表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
そして姫君は恋を知る  作者: 未華
すれ違い編~そして想いは交錯する~
112/180

強引な求愛

リルディアーナ視点。

カイルを追いかける途中に遭遇したのは……。


 私は、カイルに伝えなくちゃいけないことがある。


 ずっと憧れていた、“恋”をするということ。

 だけど、それは物語で聞くような甘いだけの話じゃなかった。

 痛くてつらくて、分からないことだらけだ。

 傷つくのが嫌で臆病にもなる。


『叶わない願いはたくさんありますが、叶う願いも同じくらいあるんです。言葉は“想い”を伝えるためにあるんですよ』


 クラウスの言葉が私の背中を押す。


 今度こそ、私のありったけの想いを伝えよう。

 臆病になりかけている気持ちを奮い立たせ、全力で走る。


「きゃっ」

「おっと」


 唐突に現れた人物とぶつかり、そのまま転びそうになる私を、相手は寸でのところで支え止めてくれた。


「ご、ごめんなさいっ」

「いや。それよりそんなに急いでどこにいくの?」

「あれ?」


 聞き覚えのある声に相手を見上げると、相手はレイだった。


「レイ。カイルを見なかった?」

「兄上を探しているの?」


 ニコニコと笑みを浮かべたレイの問いに、私は大きく頷く。


「私、カイルに大切な話があるの」

「僕もリルディに話があるんだ」

「え?」


 予想外の切り返しに一瞬虚を突かれ、気が付くとそのまま抱きすくめられていた。


「お願いだから、僕のモノになってよ。どうしても君じゃなきゃ嫌なんだ」


 反射的にその腕から逃れようと体を動かしたけれど、力が強くてびくともしない。


「は、放して」

「嫌だ。放したら、君は逃げてしまうから」


 その声音はどこかヒヤリと冷たい響きがあり、いつも陽気なレイとは対照的だった。


「前にも話したわ。私はあなたのところにはいかない。お願いだから放して。私はカイルのところに行かなくちゃいけないの」

「……」


 必死に訴えかけると、レイは無言のまま私から体を離す。


「レイ。ごめんなさい」


 ひどく憮然とした表情のレイに頭を下げ私は踵を返す。


「テオ」

「え?」


 レイが名を口にしたと同時に、目の前にテオさんが姿を現す。


(魔術?)


 忽然と現れるそれは、アランが魔術で姿をみせる時によく似ている。

 そんなことを思っていたら、テオさんは私へと手を伸ばし、そのまま軽々と抱き上げる。


「なっ。なにするの!?」

「……」


 クラウスに抱き上げられることはあるけれど、それをするのは、私の騎士であるクラウスの特権だ。

 しかもいかにも不服そうな顔で、面倒な荷物を運ぶように、横抱きにされるという。

 扱いがおもいっきり雑だ。


「ちょっと! 離してよっ!!」


 ここに来て、レイは無理矢理に私を連れて行こうとしているのだと合点がいく。

 おもいきり暴れてみるけど、まったくビクともしない。


「テオ。リルディを落としたら許さないから。ちゃんと丁重に運ぶんだよ」


 楽しそうなレイの言葉の後で、テオさんの小さな舌打ちが聞こえてきた。


「分かっている」


 横抱きにされている時点で丁重じゃないじゃないっ。

 思わずツッコミたくなるけれど、今は逃げることの方が先決だ。


「レイ! 冗談にもほどがあるわよ? 一体どういうつもりなの!?」

「後でゆっくり話すよ。テオ、頼んだよ」

「人使いの荒い奴だ」


 忌々しそうにそう言い捨てると、背に帯びていた大剣を引き抜き、虚空へと投げつける。


「え? えぇっ!」


 数メートル先に飛んだ剣は、不自然に軌道を変え、剣先で空に線を引く。

 線は丸く繋がり光あふれる穴が出来上がる。


「魔術師なの?」

「……そんなものより、ずっと堕ちた存在だ」


 問いに答えるというよりは、自嘲するかのようにそう吐き捨てる。


「じゃあ、帰り道も出来たし、行こうか。リルディアーナ」

「え?」


 自然に呼びかけられた名にヒヤリとする。

 どうして、レイが私のホントの名を知っているのだろう?


「は、放して! 私はカイルのところに行かなくちゃいけないのっ」

「絶対に行かせない。君は僕のものだから」

「……」


 私の想いは無視されたまま光の穴へと向って歩き出す。


「あなたたち、何をしているの!?」


 光の穴へテオさんが一歩踏み入れた時、視界の端にネリーの姿が見えた。

 横抱きに抱えられている私の姿に、ひどく驚いた顔をしている。


「ネリー! 助けてっ」


 ありったけの声を張り上げたけれど、私はそのまま光の中に吸い込まれ、声は途中で途切れてしまったのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ