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その後、コニーが王宮に滞在している間にアリサの意識が戻った報告はなく、翌日が学校のコニーは家に帰らされた。
エリオットが別室に呼んだり、リュカの話に立ち会わせたのは、コニーに今後の展開を予想させるためだろう。
しかし、コニーは今起こっていることの原因やこれからの展開についての妄想をエリオットに伝えなかった。関係者のことを考えると言うのが憚れたのだ。
エリオットから聞かれることもなかったので、彼も大体の予想は出来ているのかもしれない。
ただし、エリオットは帰り際に「絶対に危険なことに首を突っ込んだらダメ」と一言だけ伝えてきた。心配の仕方がまるでクリスティアンみたいで、やっぱり妹扱いだな、これはと思い、一瞬ときめいた気持ちがシュンっと萎むコニーだった。
──翌日、登校するとやはりアリサは欠席だった。
スザンナに挨拶するついでに隣のクラスを伺ったところ、ノアも休んでいるようだ。
クリスティアンも家に帰ってこなかったので、コニーは未だにアリサの現状を知ることが出来ていない。
……大丈夫。乙女ゲームなら今頃目を覚まして、ノアや他の攻略対象の誰かと交流しているに違いない、きっと!
コニーは不安を払拭するため、自分に言い聞かせた。
「そういえば、オニキス様も欠席なのよね。……あなたも様子がおかしいし、昨日のお茶会で何があったの?」
昨日のお茶会での出来事は、コニーがクリスティアンのことでエリオットに相談があったことを思い出しただけ、ということになった。
不自然に思われているだろうが、上流階級の子息ばかりなので、その辺りは教育が行き届いている。余計な口出しも、不用意に話を広めることもないだろう。
コニーもスザンナに言いたい気持ちをぐっと我慢する。
それより気がかりなのは、パトリシアが学校を休んだこと。
きっとパトリシアも苦しんでいるのだ。なんとかしてあげたいと思うが、忠告するくらいしか出来なかった自分をもどかしく思うコニーだった。
「コニー。今日は生徒会の活動が中止になったんだ。一緒に帰ろう」
気を揉みながら迎えた放課後、アーヴィンがそう言ってコニーを誘った。
何でも、今日の生徒会はミーティングだけの予定だったが、生徒会長であるアーネストが学校に来ておらず、急ぎの案件もないので生徒会自体休みということになったのだそうだ。
アーネストまで休んでいるとは思わなかったコニーは、すぐにこの後の展開が頭に浮かんだ。
建物の影から薬屋の様子を伺うアーネスト──
臨時休業となっている薬屋ではヒロインが治療を受けており、心配のあまり来てしまった。しかし、王子がいきなり街の薬屋に訪ねることは憚られ、こうして外から様子を伺っているのだ。
『アリサ……すまない。きっと俺のせいなんだよな』
アーネストはぐっと拳を握りしめ、苦しげにヒロインがいる薬屋を見つめる。
『……何しに来たんだ?』
そこに現れたのはヒロインの幼馴染み、ノア。
アーネストの前に立ったノアは真正面からアーネストを睨みつける。
『あんたのせいで……!あんたがアリサと関わったからこんなことになったんだ!!何も知らない能天気な王子が……これ以上、アリサに近づくな!!』
幼馴染みを想うノアは、相手が王子であっても関係なく、胸ぐらを掴んで言い放った。
ドンっと乱暴に突き放されたアーネストは何も言い返すことができず、『……アリサを頼む』と頭を下げ、暗い表情でその場を立ち去った。
その後、ヒロインは無事に目覚めるが、自分の手でヒロインを襲った者を追及することを決意したアーネストは、同時に危険な目に遭わせてしまったヒロインと距離を置くことにした。
すれ違う二人は、それでも想い合い、互いが互いを助けようと動くのだ。そして、自分を避けるアーネストを理解しつつも、共にいたいと想いを強くしたヒロインは、アーネストへまっすぐ向かって、想いを伝える……。
……よし。この、なかなかイベントをこなさない自分の幼馴染みを連れて、様子を見に行こう。
怒涛の展開を妄想したコニーは、アーヴィンの誘いを承諾すると同時にそう寄り道を決意したのだった。
薬屋の周囲には、極力目立たないように警察官たちが配置されていた。
一般人であっても毒殺されかけたら警察は動くし、隣国の王女かもしれないとなったら王室も動いて厳重になるよね、とコニーは現状を理解した。
そうなると、現実的にアーネストが近づくのは容易ではないだろうが、どうしているのだろうか。
近くに停めてもらったガーネット公爵の馬車から見える範囲を隈なく見渡すが、ここからだと見つけることができない。
「コニー。気は済んだ?」
アーヴィンは昨日から起こっている出来事について、概ね察しているようだった。コニーから話したわけではないが、宰相を務める公爵家の跡取りとして優秀な彼は、状況や周囲の言動からエリオットが暗殺未遂に遭ったこと、アリサが狙われたことも推測して、コニーが街の薬屋に寄りたいというのもあっさり了承してくれたのだ。
「降りてもっと近くまで行ってきちゃダメ?」
「ダメだよ。今は特に……危ないでしょ」
エリオットとアリサはまだ生きていて、犯人が捕まっていない。また狙われるかもしれない状態で不用意に近づくと巻き込まれるかもしれない、とアーヴィンはコニーを心配しているのだ。
……その心配をヒロインに向けてもらえないだろうか。
コニーはそう思いながら、アーヴィンが幼馴染みを心配する気持ちもわかるので、言われた通り馬車から降りずにもう少し外の様子を伺うことにした。
すると、道の向こうからこちらへ向かって来る人物が目につく。
「コニー様!」
馬車に乗っているコニーに気づいたノアが、今にも泣きそうな顔で駆け寄って来たのだ。




