光の中
リルディ視点。
目覚めるとそこには……。
『リルディ』
あぁ。誰かの声がする。
優しくて温かい声。
「……」
答えたいのに声が出ない。
目の前は相変わらずの暗闇で、誰がいるのかさえ分からない。
「リルディ」
でもこの声を私は知っている。
朦朧とする意識の中でそれだけは分かる。
なくなりかけの“私”を呼んでいる。
手を伸ばせば届くだろうか?
どれが手なのか、その感覚も薄らいでいて、それでも私は必死に届くことを祈る。
大好きな愛しいその人に届くことを。
「リルディ!」
「カ……イル?」
声が出る。
息が出来る。
不思議な感覚。
先ほどまで消えかけていた私の体はそこにあって、目を開ければ、そこは光にあふれていた。
「あぁ、よかった。目を覚ましたのだな」
優しい笑みを浮かべるカイルが目の前にいる。
「夢じゃない?」
私を抱きかかえるカイルの首に腕をまわし、その体温を確かめる。
「あぁ。迎えに来た」
このうえなく優しいその声が、恐怖心を溶かして、意識が徐々に鮮明になっていく。
「一緒に帰ろう。皆が待っている」
「うん。だけど、ここはどこ? それに、これって……」
そこは暗闇の空間。
けれどなぜか、私とカイルの体から金色の光が放たれている。
それに、カイルの瞳は闇夜色ではなく、今は鮮やかな金色だ。
金の瞳を見るのはこれで二度目。
前に見たのは魔力を暴走させた時だったけど、今のカイルはあの時みたいに苦しそうじゃない。
「魔力を解放したんだが、暴走せずに安定しているんだ。それどころか、力が漲って、今までにないほど魔力が馴染んでいる。お前の力なのだろうな」
「どういうこと? 私、何もしてないよ?」
「側にいるだけでいいんだ。リルディに触れているだけで、俺は俺でいられる」
抱きかかえられたまま、真剣な眼差しでそんなことを言われて、体温が急上昇していくのを感じる。
今更だけど、何で私はカイルに抱きかかえられているんだろう?
自分で立てるからと、地面に降ろしてもらったけれど、離れることを拒む様に、カイルは私の腰に腕を回したままだ。
「あの……私に触れているだけでいいって……」
「あぁ。お前の特異能力だ。相手の魔力を拒絶し吸収する。その吸収した魔力が今、リルディを通して俺にも伝わっている。俺の魔力と交じり、うまく安定しているようだ」
思い切り真顔で説明が付け加えられる。
(つまり、抱きしめられているようなこの体制は、魔力を安定させるためってことなんだよね)
そう思ったら、何だか一人で意識している自分が恥ずかしくなってくる。
「リルディ? どこか痛むのか?」
「ううん。大丈夫! 何でもない。あの、それで此処はどこなの?」
この状態を意識しないように自分に言い聞かせ、無理矢理話題を切り替える。
「ここは、お前を捕らえる為にイサーク・セサルが作った空間の中だ」
「そっか。私、あの人から逃げて……あ! アランは!? 私、途中までアランと一緒にいたの。ひどい怪我をしていて、早く手当をしなくちゃいけないの」
「はぁ。あいつは無事だ。途中でエルンストが拾ってきたから問題ない」
「そっか。良かった」
「あのな、お前は人の心配をしている場合ではないだろう」
「あはは。そうでした。ごめんなさい」
あらためて周りを見渡せば、どこもかしこも一面暗闇。
私たちを囲むように黒い靄が四方に渦巻いている。
カイルが側にいてくれるから安心してしまったけど、これはけっこう……というか、かなり危険な事態なんだろう。
カイルが呆れるのも無理はない。
「さて、そろそろ此処を脱出しなければな」
「でも、どうやって?」
周りに出口らしきものは見えない。
というか、私とカイルの周り以外、暗闇が広がるばかりだ。
それに、私たちを飲み込もうと、蠢く黒い靄が徐々に距離を縮めてきているようにも見える。
「お前の魔力を俺に貸してくれ」
「うん。私が役に立つのならいくらでも。どうすればいいの?」
「手を」
差し出された手を取ると、指と指を絡めるように強く握り返される。
温かく大きなその手に触れると、心が満たされ安堵する。
カイルの魔力が私に、私の魔力がカイルに。
カイルと私の魔力が交じり合っているのが分かる。
光は一つになり、闇を照らしすべてを包み込む。
そして悪夢は終わりを告げた。




