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──その後、アリサはヒューゴと穏やかな様子で話をして、令嬢達に呼び出されて会場を出て行った。

コニーにべったり張り付いていたアーヴィンは、彼にお近づきになりたいご令息、ご令嬢に囲まれているので、イベントを見に行くのなら今がチャンスだ。


そう思ったコニーがこっそり後をつけようとすると、スザンナに腕を掴んで阻止されてしまった。手強い保護者的な存在を失念していた。

「コニー……あなた、また……」

「いや、危険とかではないから。ただ、ちょっと様子を見るだけで……」

「むやみやたらに近づくこと自体、危ないって言ってるのよ!大体、あなたは……!」

「ほら、スザンナ!あなたと踊りたいって、ファインズ様が見てるわよ!」

「……は?」

スザンナの気を近くにいた令息へと反らし、コニーはそそくさとその場を離れることにした。ところが……。

「ぅひぁっ!?」

「おっと……」

コニーは振り返って急ぎ足で進み出した瞬間、人とぶつかってしまった。

体勢が崩れそうになるのをその人物に肩を掴んで支えられ、コニーは謝罪と御礼を言おうと顔を上げたところで硬直した。

「……ブラウン伯爵令嬢、だったな」

──その人物は、アーネストだったのだ。

「もっ……申し訳ございません!」

コニーは慌てて彼から離れた。王子に無体を働いたとして不敬罪に問われるか、パトリシアを始めとした王子を慕う貴族子女達からの怒りや妬みを買うかもしれないと、コニーは想像して血の気が引いた。

「大丈夫か?顔色が悪いぞ」

「だっ……大丈夫です!お気遣いなく!」

「無理をするな。休憩室を設けているから、そこで少し休め。案内しよう」

「そんな……!畏れ多い!」

善意百パーセント、本心からコニーを心配するアーネストは、ぐいぐいと有無を言わせぬ勢いで距離を詰めてきた。がしっと再び肩を掴まれたコニーは、アーネストに押されて歩き出した。アーネストはコニーを掴んだまま……おそらく、支えてくれているのであろう状態で休憩室へ送り届けようとする。

「あの、本当に大丈夫なんで……!」

「無理をするなと言っただろう。さあ、こっちだ」

アーネストはコニーが断っているにも関わらず、遠慮と受け取ったのか、歩みを止めることはなかった。優しいけど、強引だ。


分け隔てのない慈愛と、信じた道を突き進む唯我独尊を併せ持つ王子は、そういう性格だからヒロインに近づきすぎてしまうんだろうな、とコニーは思った。





「お兄様!中庭でエリオット様と一緒にピスフルさんに会いませんでしたか!?」

「コニー……お兄ちゃんはお前が体調不良と聞いて、迎えに来たのだけど?」

休憩室に押し込まれて一人きりになり、暇をもて余していたところにクリスティアンがやって来たので、コニーは思わず飛びついた。ドアを開けた瞬間を襲われたにも関わらず、妹をしっかり受け止めたクリスティアンは苦笑いしながらコニーを諌めた。

「ご心配おかけしました。でも、私は大丈夫です!なのに、アーネスト殿下に押し切られ、仕方なくここで大人しくしていたんです!」

アーネストはコニーを休憩室に連れてきて、クリスティアンに連絡するからしばし待てと出ていってしまった。どうもないと言うコニーの話を聞きやしない。

「そうか。弟が迷惑をかけたみたいだな」

クリスティアンとは別の声がして、コニーは慌てて兄に押し付けていた顔を上げた。クリスティアンの隣には、微笑ましそうに兄妹のやり取りを見守るエリオットがいた。

「あの子なりの優しさなんだ。許してやってほしい」

「……申し訳ございません!とんだ醜態を……!」

思いっきり兄に甘えている姿を見られたコニーは、恥ずかしさで赤面しながらエリオットに頭を下げた。

「気にするな。二人の仲が良いのは知ってるから」

そんなコニーをエリオットは楽しそうに見ている。エリオットのかわいいものを愛でる様子に、クリスティアンは一瞬モヤッとしたものを感じたが、気を取り直してコニーに声をかける。

「コニー。馬車を手配してあるから、今日はもう帰りなさい」

「えー……」

「事実はともかく、お前の体調を心配したアーネスト殿下が気を回して、わざわざ僕に迎えに行くよう伝えに来たのだから。殿下のお気持ちを無下にしてはいけないよ」

クリスティアンに諭され、コニーは渋々頷いた。まだ交歓会の途中だが、仕方がない。アーヴィンとスザンナにその後の様子を聞くことにしようとコニーは心に決めた。

「私も帰ろうかな」

ぼそっと呟かれた言葉を拾ったブラウン兄妹は、ぱっとエリオットの方へ顔を向けた。二人と目が合ったエリオットはニコリと笑みを浮かべる。

「一応やることはやったし、ちょうどそろそろ帰ろうと思ってたから。クリスは私とコニー、どちらも送ることができて一石二鳥だ」

「同じ馬車で帰るつもりですか?」

「一緒の馬車に乗って行ったら、ゆっくり話ができるだろう?」

エリオットはそう言いながらコニーの手を取った。

「コニーが興味のありそうな話もしてあげるよ」

コニーはその魅力に抗えず、コクリと頷いて、エリオットにエスコートされた。



コニーが自分の意思で来るように仕向けたエリオットは、さすが次期国王。相手について把握した上でスマートに誘導してくる。

兄弟でもエスコートにこうも違いが出てくるのだなあ、とコニーはエリオットに手を引かれて歩きながら感心するのだった。



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