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そして姫君は恋を知る  作者: 未華
間章(2)~そしてイセン国を目指す者たち~
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騎士とメイドと王子様(1)

クラウス視点。

未だイセン国は遠く……。


 俺は死ぬつもりだったんだ。


 死んで“償う”つもりだと言えば聞こえはいいだろう。

 だけど実際は、死んで“楽に”なりたかっただけだ。

 俺を救いだしてくれた優しく可愛い姫様。

 けれど、姫様の側にいるには俺は穢れ過ぎていた。

 だから、こっそりと消えてしまおう。

 そう思っていたのに……。


『その命をいらないと言うのなら、私がもらい受けますわ! 命令よっ。これからは姫様のために生きなさい! 勝手に死ぬことは許さない!!』


 そう言って激怒している彼女は壮絶に美しかった。

 逃げ出すことばかり考えていた俺の手をとり、引きもどしてくれたのは彼女で。


 いつからだろう? 

 それが恋だと知ったのは。

 大それた想いだと知りながら、彼女の側に一生いたいと思ったのは。

 彼女は俺の生きる糧だ。

 彼女と共に姫様を御守りすること。

 それが、俺の生かされる意味。


(まだ死ねない)


 意識を覚醒させる。


 体が鉛のように重く、頭が割れるように痛む。

 風に舞う砂が視界を不明慮にしている。

 あの男とアランのところを出て、イセン国を目指していたはずだ。

 だが、途中で気を失っていたらしい。


(あれからどのくらい経った?)


 砂漠の真っただ中、すでに半身砂に埋もれている。

 このままでは、ここで朽ち果てることとなる。


(頼むから動け)


 そう体に命令したものの、指一本動かすだけでも苦しい。

 太陽の照りつけに、意識がまたも遠のきかける。

 俺は、こんなところで終わるのだろうか?

 姫様を守るためでも、あの男に一矢報いるでもない。

 道に迷って野たれ死ぬ。

 

「ははっ。笑い話にもならない」


 声に出すといっそう滑稽で笑える。

 彼女はきっと怒るだろう……そして、泣かせてしまう。


「勝手に死ぬのは許さないって言ったはずですわ」


 彼女の声が聞こえる。

 そんなはずはないのに。

 こんな砂漠の真ん中にいるわけがない。

 たとえ幻聴でも、彼女の叱咤は心地いい。


「イザベラ……ごめん」


 最愛のその名を呟き意識を手放した。


 


………………





「謝って許されるものではありませんわっ」

「すみません」


 憤怒の形相で俺を睨むイザベラに、正座をして頭を下げる。


「馬鹿だ馬鹿だと思っていましたけれど、ここまで救いようがない馬鹿だなんて思いませんでしたわ」


 降り注ぐイザベラの声は容赦がない。


 此処は、砂漠に立てられた風除け程度の簡易テント。

 イザベラの献身的な介抱のおかげで、俺は何とか意識を取り戻し動き回れるまでに回復した。

 そうして、さっそくイザベラに怒られているというわけだ。


「……私に黙っていなくなるだなんて許しませんわ」


 顔を上げると、今にも泣きだしそうなイザベラの姿があった。


「イザベラ」


 立ち上がると、小さく震える彼女を抱きしめる。

 いつも怒ってばかりのイザベラだけど、俺は知っている。

 本当は誰よりも優しく繊細なんだということを。

 そんなイザベラが愛しくて可愛いと思う。


「おいっ。こら! 貴様ら、俺の存在忘れているだろっ」


 優しくイザベラの涙を拭っていると、言葉の通りすっかり忘れていたもう一人が声を荒げる。


「きゃっ。も、申し訳ありません!」


 イザベラは力一杯俺を突き飛ばす。


 未だ体力が全快していない俺は、そのまま砂の上に顔から落ちる。


「誰のおかげで助かったと思っているんだ。まったく」

「もちろん、感謝しております。アルテュール殿下」


 久しぶりにあったリンゲン国第二王子は、相変わらず美しい見目をしている。

 まさか、こんな場所で出会うとは思いもしなかった。

 砂漠で倒れた俺は、砂馬で駆けてきたイザベラとアルテュール殿下に助けられたのだ。


「本当にお手間を取らせて申し訳ございません。なんとお礼を申し上げたらよいか」

「別にいい。イセン国に行くルートの途中だしな。それに、こんなダメ騎士でもいなくなればリディが悲しむだろう」


 そっぽを向いているのは、照れているからだろう。


「あの、それでなぜイザベラとアルテュール殿下が一緒なのですか? それに、俺のことをどうやって知ったのでしょう?」


 アルテュール殿下は隣国の第二王子で、姫様とエドゥアルト殿下の幼友達。

 その縁でイザベラとも面識はあるが、それほど親しい間柄というわけではないはずだ。

 俺の問いに、イザベラはひどく複雑な顔で口を開いた。


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