解き放たれる狂気(1)
アラン視点。
それは大きな誤算だった。
「よう。気分はどうだ? 死にぞこないの王様」
姫さんを遠くに押しやり、俺は目の前の男。
このイセン国の王である、カイルワーン・イセンに向き直る。
「貴様、リルディに何をしたっ!」
ふらつきながら立ち上がり、かみつくように言い放つ。
「ちょっと眠ってもらっただけだ。かなり持っていかれちまったし、これ以上は俺もやばいんでね」
「どういう意味だ?」
最後のほうは、こいつには理解できないだろう。
姫さんの特異な能力。
それを知っている奴は限られている。
「あんたには関係ねぇ話だっ」
地面を蹴り上げ同時に懐から小太刀を取り出す。
魔力が底を尽きかけていやがる。
あとは肉弾戦でケリをつけるしかねぇ。
キイィン。
寸でのところで、相手も剣を取り俺の小太刀を受ける。
「いい反応じゃん」
お世辞じゃなく本心からの言葉。
ただの見かけ倒しかと思ったが、これがなかなかどうして、いい筋してやがる。
俺の速攻に反応出来れば上出来だ。
キンキンキンッ。
何度か刃を交わらせながら追い詰めていく。
うまく受けてはいるがその身はボロボロだ。
徐々に剣を持つ手が揺らぐのがわかる。
「よっと! チェックメイトだ」
「くっ」
フェイントをかけ、一瞬の隙から剣を弾き飛ばす。
「さすが王様。なかなか粘った方だぜ?」
喉元に小太刀を突き付け囁きかける。
「貴様、リルディをどうする気だ?」
「ククッ。人の心配してる場合かよ」
「答えろ」
「……」
いやになる。
こいつも姫さんと同じ迷いも恐怖もない目をしていやがる。
『カイルは私の大切な人だよ。何があっても守りたい人』
今まで見たことのない大人びた顔で言い放った姫さんの言葉がよぎる。
こいつらはお互いの素性を知らないはずだ。
それなのに、磁石のように引き寄せられ、出会い惹かれあっている。
まるで、お前に立ち入り隙などないとでも言いやがるように。
「さぁ? 面倒くさいし殺しちまおうかな」
「!?」
こいつがもっとも聞きたくないだろう言葉を吐き出す。
我ながら子供じみた嫌がらせだ。
ドクンッ。
「!? なんだ?」
その時、空間が大きく揺れ動く。
ドクドクッ。
まだ俺の魔力は尽きてはいない。
それなのに、空間が大きく軋んでいやがる。
何か大きな圧力を受けているように。
「……そんなことはさせない」
ごく近くから聞こえてきた低い声に、反射的に視線を向け絶句する。
「なっ」
瞬時に理解する。
この異変を引き起こしているのは目の前の男なのだと。
「リルディを傷つけることは許さぬ」
狂気を孕んだ瞳は金色に輝き、恐ろしいほどの魔力が男から放出されている。
突きつけていた小太刀は、すでにその原型をとどめず溶けて消え失せていた。




