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コニーがパトリシアの様子を伺いながら体育の授業を受けていると、思ったより早く彼女が動き出した。


「先生。気分が悪いので、保健室へ行ってきてよろしいですか?」

パトリシアが授業の途中で抜けることを申し出て来たのだ。

その瞬間、コニーは予感した。これはアリサの更衣ロッカーか教室の机に何か仕掛けるつもりだな、と。

「ダメよ、コニー」

さて、どうしようかとコニーが悩んでいると、スザンナから声をかけられる。

「あなたが止めに入ったらあなたが目をつけられるか、犯人に仕立てあげられるだけよ」

スザンナはコニーがパトリシアの企みに気づき、それを事前に止めるべきか考えていることを察していた。まさか、スザンナにも前世でこの乙女ゲームをしていた記憶があるのか?とコニーがちょっとドキドキしていると、スザンナは呆れた様子で溜め息を吐いた。

「あんなことがあった後だから大体予想がつくわよ。このタイミングで席を離れるなんて、よっぽど体調が悪いのか、何か仕掛けるつもりだって。だからと言って、今あなたに出来ることはないのよ」

スザンナの言う通りだった。今、このタイミングでコニーが介入するのは難しい。パトリシアは自身の友人の一人と保健室へ向かうということで行ってしまった。既に付き添いがいる中、特に親しいわけでもないコニーがパトリシアに付いていって見張るなんてできない。こっそり後をつけて犯行を止めに入るというのは、スザンナが言うように目をつけられたら困る。かと言って、犯行後、アリサが気づかない内に片付けるというのは、アリサや他の誰かがタイミング悪くやって来て、コニーが悪さをしたと思われかねない。ヒロインを初め、乙女ゲームの登場人物は間の悪い人が多いとコニーは思っている。

そこまでして彼女を助けたいのか?コニーはアリサとも特別親しいわけではない。全面的にアリサの味方をするというのなら話は別だが、不思議なことにコニーはその気になれなかった。

コニーの予想では、今回は急に思い立ったことだろうから脅迫状を仕込まれるか、私物を隠されるくらいなので、コニーは一先ず様子見をするのがいいという結論に至った。






体育を終えて更衣室へ戻ると、案の定、アリサのロッカーに紙が貼られていた。



“身の程を弁えなければ、その身を滅ぼすことになる”



書き殴りだが力強く、犯人の怒りのようなものが伝わる字だ。

「これってあれよね?」

「彼女、殿下に馴れ馴れしかったから……」

濡れ衣を着せられることを恐れ、コニーは逸る気持ちを押さえてスザンナや他の友人達と戻ってきていた。友人達もこの警告を見て連想するのは、アリサが王族に近づきすぎていることだった。アリサよりは早く来たのでコニー達はこの紙を見ることが出来たが、さて、ヒロインはどんな反応をするだろう?以前の手紙よりは反応するだろうか……。


「……何、これ?」


更衣室へやって来たアリサは人が固まってどよめいていることに戸惑いつつ、間を潜り抜けてロッカーの前に立つと、貼り紙を見て呆然と呟いた。

「心当たりがないのかしら?」

「自覚がないんでしょ。そうじゃなきゃ、あんな風にあの方とお話できないわよ」

周囲かヒソヒソと話す声でハッと状況に気づいたアリサは、紙を引きちぎるようにロッカーから剥がした。そして、さっさと着替えると、荷物をまとめて早々に更衣室から出ていった。


……あれは、さすがに堪えた反応ね。となると、この後は落ち込んで、また攻略対象に慰められる展開ね。


コニーはそう思いながら、アリサの反応を確認できたので、まだ先程の出来事で女子達の話が盛り上がる中、黙々と着替えることにするのだった。




その日の放課後、教室へアリサ絡みの訪問者があった。ただし、その人物の用があるのは、アリサではなかった。


まだちらほらと生徒が残る教室の入り口で、庇護欲をそそる可愛らしい少年が立ち塞がり、コニーに訴えかけてくる。


“ちょ、つ、と、来、て”


“い、や、で、す”


コニーは口パクに口パクで返してみた。コニーに刺さる少年の視線が痛い。

「コニー。何、あいつ?知り合い?」

まだ教室に残っていた一人であるアーヴィンの追及の視線も痛い。不機嫌そうにコニーと少年を交互に見ている。

──幼なじみを心配して定期連絡を待たずに乗り込んできた少年、ノアを。


どうしても直接会いに来る時は目立たないようにしてって言ったのに……!


こんなことなら、放課後にイベントを見れるかもしれないと待たずにさっさと帰れば良かった。そうコニーが後悔していると、思わぬ人物にこの状況から救われることになる。

「ノア!迎えに来てくれたの?」

「あ、アリサ……うん。一緒に帰ろう」

幼なじみの登場で、ノアは一瞬言葉に詰まりながらも、切り替えて笑顔を見せた。そりゃあ、接点のない貴族に様子見をお願いしているなんて、事情を知らない人、ましてやその対象本人には言いづらい。ノアに今の時点で彼女に知らせるつもりがないのなら、彼女の勘違いに乗って誤魔化すしかないだろう。

「ごめんね。今日は生徒会の用事が出来てしまったの」

アリサは申し訳なさそうにノアに断りを入れた。元々ノアはコニーを尋ねて来たのだから、アリサと約束をしていないはずだ。なので、先約があって断られるのは仕方ないことだが、コニーは別のことで引っ掛かった。……生徒会の用事?

「アーヴィンも?」

「さあ?聞いてないよ」

コニーが問いかけるも、アーヴィンは事前に聞かされていなかったようだ。ならば、アリサが声をかけて連れていくのかと思いきや、彼女はアーヴィンを素通りし、荷物を持って行ってしまった。

アーヴィン抜きで、アリサが呼ばれる用事……乙女ゲーム的な展開の予感がする。

「ごめん、アーヴィン!私も用事を思い出した!先に帰っておいて!」

「え……コニー!」

コニーは立ち上がり、ノアの腕を掴むと、アーヴィンが呼び止める声を振り切って足早に教室から去った。本当はアリサに追いつくために走りたいところだが、風紀委員という立場もあり、規則を守って廊下を走らない真面目なコニーだった。


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