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「殿下!次は上級生の時間ですわ!私と踊ってくださいませ!」
「いいえ!私と……!」
「わ……私は、クリスティアン様と踊りたいです」
エリオットがコニーとのダンスを終えてクリスティアンの元へ戻ると、すぐに待ち構えた上級生の女生徒に囲まれた。エリオットやクリスティアンと踊りたいご令嬢方だ。
「すまない。次はオリビア嬢と踊るよ。元生徒会仲間だから」
「申し訳ございません。今は殿下の護衛中ですから、ダンスはできません」
「遠慮せずに行ってきたらいいんだぞ?」
「ご冗談を」
エリオットとクリスティアンは慣れた様子でご令嬢方のお誘いをかわしていた。さすが、乙女ゲームの攻略対象になる程のイケメン。
「では、コニー。またね」
「楽しんでおいで」
エリオットは軽く手を振り、クリスティアンはコニーの背中をポンッと軽く叩いて立ち去った。
「コニー!何でエリオット様と踊ってるの!?」
アーヴィンに詰め寄れ、コニーははっと気づいた。何でまた私がヒロインみたいなことになってるの?何で攻略対象と踊ったり、声をかけられたり、詰め寄られたりしているの!?
コニーが慌てて本来のヒロインのはずのアリサの方を見ると、彼女はアーネストに次のダンスへ誘われていた。
そうだ、ヒロインはヒロインでアーヴィンと踊り、続いてアーネストと踊ろうとしている。自分がしていることはただの背景だから大丈夫だろう、とコニーは思い直して安心し、アーヴィンに向き直った。
「多分、新入生と踊るのに人選に困ったから、友人の妹の私に声をかけられたのだと思うわ」
「……僕はコニーと踊れなかったのにずるい」
アーヴィンが拗ねている原因は、自分が別の人と踊っている時にエリオットがコニーと踊ったこと。つまり、お姉さん的存在を取られたと感じたのだろう。……やだもう!かわいいな、この弟!
「次の自由時間で一緒に踊ろっか?」
「……うん」
アーヴィンは拗ねて俯きながらも、コニーの提案に素直に頷いた。
「コニー!ここだったのね!」
「スー!」
スザンナは早々にクラスメイトの男子に誘われてコニー達と別れていた。ダンス終了後、わざわざコニーを探しに来てくれたのだ。
「驚いたわ。あなたがエリオット殿下と踊っているなんて……」
「私もびっくりだよ」
「それに、ガーネット様がピスフルさんと踊っていたのも意外でしたわ」
「アーネスト様の命令だし……」
コニーとアーヴィンのダンスはそれぞれ注目を浴びたようだ。正確には、王太子と踊った新入生と、公爵子息と踊った平民に対してだが。
「それにしても……すごいわよね、彼女。今はその殿下と踊っているし……よっぽどアーネスト殿下のお気に入りなのね」
そう言ったスザンナの視線は、アーネストと踊るアリサに向けられていた。コニーもそちらへ目をやる。アリサもアーネストも楽しそうに踊っている。乙女ゲームのスチルになりそうな場面だ。
そんな彼女達のダンスには会場の視線の多くが向けられており、その中にパトリシアがいるのをコニーは気づいた。
パトリシアは何人かの令嬢に囲まれており、視線はダンスホール……アーネストとアリサへ向けながら、こそこそと何かを話しているようだ。
そういえば、悪役令嬢の出番を忘れていたな、とコニーは彼女の今後の活動を予想した。
ダンスの時間を終えると、ヒロインは見覚えのない令嬢に声をかけられ、会場の外へ連れ出された。
そこにはパトリシアを慕う令嬢達が待ち構えていた。貴族な中でも上位の地位にあるオニキス侯爵の娘で、王子の妃になるパトリシアと親しくなりたいと集い、従う者は多い。パトリシア自ら手を下さずとも、周りが動くのだ。
『ガーネット公爵家のご令息と踊るだけでも身の程知らずだと言うのに、殿下とまで踊るなんて!』
『殿下にはパトリシア様がいらっしゃるのよ!』
『え……その、私……知らなくて……』
そこで令嬢達に囲まれ、責め立てられ、ヒロインはようやくアーネストに婚約者がいることを認識する。
ただでさえ王族という本来手の届かない世界の人なのに、婚約者までいるのでは、これ以上自分が親しくするわけにはいかない。
ヒロインはそう考えながらも、アーネストと話せなかったり近づけないのは嫌だなと思った。
『身の程をわきまえることね』
令嬢達は言うだけ言うと、ヒロインを置いて立ち去った。残されたヒロインは言われたことと自分の気持ちで思考がぐちゃぐちゃになりながら、ふらふら歩き出した。
そして、なんとなく辿り着いた中庭で、王太子と伯爵令息と遭遇するのだった──
……おや。今回は悪役令嬢があまり動いていない。まあ、悪役令嬢が直接手を下すのは、物語終盤の方が多そうだし、そちらの方が盛り上がりそうだ。
コニーが妄想に耽っている間に在校生だけのダンスの時間が終わり、フリータイムとなった。次は予想通りノアと踊ろうとするアリサを横目に見ながら、コニーもアーヴィンに手を引かれてダンスへ向かうのだった。




