザルガ共和国から金を貰ってばら撒いて役職を手に入れて、あっちに有利になるような取り決めをするとか情報を流すなんて言うのは許されるのか?」
国内の事業で得た金ではなく、他国の商会からアファル王国の商業ギルドに不利な情報をバラまくことで得た金を使ってアファル王国の商業ギルドで役職を得るのって駄目なんじゃないかと言う気はするが・・・禁じられているのだろうか?
金に色はないのだ。
割り切って何でもありな可能性もある。
まあ、流石に競争相手に毒を盛るとか暗殺依頼を出すなんて言うのは駄目だろうけど。
「商業ギルドはお互いに切磋琢磨して国内の事業を盛り上げていこうという集団なんだ。
他国に利するような行動は許されない。
・・・何か不味い情報を入手したのか?」
眉を顰めながらアレクが聞いてきた。
「ちょっと昨日裏社会の知り合いから貰ったんだが・・・ザルガ共和国の商会があちらの商品をアファル王国へ密輸するのにどっかの誰かに情報提供の約束を対価に金を渡して商業ギルドの役職に就くのを手伝う約束をしている手紙が出てきてね。
これって不味いのかな?
脱税や密輸ってある意味誰でもある程度はやっているんだろ?」
商業ギルドの誰もが隙を見つけてやっているというのが以前手伝った密輸取り締まりの時の話だったと思う。
勿論、商業ギルドだって取り締まる方だが、あれは他の商家が密輸するのは絶対に許さないが、自分の所が見つからずに出来るならやるという話だ。
つまり、誰でもやりがたがるんだったら成功した人間を責めるのは・・・ちょっと違うかも?という気もしないでもない。
「ザルガ共和国はアファル王国の商業ギルドにとっては競争相手なんだ。
そちらから金を貰ってアファル王国の商業ギルドの役職に就くのはダメだろう。
誰なのか、分かるか?」
ますます難しい顔になってアレクが言ってきた。
やっぱダメかぁ・・・。
どうやって調べるかなぁ。
今回は軍は関係ない話・・・かな?




