想いの後先に(5)
「あー!! やっと見つけたっ! こんなとこで、何をやってんだよっ」
聞きなれた、緊張感に欠ける声がその場に響き渡る。
見れば、そこにはアランの姿があった。
「アラン? ……と、えぇ!?」
その場に現れたのはアラン一人だけではなかった。
後に続き、ユーゴとエルンスト。
それに、ネリーとラウラの姿があった。
「なんだ。もうバレたのか」
隣りでカイルが憮然とした面持ちでボソリと呟く。
「へ? あの、バレたって……まさか!」
「えぇ。そのまさかです。臣下に何も告げず城下で逢引とは、とても一国の王とは思えない浅はかさですね」
絶対零度の眼差しを向け、ユーゴが綺麗な笑みを浮かべている。
これは相当に怒っている証だ。
「そういうのを黙って見守るっていうのが、出来た臣下ってもんでしょうに。相変わらず、融通が利かない男だわ」
「……」
「そういうことで、ちょっと早めだけど迎えに来たわよ。あらら。髪色が元に戻っちゃってるわね」
射殺さんばかりのユーゴの視線をものともせず、ネリーはニコリとリルディにほほ笑む。
「迎えって……。どうしてここが?」
「近くまではアランさんが運んでくださって。それから、ラウラが気配を探ってここまで。あの、お邪魔してしまって、ごめんなさいなのです」
寄り添う二人の姿を見て、ラウラはモジモジとしながら赤くなる。
「まったくだ。余計なこと……」
「ありがとう。ラウラたちが迎えに来てくれて嬉しいよ」
思わず本音を漏らすカイルの口を押え、リルディは取り繕う様に言い放つ。
「今日は一日、自由にしていいと言っていなかったか?」
「急務が発生致しましたので。これだけ、好き勝手やったのですから、もう満足でしょう?」
リルディの手を退け、不満を口にするカイルに、ユーゴは冷めた眼差しを向ける。
「それにしても、なんでこんな町はずれに? ……まさかっ! カイルワーン王。リルディに、おかしなまねはされていないでしょうね!?」
人気のない場所で男女が二人きり。
エルンストは、カイルへと疑惑の眼差しを向ける。
「……してない」
「って! なんだ、今の微妙な間は!? リルディは嫁入り前なんだぞっ。頼むから、節度ある付き合いをだな……」
「知るか。いつまでも兄貴風を吹かせるなよな」
思わず素を出し慌てふためくエルンスを前に、子供っぽくプイッとそっぽを向くカイル。
そんな珍しいカイルの姿に、こらえきれずリルディは噴き出す。
「俺なんて、時間稼ぎでそこの宰相様に突き出されてさ。すげー説教された。ひでーと思わねぇ? 姫さん」
「それは自業自得でしょう」
「あぁ。そうだな」
「同情の余地なし」
リルディが口を開く前に、その場にいた面々はバッサリと言い放つ。
「冷たっ。なんか、アウェー感半端ないのは何でだ!?」
「日頃の行いの積み重ねだと思うのです」
とどめに、ラウラの至極当然とばかりの答え。
「俺だって遊んでるようで、たまには仕事もしてんのに……」
「たまにって時点でダメでしょうが」
項垂れるアランに、ネリーは大きなため息とともにツッコミを入れる。
「ふふ。でもアランがいてくれて、私はすごく嬉しいもの」
「だよな! 姫さん、マジ女神」
抱きつかんばかりの勢いのアランから、カイルはリルディを引き離し、ジロリと睨む。
「な、なんだよ、王様」
「追いかけてきたら、エルン国につき返すからな」
そして憮然とした表情で言い放つ。
「カイル? どういう……」
キョトンとするリルディの手を掴んだまま、カイルは小さく呪いの言葉を転がす。
「えぇ!?」
体に感じる浮遊感。
何が起こったか理解する前に、体は空の上にたどり着いていた。




