決別の夜
アラン視点。
苛むその痛みは……。
「無様だね。アラン」
砂に埋もれ倒れ込んでいる俺に、長であるイサーク・セサルの容赦ない言葉が降り注ぐ。
「あんたもいい趣味してやがるよ。こうなることを予想していたわけでしょ」
顔を上げることも億劫で、そのまま身を投げ出したまま言葉を吐き出す。
「まさか。君なら、イセン国王を仕留められると踏んでいたんだ。君こそ、リルディアーナがいるからって手を抜いてきたんじゃないのかい?」
「はっ。冗談。肋骨がいくつか折れてる上に、腕の骨にもヒビが入ってるんすよ? もちろん魔力なんてもんもすっからかん。手を抜く余裕なんかねーつーのっ」
「へぇ? なのに、あんな恰好をつけてあそこから出たわけだ」
図星なだけに、愉快そうなその声にいら立つ。
「しかも、勝手に私の名を出すとは。誰が許可したのか」
続いた言葉はヒヤリと冷たい。
普段穏やかである分、その声の冷たさは殺意と呼べるほどの鋭さを持つ。
「あんたの思惑通りに動いてきたんだ。そのくらいの嫌がらせ、大目にみてくださいよ」
「なるほど。リルディアーナはイセン国王の暴走を止めたんだね。あの能力が発動したということか」
「……」
無言は肯定。
途端に機嫌を直したらしくクスリと笑う。
「いいさ。私は意外に君を気に入っているんだ。殺すのは勿体ない」
「……そりゃどーも」
まったく嬉しくない言葉に投げやりに言い放つ。
「ピッピー。ピッピー!」
バサリと大きな羽音と共に、耳障りな鳴き声が響く。
「お帰り。ジーク。お前はよく働いてくれたね」
愛鷹への言葉は、半ば俺への当てつけのようにも聞こえる。
「そいつ、どこに飛ばしてたんすか?」
「ふふ。イセン国王暗殺の依頼主にさ。失敗してしまったからね。お詫びに情報を提供してきたところだ。ジークにお礼を言うといい」
「ピヤァー、ピヤァー!」
「……アリガトーゴザイマシタ」
一切の感情をこめず機械的に、俺はお礼の言葉とやらを吐き出した。
「それにしてもその姿。どういう心境の変化だい?」
元の小汚い色の髪と目を晒す俺の姿を、面白がるような声音で問う。
この姿を長に見せるのは、多分“アラン”を名乗りだしてから初めてのことだ。
「別に。ただの“けじめ”ですよ。もうエルン国に遊びにもいけねーだろうし」
「アチラ側ではなくコチラ側を選んだというわけだ」
「選ぶ? 最初から、あっちに俺の居場所なんかねーでしょ」
眩しすぎるあの場所に、俺のような薄汚れた存在は必要ない。
最初から、居場所があるなんて、大それたことを考えていたわけじゃない。
『アラン!』
それでも姫さんの顔を思い出すと、つい心が揺らぎそうになりやがる。
「くそっ。痛えーな」
体を苛む痛みとは違う、胸の奥がうずくような痛み。
この痛みを癒すには時間がかかる。
ぼんやりとそんなことを思った。




