将軍の依頼(2)
「ところで、リルディは仕事の方はどうなのですか?」
「うん。まだ慣れないけど、何とかがんばっているわよ」
「それはよかった。自分もですが、カイル様もかなり心配されておりましたので」
何気なく出たその名に、また心臓が跳ね上がる。
「……」
「……もしかして、カイル様と何かあったのではないですか?」
「!?」
思わず言葉に詰まり、おかしな沈黙が流れる。
「カイル様が何か無礼を?」
私の様子にエルンの顔色が変わる。
「そ、そうじゃないのっ」
あれは、カイルも考えあってのことだ(多分)
おかしいのは、過剰反応してしまっている私なんだから。
「何か、嫌な思いをされたわけではないのでありますね? その……」
言いかけて目線を反らして口ごもるエルン。
何かを言い淀んでいる。
「うん」
嫌ではなかった。
ただ、ちょっとびっくりしただけだ。
「はぁ。まったく仕方のない奴だ」
独り心地でそんな呟き漏らすと、私へと視線を向ける。
「リルディ、少し時間を作っていただくことは出来ますか?」
「え? えーと、午後の早い時間に一度休憩があるから、その時間なら大丈夫だけど」
「貴重な休み時間に申し訳ないのですが、この屋敷の北の奥にある”書庫”に、これを届けていただけますか?」
そう言って、エルンはリボンのかかった手のひらサイズの、正方形の小箱を差し出す。
「可愛い小箱だね」
白いリボンに箱は淡いピンク色に花の模様があしらわれていて、綺麗で可愛らしいものだ。
女の子が好みそうなデザイン。
私も例にもれず、その可愛らしい小箱に顔が綻んでしまう。
「よかった」
そんな私の様子を見て、何だかエルンは嬉しそうに微笑む。
「?」
「あ、あと、少々お待ち下さい」
そう言うと、小箱のリボンに挟んであったメッセージカードらしきものに、更に何かを書き足すと、元の場所に戻す。
「では、よろしくお願い致します」
「それで、これは誰に届ければいいの?」
「カイル様にです」
「えぇ!?」
思わず、おかしな声が出てしまう。
「申し訳ありません。自分はこれから火急の用事があり、届ける時間がないのであります」
「で、でも……」
よりにもよってカイルにだなんて。
「そうそう。それから、お茶もお持ちいただけますか? 二人分」
「二人分……」
ということは、カイルの他に誰かいるということになる。
お客様がいるのなら、これを渡してすぐに部屋を出てしまえばいい。
「うん。分かったわ」
「助かります。それではお願いしますね」
いつものように、礼儀正しく一礼する。
「うまくいくことを願っております」
そう言った顔がなんだか、少しだけ寂しそうにみえてしまう。
でもそれも本当に一瞬のことで、すぐにいつものように晴れ渡る空のような笑みへと戻る。
「? うん。きちんと届けるから安心して」
私は小箱を握りしめて、エルンへと笑みを返すのだった。




