1007 星暦558年 藤の月 4日 棚以外にも使えるよね?(4)
「やっと一方向に動くようになった!」
何度も魔術回路を修正し、造り変えた試作品が一応想定通りに回り始めたのを見て思わず声が上がった。
いやぁ、嫌がらせのカタカタする動きって左右にがたがた小さく揺れるだけだったから、それじゃあぐるぐると羽だろうが飾りだろうがを赤ちゃんの上で回らせる動きが出来なかったんだよ。
まあ、色々ぶら下げた振り子っぽいのを赤ちゃんの頭上で動かすのも有りかと思ったが、回らせる方が良いんじゃないかと安易に改造を始めたのだが・・・意外に大変だった。
反対方向に動くの部分の魔術回路を見つけるのにかなりの時間が掛かり、やっとそれを見つけ出して削除したら何か動きがかなり弱っちい感じになったので消した分を最初の動きと同じ方向に動く様に付け替えようと試行錯誤し、やっと今回上手くいったのだ。
ほぼ丸一日かかったぜ。
「思うんだけど、これって輪っかを動かすんじゃなくって筒か何かに紐が巻き付く感じの動きにして、それが解けた後にまた元の方向に動く感じに出来ないかな?
オモチャの動きを半分だけ請け負えば良い感じになるから、魔力の節約にならない?」
シャルロがぐるぐる動き出した試作品を見ながら言った。
うん??
紐を巻き付けてそれが戻った後にまた戻す?
紐だけなら良いが、オモチャをぶら下げたら無理じゃないか?
「緩い目のバネで力をためる感じにして、それで押し戻して逆方向に動く感じの方が巻き付く動きよりもオモチャを動かしやすいんじゃないか?」
アレクが改善案を挙げる。
俺は元々赤ちゃん用のオモチャとかってあまり縁がないからなぁ。
イマイチ最終形が思い浮かびにくいんだよね。
そんなことを考えながら見ていたら、アレクとシャルロが何やら図を描き始めた。
車輪の軸みたいな構造の端にバネを入れて、押す力をためる感じかな?
「どうせだったら反対側にもバネを入れた方が更に良くないか?
最初に一押ししたら暫くバネで行ったり来たりする感じに動いて、止まったらまた魔力を籠める感じにしたらどうだ?」
「というか、赤ちゃんが寝ている間は動く必要が無いんだから、垂れ流されたのを吸収した魔力を魔石に貯めようとするよりも、バネに蓄積させるようにして赤ちゃんが起きた時にそれを解除して動かす感じにしたらどうかな?」
シャルロが提案した。
ふむ。
全く魔石を使わない魔具って言うのも中々斬新かも?
「あ。
でも、魔石を使わない魔具でもちゃんと魔術院で特許申請できるのか?」
普通の工業用特許は全然ダメって話なんだから、魔術院で保護される特許構造じゃないと困る。
「魔術回路があるんだから、大丈夫だ。
魔術師用の魔具だったら魔石を使わずに自分の魔力を流し込む形の物だってあるだろう?」
アレクが俺の心配を打ち消してくれた。
そっか。
というか。
「赤ちゃんが泣いた時にバネの留め具を外す感じで今まで溜めていた力で動かすとして・・・まずは赤ちゃんじゃなくって周囲の大人から魔力を吸収させるのをどうやるかも問題じゃないか?」
確か、以前シャルロを魔力吸収の魔術回路で覆った棺おけモドキの中に寝させて実験したら魔力吸収用の魔術回路が沢山ありすぎると垂れ流した余剰分だけじゃなくて本人からも魔力が吸収された感じで疲労回復が微妙だったんだよな。
体力がない赤ちゃんの魔力を吸収しすぎるとヤバいだろ。
「赤ちゃんの傍じゃなくて、大人がいる辺に魔力を吸収させる方の魔具を置いて、そこで吸収した魔力を同調用の魔術回路で流してバネを巻く感じで力を蓄えさせるのでどうかな?」
シャルロがグルグルと腕を振りながら言う。
う~ん。
上手くいくか?
同調用の魔術回路での魔力の流れってあまり大きくないんだよなぁ。
まあ、赤ちゃんのオモチャを動かすためのバネに掛ける必要がある力も小さくしないと勢いよく動きすぎて赤ちゃんがびっくりするかも知れないが。
取り敢えず試作品を造ってみるか。
音はちょっと後回しです。
でも、カサカサとかザワザワとか心臓音みたいのが落ち着くとすると再現するのは難しそう・・・




