表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
そして姫君は恋を知る  作者: 未華
決意編~そして姫君はメイドになる~
35/180

姫君、メイド見習いになる(5)


「……」

「……」


 二人は無言になる。


「ご、ごめんなさい。立ち入ったことを聞いてしまって。答えたくないことなら別に……」

「いや。そうではなくて……俺にも分からないのだ」


 私の言葉を遮り、カイルは憮然とした顔で答える。


「分からない?」

「襲った相手が誰なのか。目的は何なのか。俺にも分からない」

「そっか。心当たりがないのね」

「いや、あるが」

「うんうん。そうだよね。ある……あるの!?」


 うっかりそのまま聞き流しそうになったけれど、カイルはすんなりと私の言葉を否定した。

 理由は分からない。

 けれど心当たりはある。

 矛盾した答えだ。


「あぁ。ある……というか、昔からありすぎて、絞り込めないというのが正しいな。そういう地位にいるのだし、仕方のないことではあるがな。……ただ、今回のことは少々毛色が違う事態だ。首謀者を割り出す必要がありそうだ」

「確かに。色々と調べる必要がありそうです。自分も動きます」

「頼む。砂漠で、暗殺者の一人ぐらい生け捕りにするべきだったのだがな」

「生け捕ったところで、口を割る可能性は低いでしょう。カイル様を襲ったのです。命をかけるくらいの気合のある輩だったかと」

「……」


 二人の会話に言葉を失くす。

 命を狙われたというのに、まったく動じる様子もない。

 しかも、昔からありすぎることって……。

 大国はかなり物騒なところだ。

 と聞いてはいたけれど、貴族というだけで命を狙われてしまうなんて、なんて恐ろしい。

 クラウスが慌てふためいて付いてきのも頷ける。


「どうした? いきなり静かになったな?」


 黙りこんだ私をみて、カイルが不思議そうな顔をしている。


「申し訳ありません。恐がらせてしまいましたね。大丈夫ですよ。屋敷の警護は、強固なものになっておりますので。暗殺者が忍び込むなどという失態は、二度と起こらないでしょう」


 怯えていると解釈したエルンストさんは、私へと優しい笑顔を向ける。


「それに狙いは俺だ。俺に近づかなければ、何の心配もないさ」


 カイルのその言葉に私は口を開く。


「そんなわけにはいかないわ。私はココのメイドになったのよ? カイルはこの屋敷主。つまり、私のご主人様なのよ。ご主人様の命が狙われるなんて大事じゃない!」


 興奮気味にいう私にカイルは少したじろく。


「おま……ご主人様って……」


 珍しく動揺しているみたいだ。

 妙に歯切れ悪く言葉を転がし、口元を押さえたまま私から視線を外す。


「カイル様のお心をここまで惑わせるとは……。さすがであります」


 なぜかエルンストさんは、感心したように大きく肯く。


「え~と?」


(私、何かおかしなことを言ったかしら? だってイザベラはよく、『メイドはご主人様命! 姫様は我が主。不逞の輩が現れたら、体を張ってお守りいたしますわ!』って、ことあるごとに言っていたし。カイルは私の主になるわけだし、おかしなことは言っていないはずなんだけど)


 二人のおかしな反応に戸惑ってしまう。


「ともかく……だ。自分のことは自分で何とかする。お前は心配せずとも良い」

「砂漠で行き倒れかけたくせに……」

「何か言ったか?」

「いいえ。なんでもないです」


 威圧的な視線を向けられ、私はとりあえず口を噤む。


「それでは、自分は戻ります」

「あ、はい。ココまで連れてきてくれてありがとうございました。エルン……」


 言いかけた私の口元に、エルンストさんは人差し指を当て言葉を止める。


「?」

「エルン、とお呼びください。プライベートでは、皆にそう呼ばれていますので」


 エルン……偶然にも私の国と同じ名前。なんだか親近感と安心感がある。


「では、エルンさん?」

「“さん”も取っていただきたい。それに敬語でなくて構いません。ココにいる間は、自分を身内と思い、気軽に話していただきたい」

「ですが……」


 そんなに馴れ馴れしくしてしまっていいものか判断に困り、カイルを見る。


「本人の希望だ。構わないだろう」


 カイルの答えに、私は一つ咳払いをしてから、エルンスト……エルンを見る。


「じゃあ、エルン。今日はありがとう」

「どう致しまして。よかった。これで自分も、あなたをリルディと呼べる」


 心底嬉しそうなエルンに私も笑みを返す。

 ニコニコと笑い合い、何だかほんわかとした雰囲気になる。


「エルンスト……」

「はっ。その、何か困ったことがあれば、すぐに教えてください。こちらには、定期的に立ち寄るようにするので」

「ありがとう。エルン」


 大国は物騒なところだけど、そこにいる人たちは、人情に熱い人たちなのかもしれない。

 私はそんなことを思ったのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ