集う者たち(1)
アルテュール視点。
リルディが連れ去られた後、アルテュールたちは……。
「アルテュール殿下、本当によろしかったのでしょうか?」
「あのまま、あそこにいるよりはマシだろ」
不安げなイザベラを一瞥し、俺は事もなげに言い放つ。
事態は唐突に動いた。
町の安宿に足止めを食らっていたのだが、リディが滞在している屋敷へと連れて来られたのだ。
誘われるまま、応接と思しきこの場所で待つよう言われ今に至る。
「ともかく先に着いているはずの……」
「どうしてお前が此処にいるんだ!?」
俺の言葉は、ごく近くで放たれた、叫ぶような声にかき消される。
しかもこの声は……。
「クラウスの声ですわ」
恋人であるイザベラは迷いなくそう言い、困惑気味に窓の外へと視線を向ける。
「何をしているんだ、あいつは」
今の声はどう聞いてもリディへのものではない。
だとしたら、誰のことなのか。
そんな疑問にかられていると、もう一人男の声が耳に届く。
「賊に成り下がるとは見下げた者だな。だからあの時、俺のモノになっていればよかったんだ。いや、今からでも遅くない! 俺に身をゆだねろ」
続いて聞こえてきた男の声に思わず耳を疑う。
「だから、賊じゃないっ!! それから、その話はもう断ったはずだ。俺には心に決めた相手がいるんだ」
きっぱりと言い放つクラウスに、相手は間髪入れずに声をあげる。
「俺は諦めない。お前ほどの男、そうそう出会えるものではない。俺の元に来ることがどれほど意味のあることなのか、体で分からせてやる」
「……はぁ。分かった。そこまで言うのなら、受けて立とう。出来るものなら……だけどなっ」
「男に二言はないな。もう逃がさない」
言葉の応酬にただただ唖然とする。
「……」
隣りにいるリディ付のメイドであり、クラウスの恋人であるはずのイザベラは、先ほどから硬直したまま微動だにしない。
「い、いいのか? あいつ、受けて立つらしいが……」
「よくありませんわよ?」
「ははっ。だよな」
笑えないのだが、空気が凍りつきすぎて笑うしかない。
(クラウスが男に言い寄られている? いや、受けて立つということは、あいつもそういう気があるのか?)
そんな考えが過りつつ、ありえないだろうとイザベラに同意を求め視線を向けると、ニコリとほほ笑みを返された。
目がまったく笑っていないが。
「ここで会ったのが運命。必ず、お前をいただく!」
「なら、力づくで来ればいい」
そこまで聞き終えて、イザベラは無言のまま外に飛び出し、バルコニーへと降りる。
「お、おいっ」
そして徐に取り出したのは、銃という恐ろしく物騒なもの。
俺が止めるまもなく、声の方向へと銃口を向け引き金をひく。
バアァン!!
「うわぁ」
木々に遮られ姿は見えないが、狼狽するクラウスの声が響く。
「外れてしまいましたわね」
「……」
絶対零度の眼差しを向け呟いた言葉に血の気が引いていく。
「あ、当てるつもりだったのか?」
「ふふ。冗談ですわ」
口元に微笑を浮かべつつ、その目は相変わらず笑ってはいない。
「……」
冗談なのか本気なのか定かではないが、こいつを本気で怒らせたらいけない。
俺はそう心に強く刻んだ。




