表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
そして姫君は恋を知る  作者: 未華
再会編~そして想いは一つになる~
140/180

狂気に囚われて(3)


「ホントに姫さんは、色んな奴に捕まるよな。歩くトラブルメーカーつーか」


 いつもみたいに軽口を叩きながらあやふやに笑う。

 ずっと色のついたメガネをかけていたから、アランがこんな瞳をしていたなんて知らなかった。

 こうして改めて日の光の下で見ると、本当に不思議な色だ。


「……」

「あぁ。やっぱ、気味悪ぃよな。この色」


 見慣れない鋼色の髪と瞳に見入っていたことに気が付いて、アランは苦笑を浮かべながら、おどけたように言い放つ。


「そんなことない。綺麗だと思うわ」


 初めて見る不可思議な色。

 それは二つの大陸の民の血が交じり合って出来た色なんだ。


「は? いやいや。そういう慰めは逆に傷つくっつーか。俺はこんな色大嫌いだしさ」

「慰めじゃないわよ。初めて見た時はね、雨が降る前の空の色だなって思ったの。だけど太陽の下で見ると、青みがかっていて、すごく優しい色が見えるの。アランの色は夜明け直前の空の色でもあるんだわ。いろんな色が入り混じっていて綺麗で、つい見惚れてしまうの。私は大好きだわ」


 アランの両親のことを思うと、簡単に口にするべきなのではないのかもしれない。

 それでも、本当のアランであるこの色を嫌いになれない。

 どんな過去があろうと、見た目が変わろうと、アランはアランで、私が知っているアランに偽りがあるわけじゃない。


「だーっ! な、なんか、そう凝視されっと、居たたまれなくなる! つか、んなこと言ってる場合じゃねーんだっ。今だしてやる……っ」

「? どうし……!」


 言葉は不自然に途切れ、アランはゆっくりとその場に崩れ落ちる。


「アラン、しっかりして!」


 声をかけるけれど、その声に反応することなく、苦悶の表情を浮かべ倒れ込んだままだ。


「あんな子供だましで、俺が倒せるとでも? 君はそんなに愚かだったのかな?」


 アランが崩れ落ち、その後ろには悠然と私を見下げるイサークの姿がある。


「何をしたの?」

「呪いの魔術。全身を激痛が苛んでいることだろうさ。このまま苦痛に耐えきれず自ら命を絶つか、体が耐え切れずこと切れるか……。どちらにしろ、野良犬に相応しい死に方だろう?」


 その言葉に、私の中の何かが切れる。

 体が熱くなって、怒りとともに、何かが止めなく湧き上がる。


「やめて。アランは私の友達だわ。あなたに侮辱されたくないっ!」


 パアァン!!


 叫ぶのと同時に、私を閉じ込めていた檻が音を立てて崩れ去る。

 檻の残骸がパラパラと降り注ぐ。

 イサークはひどく驚いたように目を見開き、けれど次の瞬間には、恍惚とした表情で口元を緩め、視線を私へと向ける。


「……」


 その眼差しには、獲物を見つけた獣のような執拗さがある。

 この人は危険なのだと、本能で感じる。


「いい力だ。やはり魔力を込めた檻では、お前を閉じ込めてはおけないか」


 アランがもだえ苦しむ横で何が楽しいのか、愉快そうに笑みを浮かべてさえいる。

 それが無性に腹立たしくて、頭にのぼった血が沸騰してしまいそうだ。

 恐怖よりも勝る怒りで体が震える。


「姫……さ……」

「アラン!」


 警戒心と怒りとが入り混じりその場から動けずにいた私は、アランの吐息にも近い呼び声に我に返る。


「逃げろ。あともう少し……から」

「いいから、しゃべらないで!」


 屈み込んだ私の頬を、アランが震える手でそっと触れる。


「悪ぃ……。俺、あいつに未練があって……姫さんに近づいて。なのにさ、姫さんはあいつとも違くて、けどあったかくて一緒にいると満ち足りるんだ。だから、つい側にいついちまった。俺、マジどうしようもねーんだよ」


 アランは焦点の定まらない目で、まるでうわ言のように言葉を絞り出す。


「なんで? アランは大事な友達だわ。側にいていけないことなんて何にもないじゃない」


 “あいつ”が誰なのか私には分からない。

 私はまだまだアランのことを何も知らない。

 だけど、どんな過去があったとしても、アランが私の友達だということは変わらない。


「ははっ。こんな奴友達とか言う……! うっ。あ……あ……」


 ビクリとアランの体が跳ね上がる。

 瞬きの仕方を忘れたかのように瞳孔が開き、浅い息を幾度となく繰り返し、しきりに胸元をかきむしる。

 悲鳴にならない悲鳴を上げているみたいだ。


「魔術を解いて! アランが死んでしまうわ」

「だからそうするつもりだと言っただろう? 彼は俺を怒らせた。当然の報いだよ」


 平然と、本当に平然とイサークは言い放つ。

 動揺の欠片も示さず、悠然と笑みを浮かべてアランを見下ろすその姿は、まるで死神だ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ