1010 星暦558年 藤の月 6日 棚以外にも使えるよね?(7)
「これって赤ちゃんのオモチャには複雑過ぎじゃね??
こう言うのって赤ちゃんがつかまり立ちとかを出来る様になったら引っ張ってなぎ倒されたりする可能性が高いんだろ?
どう考えてもどっかの部品が壊れそうな気がするぞ」
シェフィート商会から入手した単純なメロディーを奏でる(比較的)安いオルゴールの部品を赤ちゃん用オモチャに取り付けてみようと試したが・・・非常にデリケートな仕上がりになってしまった。
ゼンマイバネとそれに引っ張られる輪に付けた音が鳴る銅板部分及び赤ちゃんの目を引く飾り紐はいいにしても、実際に輪を動かす部分と輪の動きを一定にする部分が非常に複雑なのだ。
やっぱ、バネを使って動かす際に回転を一定にしようとすると色々と仕組みが必要なんだなぁ。
単純にバネだけだったらバネをきつく巻いた最初は早く動き、最後の方はゆっくりになるだろうし。
「う~ん、魔具って魔術回路の部分は複雑だけどそっちさえしっかり出来たら、他の部分はこれと比べると意外と単純なんだね。
魔術回路は一度出来上がって他の部分に繋げた後はしっかり蓋をして守ればそう簡単に壊れないし、魔術回路自体がそれなりに丈夫だからねぇ。
普通の精密な絡繰り道具がこんなに複雑でデリケートだなんて、知らなかった」
シャルロが感心したように言った。
そう。
デリケートなんだよ。
動きを調整する部分はうっかり触るとちゃんと機能しなくなるし、ゼンマイバネ部分もしっかり留めておかないと迂闊に外してやり直しするのも出来ないしで、めっちゃ面倒。
赤ちゃんの手が届かないところにオルゴールを置いて音楽を聞かせるというのならまだしも、目にちゃんと入る範囲で飾り紐を動かして注意を引きつつ音楽を鳴らす道具なんぞ、ほぼ確実に壊されるだろう。
赤ちゃんが寝ころんだまま動けない状態ならまだしも、デフォルトで赤子って育って大きくなるし、それに伴って手が届く範囲も広がるのだ。
ヤバすぎだろう。
「もう、下手な絡繰りは入れずに単純に魔術回路で動く様にした方が良いのでは無いか?
折角ウィルが東大陸で見つけてきた悪戯用の魔術回路があるのだし。
力を溜めておけるようにしようなんて欲張ったことを考えず、単に赤ちゃんが泣き始めたら同調端末を握って魔力を同調させたら赤ちゃん側のオモチャが動くって感じにしたらいいのでは?」
アレクがオルゴールをどけて最初に棚から取り出して改造した魔術回路を手に取った。
「そうだなぁ。
余った魔力分で手を離してもオモチャを動かせるように溜めようなんて考えずに、赤ちゃんが泣いていたら同調端末を握って動かし、泣き止んだら手を離して止めるって形にしたらもっと単純に出来るか」
どうせ垂れ流している無駄な余剰魔力なんぞ、そこまで頑張って無駄にならない様にため込む必要はないのだ。
大した量じゃないんだし。
「問題は、普通の一般人が垂れ流す程度の魔力でちゃんと飾り紐と銅板部分を動かせるかだね~」
シャルロが言った。
「駄目だったら屑魔石でも入れて、垂れ流す魔力で起動させる形にしても良いかも知れないな。
赤ちゃんの傍に一々行って起動させなくて済むっていうのもありがたい可能性が高いだろう」
アレクが言った。
「折角だったら魔力が無くて動く方が魔石の補填が要らないからいいと思うけどね。
ある意味、常時屑魔石に余剰魔力を補填させて、握ったら溜まった魔力を流して魔具を起動する形にするか?」
用はゼンマイバネではなく魔石の方に魔力をためておくのだ。
「折角魔石を使わない魔具というちょっと面白い試みなのに、勿体ない気がする~。
取り敢えず魔石無しの試作品を造ってみて、どのくらいの人が使えるか、試してみない?
母上の所の侍女とメイドとかに片っ端から握って貰って動くか確認してみよう」
シャルロが提案した。
「・・・ちなみに、余剰魔力って貴族と平民で違ったりするのかな?」
魔術師は貴族出身が多いという訳ではないが、単に魔力があっても魔術師になろうとしない貴族が多い可能性も高い。
魔術という便利な技術を使える人間が偉くなって貴族になったのでは?という気がしないでもないが、ある程度国が栄えて大きくなったら偉い人間は自分で戦ったり魔術を掛けたりするのではなく、下の人間にそれを指示してやらせるようになるから貴族が魔術師である必要なんぞ全くなくなっていく。
体質的な魔力量と血統って統計的にどんな感じなのだろうか。
「貴族って魔力があるよりも賢いとか顔が良いとか兵士の指揮が上手って言う方が家を存続させられるからなぁ。
分からないね。
母上だけじゃなくて他の親戚や知り合いの家でも貴族と使用人との両方調べまくって統計を取ってみるよ」
シャルロが言った。
なるほど。
確かに今の世の中だったら顔が良い事の方が魔力が大きいよりも貴族にとっては有利そうだな。
娘は確実に顔の方が重要w
以前カクヨムで書いた短編に続きを少し足しました。
https://kakuyomu.jp/works/16818023211694735678
子爵家三男だけど王位継承権持ってます(仮)
説明調なタイトルを付けてみましたけど、どうですかね?




