1028 星暦558年 赤の月 10日 ちょっと想定外な流れ(3)
「手紙を取り返せばいいんだよな?
何か相手を脅す材料も探した方が良いのか?」
俺が孤児出身で子供の頃は盗賊ギルドにいた事はシェイラに言ってあるし、ちょくちょく今でもウォレン爺さんとか税務局とかの捜査に駆り出されているのも詳細は話していないが大雑把な部分は教えてある。
だから俺が手紙を取りに忍び込むのは既にシェイラの計画の一部に組み込まれているんだと思うが・・・どこまで手を打たないとその友人の従姉妹とやらが守れないとシェイラが見ているのかを知りたい。
「元々手紙だってそれっぽい事を書いてあるだけで、強気になって知らぬふりをすれば向こうに出来ることは限られている状況だったの。
だから変に相手の弱みを握ろうとなんてしなくて良いわ。
友人側が『弱気にならなくて良い』って思える様に手紙を取り返してくれればそれで十分よ」
シェイラが応じた。
「ちなみに、そう言う手紙で脅迫しようとするタイプって言うのは一度に何人も金蔓を仕込んでいるもんだし、そのための手紙も幾つも集めていると思うが・・・そう言うのを見かけたらどうする?
破棄するだけじゃあ脅されている相手は安心できないと思うが、相手が分からなかったら探すのは大変だぜ?」
流石にヤバい手紙に自分の住所を書くほどアホな人間はあまりいない。
自分の名前とかイニシャルだけだったら大丈夫だろうと考える迂闊な人間は多いけどな。
いや、実際にそれで公の裁判とかなら証拠不十分って事で大丈夫なんだが・・・弱みがあると考えていると夫なり婚約者なりが見たら筆跡でバレるかも??と思うから、結局自分を示す何かを書いてあったら結局ダメなんだよなぁ。
というか、大丈夫だろうと思うんだったら脅しの手紙が来てもどっしり構えて無視すれば良いのに、脅されてぐらぐら揺れるから弱みに付け込まれて金をガンガン抜き取られる羽目になるのだ。
脅されたら最初に連絡を取ってきた時に相手を襲撃させるぐらいの図太さを見せれば向こうだって引っ込むのに、なまじ金を払ったりするから脅迫者側が果てしなく強気になるのだ。
「実際に無害そうな顔をして近付いてきた男は他にも何人かと関係を持っているっぽかったのは既に友人が調べで分かっているの。
名前が出ていれば相手が分かるかも知れないから、脅迫用の手紙があったらついでに取ってきておいて」
シェイラが肩を竦めつつ言った。
「了解。
しっかし、そんな脅しをかけてくるのは相手の男に決まっているんだろ?
自白剤を商業ギルドのパーティでばら撒くなんて危険なことをする必要はなかったんじゃないか?」
下手をすればマジで暗殺ギルドに伝手がある相手を怒らせたかもしれないのに。
「その引っ掛けた本人って言うのはちょっと馬鹿なのよ。
世の中を自分の都合の良い様に解釈する癖があるし、面倒な事は何でもすぐに忘れるし、結婚する約束で家が金を借りていたのにあちこちで他の女性の同情を引いてちやほやしてもらいたがるような甘ったれで・・・証拠を残さずに脅迫が出来る程、知恵があるようには見えなかったんですって。
だからそいつの兄弟か、そいつの友人で手紙のやり取りとかを間に立って手伝っていた男が犯人なのかと思ったらしくって」
大きな根っこを跨ぎながらシェイラが言った。
ああ~。
まあ、確かにぼんやりしていて『この人は私が助けてあげないと』と思わせるタイプの男だったら金が足りなくて困ってるって泣きつくのは上手でも、賢く立ち回って金を脅し取るのは難しいか。
「で?
結局犯人は誰だったんだ?」
というか、それこそそいつの侍従とかがこっそり脅迫に手を出しているんだったら商業ギルドのパーティにも出てこないからダメなんじゃないかね?
そんな危険物をバラまくだけ、犯人がパーティに出席する確信があったのだろうか?
好奇心は湧くが・・・あまり深入りしたくはない。
商業ギルドのパーティなんてそれなりに警備は厳しいし混入物への警戒もしっかりしている筈なのに大多数の人間が口にするシャンペンに自白剤を混ぜられたなんて、一体どういう手順でやったのか・・・それこそ裏社会の人間が知りたがりそうだ。
女って怖いぜ。
「ぼんやり男の弟ね。
金遣いの荒い両親と、経済観念の無いバカな長男との面倒を見なくちゃいけない可哀想な次男って周囲には思われているんだけど、実はそれを隠れ蓑に両親や兄の周辺から得た情報で色々とあちこちから金を搾り取っていたみたいね。
だからヤバい所からの情報もあるかも知れないから、女性関連じゃない脅迫用の情報は持って帰って来なくて良いわよ?」
シェイラが言った。
へぇぇ。
・・・ウォレン爺あたりが喜びそうな情報がありそうな気がしないでもないが・・・大丈夫だよな??
人はそれをフラグと呼ぶ・・・




