決断の時(3)
辿り着いた重厚な一つの扉。
この部屋に誰がいるのか、もしかしたイセン国王がいるのかも。
なんてことを思って心臓が跳ね上がる。
「よ、よし!」
早くなった鼓動を深呼吸一つで落ち着かせ、勢いよく扉を開き、中へと足を踏み入れる。
「リルディ!」
「へ? うわっ」
小さいフワフワした何かが、私の胸に飛び込んで来た。
唐突な出来事に、軽くよろめきながらも、何とか押し留まる。
ピンッと伸びた黒く長い耳が、私の目の前でピコピコ動いている。
「ラウラ!?」
「うん。会いたかったよ、リルディ」
紅い瞳に涙を溜めたラウラが私を見上げている。
「私も会いたかった」
会わなかったのはほんの数日だというのに、懐かしさと愛おしさがジワジワと込み上げてくる。
「でも、どうしてラウラが? それにその恰好って……」
体を離して、改めてラウラを見れば、いつものメイド服じゃない。
大きなキャップもグルグルメガネもしていない。
それどころか、真っ青なサテンの正装ドレスに身を包み、フワフワ綿あめみたいな髪には大きな花の髪飾り。
「うわぁ」
もう感嘆の声しか出ない。
なんていうか、破壊的な可愛らしさなのだ。
「リルディ?」
未だ大きな紅い瞳を潤ませて、長い耳をほんの少し折り曲げて、小首を傾げるラウラ。
「可愛い!!」
我慢できなくて、今度は私がラウラに抱きつく。
「え? え? リルディ?」
訳が分からないというように、オタオタとするそんな姿も愛らしすぎる。
「うふふ。彼女の素材も然ることながら、私のセンスも完璧ですわね」
一気に和んだ私の耳に届いたのは、意外すぎる人物の声。
「何で!? どうなっているの?」
「お久しぶりでございます。姫様」
スカートの裾を持ち上げて、優雅に挨拶をしたのは、エルン国にいるはずのイザベラだった。
「イザベラまで。どうなっているの一体……」
「姫様ったらひどいですわ。イセン国に行かれることを私にまで内緒になさるなんて。クラウスなんかよりずっと、私の方がお役に立ちましたのに」
自分の恋人を“なんか”呼ばわりして、イザベラは拗ねたように口を尖らせる。
「ごめん。急なことだったし、イザベラには心配かけたくなかったから」
「ふふ。いいですわよ。こうして再会できたんですもの。水に流しますわ」
「っていうか! どうしてイセン国城にイザベラが? さっきアルにも会ったし、いつ此処に来たの?」
「お話したいのは山々なのですけれど、お時間があまりなくて。説明はことが済んだ後に致しましょう。あとは姫様だけですから」
艶やかな笑みと共にそう言い放つイザベラに、問いを放とうとしたその時、奥の部屋の扉が開いた。




