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「ところで……ピスフルさんってもしかして、母親の連れ子か、他所から引き取られた子だったりする?」

「……っ!?」

コニーが気になっていたことを尋ねると、ノアは驚きの表情を見せた。唐突にこんな込み入った事情に触れられたら、驚くのも無理はない。

「何でそれを?わざわざ調べたの?」

「いえ、ちょっと……状況的な予想というか……」

「何?状況って?アリサとどう関係があるの?」

リュカがアリサのことを“妹”と言っていたことから乙女ゲーム的展開で予想したのだが、リュカは公言したわけではないので、そのまま伝えることははばかられる。そうなると、コニーは言葉を濁すしかなかった。


クリスティアンには今後の影響があるので情報提供してある。目的をすっかり忘れていたが、そもそも王宮で見聞きして予想したことをクリスティアンやエリオットに伝える約束だ。エリオットはお茶会の後に公務が詰まっているそうなので話が出来なかったが、クリスティアンが伝えるであろう。

コニーがパトリシアを誘わなければ、お茶会の前に予想したその場で話せたのだが、彼女の不穏な展開が思い浮かんでしまったので仕方がない。

パトリシアに同情しているコニーは、彼女が悪者を雇うかもしれないということは自己判断で省略し、誘拐や婦女暴行が発生する危険がある旨だけクリスティアンに相談していた。後は警察組織に席を置く兄が上手くやってくれるだろう、とコニーは甘えることにしたのだ。


──あくまでモブな一般人の私が、悪者に立ち向かうなんて出来ないもの。



それはさておき、今はノアにどう話したものかとコニーは頭を捻った。

「とある貴族が彼女を見て、見覚えがあると言っていまして……」

「……そっか」

コニーのぼやかした説明でも、ノアは納得した様子だった。

「コニー様の推測通り、アリサは母親の連れ子だよ。まだ赤ん坊の時だから、俺も当時の状況は知らないけど、親同士が話しているのをたまたま聞いて……アリサの父親は、アリサとおばさん……アリサの母親と一緒にいられない理由があったんだって。それで、おばさんは一人で育てようとこの国まで来て、今の旦那さんと出会ったって」

「ピスフルさん達は外国から来たの?」

「そんな感じのことを言ってたね。詳しくは聞いてないけど」

アリサの母親はディアラから来たのだろうとコニーは確信した。本当に妹かは定かではないが、リュカと何かしら繋がりがあるのだ。

「彼女の母親は亡くなっているのよね?ブローチが形見だと言っていたけど」

事実を知っている人に話を聞けたら手っ取り早いが、当人は亡くなってしまっている。

「一昨年に病気でね。うちの家族総出で手を尽くしたけど、ダメだった」

身近な人の死は、ノアにも影響を及ぼしたのだろう。悲しみを少しでも減らすため、たくさんの人が救えるように医者になるべく、この学園を目指したのでは……?

ちょっと妄想に入りかけたが、今はそれを置いておこう。

「アリサは形見のブローチを大事に持ち歩いているよ。本当の父親のこととかアリサに話しているのかわからない」

そうそう、ブローチ。ヒューゴとのイベントに出てきたそれは、ヒロインの身分を証明するものとしてリュカのイベントにも関わってくるのではないだろうか?隣国の王室のものである、とか……。

ますますヒロインとリュカのイベントが楽しみになってきた。


どうしても所々で妄想スイッチが入りそうになるのを堪えると、コニーは眉間に皺を寄せ、にやけそうになる口が抵抗してひくついてしまっていた。

「……コニー様、変な顔」

ストレートなノアの一言に、コニーはちょっぴり傷つきながら、笑って誤魔化すのだった。









──翌日以降、無事に隣国の王子様が転入し、学園は一時、その話題で持ちきりだった。

豊かな国であるディアラの第二王子、社交的な美男子で、十五歳で婚約者がいない。お近づきになりたい男女が牽制し合いながら常にリュカの周りを囲んでいた。本来なら気安く声をかけて良い存在ではないが、同じ学園に在学しているということで身近に感じて皆の気が緩んでいるのと、リュカの性格もあって、大変な人気なのだ。

そんな人気者のリュカの傍にはヒューゴがついていることが多くなった。学園内でももちろん護衛はついているが、あまり物々しいのも生徒達が畏怖してしまうので、クラスメイトとしてより近くで、自然に護衛出来るようにと、ヒューゴがその任を命じられたのだ。学園で不便があるかもしれないリュカの世話役も兼ねていて、ヒューゴはとても大変そうだ。やることが増えて忙しいながらに風紀委員長の仕事も怠らず、なんなら風紀委員の仕事にリュカの護衛を加えてしまっていた。

……おや?とコニーが思った時には遅く、コニーはヒューゴと一緒にリュカの朝のお迎えに向かっていた。学園のロータリーに着いた馬車から降りて、教室に着くまでを一緒に歩くのだ。

「何で隣国の王子の護衛が風紀委員の仕事になるんですか?」

「登校時身だしなみ検査や放課後の見回りがあるのだから、殿下の付き添いをついでにすれば合理的だろう?」

「そう……なんですかね?」

ただヒューゴにかかる負担を少しでも分散させたかったように思えるが、彼が大変なのはわかるので、コニーは口を噤んだ。


「おはよう、ヒューゴ!」

馬車から降りたリュカは元気で明るい。出迎えたヒューゴに笑顔で挨拶して、隣にいるコニーに気づいて目を見張る。

「ティナ!また会えたね!……え?何で、ヒューゴと一緒にいるんだい?」

「……ティナ?」

再会を喜んでいたリュカが不思議そうにコニーとヒューゴを見比べ、ヒューゴもリュカの発言でコニーを不思議そうに見てくる。何だ、この面倒な状況は……。コニーが頭を抱えそうになっていると、更に追い討ちをかける人物が現れた。

「リュカ殿はブラウン伯爵令嬢と知り合いだったのか?」

リュカの後に続いて、アーネストが馬車から降りてきたのだ。

王宮から出発して行き先が同じなら二人が同乗するのは自然なことだ。コニーは攻略対象三人に囲まれるという望まぬ状況になって、ようやくそのことに思い至るのだった。


──私じゃなくて、ヒロインを囲んでください!


コニーはこの状況に置かれるのが自分ではなく、アリサだったら良いのにと思いながら、頭を抱えるのだった。


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