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「コニー様!アリサが……!」


馬車に辿り着く前にノアはガーネット公爵家の護衛に止められるが、コニーの方が馬車から降りて、彼に駆け寄った。


「状況は聞いているわ。彼女の容態はどうなの?」

「まだ意識が戻らない。母さんと来てくれた医者の見立てだと、毒に打ち勝てるかどうかはアリサ次第だって……」

言いながらノアの瞳から涙が溢れ出す。幼馴染みが生死を彷徨っているのだ。動揺して当然だ。

「解毒薬が上手く効かなくって、高熱にうなされてる。発汗で毒を放出できたらいいけど、アリサの体力がもつかどうか……」

「コニー。とりあえず、馬車の中に入ってもらって」

ノアにかける言葉に詰まるコニーに、アーヴィンが冷静に声をかけてきた。

確かに、街中で立ち話するような話ではない。護衛の人も困っている。コニーはノアの肩を抱いて、馬車の中へ促した。


「何で?何でアリサがこんな目に遭わなくちゃならないんだ!?」


大人しく入って来たノアは、扉が閉まった途端、コニーの肩に縋りついて叫んだ。


「……たしかにアリサは強かだよ。お父さんの商売を盛り上げようと彼女なりに出来ることをしているんだ。玉の輿とかも思いっきり狙ってるよ。多分、あんまり深く考えず、王子様とかあわよくば射止めてみたいなとか思っちゃってたんだと思う……。でも、その反面、傷つきやすくて純粋なんだ!」


アーヴィンが羽交い締めしてコニーから引き剥がすが、ノアからは堪えていたものが次々溢れ出す。

ずっと抱えた幼馴染みへの心配。何かトラブルに巻き込まれるんじゃないかという不安が現実のものとなり、ノアの感情が爆発してしまう。



「アリサは誰かを傷つけるつもりはなかった!!気に食わないことがあったからって、何も殺そうとすることないだろう!!あんたら貴族は、平民おれらを何だと思ってるんだ!?」



「落ち着きなって」


アーヴィンがノアを羽交い締めしながら頭をぽんぽんっと軽く叩いて撫でる。

「何するんだよ!?」

「興奮してるから落ち着かせようと思って。馬とかも手綱を引いて撫でると効果あるでしょ?」

「誰が馬だ!?」

少しズレているが、アーヴィンのおかげでノアの気が多少紛れたようだ。アーヴィンの言葉に突っかかりながらも、体の力が抜けていくのがわかる。

アーヴィンが拘束を弛めると、ノアは脱力して座席に座り込んだ。

「ノア。今回はいつもの貴族達の嫌がらせじゃないわ。ピスフルさんはもっと大きな問題に巻き込まれているの。……それどころか、当事者だし」

「どういうこと?」

このまま何も言わずに放って置くことは出来ず、コニーはノアの誤解だけは解こうと口を開くが余計なことまで言ってしまった。あっと気づいて口を塞いだ時には遅く、ノアがずいっと迫ってきて、さすがのアーヴィンも呆れ顔でコニーを見ていた。

「そこの君、今のは聞かなかったことにして。そろそろ帰ろう、コニー」

「ちょっと……待って!ちゃんと説明して!」

「君が知らなくていいことだ」

「これだから貴族は……こっちは巻き込まれて死にかけてるんだぞ!さっき様子を見に来ていた王子もそうだ!あいつが不用意に近づかなかったら、アリサはこんな目に……!!」

「えーと……」

間に入ったアーヴィンにも噛みつくノアに対して、コニーはどうしたものかと考えを巡らせる。既にアーネストと遭遇して一悶着あったことを匂わせられて、ものすごく気になるが今は置いておく。

「ごめん!とりあえず、ピスフルさんが成績優秀だったり、王子とか高貴な方々とお近づきになったことが気に食わないお嬢様方のいつもの嫌がらせではないってことだけ知っておいて!」

王子とお近づきになったことに嫉妬して思い詰めた悪役令嬢の仕業という可能性もあるが、それを言うとややこしくなるので、コニーは今度こそ意識して口を噤んだ。



もし本当にパトリシアの策略でアリサが襲われたのだとしたら、こんな大事になっては今後のパトリシアの状況が心配だ。

──だが、最も心配なのはアリサの解毒がまだ出来ていないということ。

王宮医でも処置しきれないなんて、相当な毒物なのだろうか。あるいは、とコニーの妄想スイッチが入った。



……これってもしかして、好感度の高い攻略対象が、解毒薬か薬草を手に入れてヒロインを救うってイベントじゃない?




「……ノア。薬草ってどこで調達してるの?」



とにかく、一刻も早く毒で苦しむアリサを助けたいと思ったコニーは、このイベントにも介入することにした。

攻略対象がすぐに気づくかもしれないが、具体的にいつそうなるかコニーではわからない。そんな不確かな状態で、わかっているのに苦しんでいる姿を見ているだけなんてできない。













──その後、ノアが見つけた薬草で作った解毒薬が上手く作用し、翌日にはアリサが意識を取り戻したとの連絡がコニーの元に届いた。






結局、コニーに出来たのは乙女ゲームの展開を予想して、もっと効果のある解毒薬の材料があるのではないか、それがどういう所で手に入るのか、思いついたことを伝えただけだ。


異世界チートだったらどんなに良かっただろう。

恐ろしい毒物に侵された患者を救った医師や看護師がいることは知っている。でも、どうやって救ったのか、何が必要なのかを知らない。

インフラの整備や教育制度の確立、バランスの取れた料理や栄養満点な食物の生成、頑丈な建築物や便利な物の作り方、強敵を倒すための武術……コニーは何ひとつわからない。


自分が前世のようなものの知識を持つ意味は何なのだろう?



ここ最近の出来事から、そう思い悩むコニーだった。



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