解き放たれる狂気(2)
「チッ!」
このままそばにいれば、俺自身も消えた小太刀と同じように消滅させられる。
瞬時にそう理解し飛び退る。
「何なんだよ、こいつは」
発せられる魔力は、人の範囲を容易くこえていやがる。
空間がギシギシと音を立てている。
嵐を纏ったかのように、カイルワーン・イセンの四方に黒い風が吹き荒れている。
「魔力の具現か? 嘘だろ……」
人の身にある魔力の容量なんかたかがしれている。
意識を集中させ、魔力を一転に集め、初めてそれはやっと一つの形を成す。
それが、目の前にいる男は、絶え間なく体中から放出させているのだ。
この男の体には、どれほどの魔力が詰め込まれているのか。
「こいつ、本当に人間なのか?」
「……」
シュッ!!
「!? くっ!」
眉ひとつ動かさず放たれた魔術は、今までに比べらものにならないほどの威力。
咄嗟に防御したが、体はかなりの距離を跳ね飛ばされ、思い切り地面に叩きつけられた。
(こいつ、一体何なんだ?)
普通の魔術持ちとは明らかに違う。
人が持ち得る魔力量を遥かに超えている。
シュッ!!
第二刃は何のためらいもなく、一瞬で放たれていた。
気がついたときには、痛みが体中をつきぬけていた。
「ぐわっ!」
激痛とともにメキメキと嫌な音が耳に届く。
カイルワーン・イセンが放った魔術が俺の体を圧迫し、体中の骨を軋ませている。
どこか甘さを含んだ隙だらけの戦い方から一変し、ただ目の前のものを滅せようとするその姿は、感情の欠片も見えない。
そんな相手を前に、はじめて俺の中に完全な敗北感が芽生える。
暗殺者が負けること。
それはすなわち“死”だ。
(万事休す……か……)
意識が遠のきかけ死を覚悟したその時だった。
「なんだ?」
唐突にカイルワーン・イセンが攻撃の手を止める。
「くっ。うっ。あ、あぁ……」
肢体に纏う黒い風がいつの間にかその勢いを増している。
カイルワーン・イセンのすべてを覆い隠すかのように。
額を抑え込みうめき声をあげながら、その場に膝をつく。
「カイル!?」
聞こえてきた声に、茫然としていた俺は我に返る。
少し離れた場所で意識を失っていたはずの姫さんが、顔面蒼白でカイルワーン・イセンを見つめていた




