もう一つの再会(1)
クラウス視点。
再会した最愛の主の変化に気が付き……。
「姫様……」
茫然と男の背を見送る姫様。
声をかけ、振り返ったその顔に思わず息を呑む。
憂いを含んだその表情は、俺の知っているお転婆で天真爛漫な少女とは違う、儚げでそれでいてハッとさせられる美しさがある。
(離れていたのは僅かな時間だっていうのにな)
時間なんて関係ない。
そんなことよく分かっている。
俺がイザベラに惹かれたのだって、瞬く間だった。
それでも、何とも言えない物悲しい想いが込み上げてくるのは、仕方のないことだろう。
それは、姫様を守り続けてきた俺の役目が終わりに近づいていることを意味しているんだから。
「姫様は、あの方が好きなのですね?」
「なっ。ど、どうしてわかるの!?」
「俺は姫様のことなら、大概のことは分かります。……だから、今だって我慢しなくていいんですよ」
拒絶された戸惑いと不安。
けれど、それを悟られないよう、必死に隠そうとしている。
昔からそうだった。
素直に感情を面に出しているようでいて、自分の悲しみや苦しみはひた隠しにしようとする。
独りで抱え込んで、俺にすらなかなか打ち明けようとはしない。
「……」
うつむいて黙りこんだ姫様の前に片膝をつき、その瞳を覗き込む。
目が合った瞬間、姫様は顔をくしゃりとして唇をかむ。
「誰にも言ったりしません。だから、俺にだけ聞かせてください」
姫様の瞳から雫が流れ落ちる。
「……私はカイルのことが好きなの。カイルと離れたくない」
言葉を吐き出しながら、姫様は小さな子供のように泣きじゃくる。
「叶わない願いはたくさんありますが、叶う願いも同じくらいあるんです。言葉は“想い”を伝えるためにあるんですよ。姫様の“想い”は言葉にしましたか?」
俺の言葉に、姫様は小さく横に首を振る。
「俺はどんなことがあっても姫様の味方です。だから、姫様は思う通りにすればいいんですよ」
「国の騎士団長がそんなこと言っていいの?」
「ははっ。そうなんですよね」
本来なら、速攻でエルン国へ送り届けようと考えていたんだ。
だが、姫様のあんな顔を見せられたら、降参するしかないじゃないか。
「国の騎士団長の前に、俺は姫様の騎士ですから。姫様の笑顔を見ることが、最優先事項です」
「……クラウス、ありがとう」
姫様はやっと少しだけ笑みを取り戻す。
「早く追いかけてください。多分、あの方は大きな誤解をされていると思いますし」
「誤解?」
歯切れ悪く言葉を転がす俺を見て、姫様は不思議そうに首をかしげる。
「……俺の所為で、色々ややこしくなってしまったかもしれないですね」
先ほどの相手の様子を思い返す。
あれはどう見ても、姫様と俺の関係を誤解していた。
こんなにも美しく成長したというのに、姫様はこういったことに関しては、本当に幼いのだ。
ことの重大さをまったく認識していない。
「俺のことはいいですから行ってください」
俺が一緒だとまた変な誤解が生じる気がする。
姫様の肩を後ろから軽く押し出すが、その場を動こうとせず、何か言いたげな瞳を俺に向ける。




