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また輝かしい明日の朝がやってくる  作者: 藤田大腸


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助っ人参加だ

 リハーサル室にて。


「ハハハハッ! たまたまこの場に神城朝水(かみしろあさみ)小倉明日香(おぐらあすか)が居合わせたことを海の神様に感謝するんだな!」


 いつものテンションが戻ったアサは大洋高校の軽音楽部員たちに尊大な態度を取るが、相手は手を合わせてありがたやありがたやと言わんばかりにアサを拝んでいた。


「しかしよう、実際着てみるとはずいな……」

「作業着で演奏するのは軽音楽部の伝統なの」


 さっきまで泣いていた軽音楽部部長、相磯(あいそ)さんには笑顔が戻っていた。


 あたし達は白いフードと白い作業着、青い前掛けの水産加工業ファッションに身を包んでいた。なんか中等部時代の職場体験で食品工場に行ったときもこれと同じような作業服を着せられたのを思い出した。あたし、魚を捌きにきたんじゃねえんだけどな……。


「そうかい? ボクはこの衣装を可愛いと思うがね」

「か、可愛い!?」


 やはり人と感性がズレているようだ。


「可愛い、なんて言ってくれる人初めて見た」

「まあこいつは独特の感性持ってますから。ところで何の曲をやるんスか?」

「まずHIASOBIの『ライバル』と『淡青』をやって……」

「HIASOBIっスか。あたしらも何度か演奏したことありますよ」

「ホント? じゃあそこは軽くリハーサルするだけでいけそうだね。あとは最後の曲だな……」

「結構ムズいやつっスか?」

「そこまで難しくはないけど、『海谷大漁節』って知ってる?」

「知らない。大漁節……ってことは民謡っスか?」

「そう。うちの定番曲のひとつで、ロックアレンジしたものをやるの。原曲もあわせて実際に聞いてもらった方が早いかな」


 相磯さんはスマホを取り出して、録音データを聴かせてくれた。原曲はゆったりとしたテンポで、エンヤコラドッコイショという掛け声が入っている。続いてロックアレンジを聴く。冒頭でトンットットッ、トンットットッとバスドラムがリズムを刻み、そこにプォーッ、プォーッという甲高い音が重なる。キーボードの音だがもしかして漁船の汽笛の音を再現しているのかな?


 その音が止んだかと思いきや、


「おっかあ~~~!! 今日も大漁だったよ~~~!!」


 という大きな叫びが。あまりにも唐突だったから吹き出しそうになったけど耐えた。


 それから本番に入るのだが、テンポは原曲より少し早いだけ。しかし重厚な音は心の底にズシンとくるようで、上手くアレンジされているなと感じた。


「どう? いけそうかな」

「全然いけますよ」

「OK。あと、最初の声はドラムが担当することになってるから」

「え? じゃあ、あたしがやるんスか……?」

「そう。漁船から岸に向かって呼びかける感じで」


 相磯さんは手本とばかりに、口に両手を添えて叫んだ。すごく通る声だ。しかしこれを実際にやるのはちょっと勇気がいるな……。


「こんな感じでよろしくね」

「相磯さんがやった方がよくないスか……?」

「ドラムが担当するのがうちの伝統なんで」


 そう言ってバンドスコアを見せてきたが、ドラム譜の冒頭に「おっかぁきょうもたいりょうだったよ」としっかり手書きされている。


「わかりました……やってみます」

「神城さんもどうぞ」

「いや、いい。さっきので覚えた」

「ウソ?」


 アサはキーボードで返事した。録音データと同じ音楽を見事に再現し、演奏しきったのだ。


「どうだ?」

「すごい、即興演奏ができるなんて……」


 この辺はさすが音楽の天才といったところ、アサにとっちゃ朝飯前だ。


「じゃ、時間がおしてるからリサーハルやりましょう!」


 と、相磯さんはベースを構えた。もう本番まで時間がほとんど無かったが、とにかくできる限りのことはやらないといけない。相磯さんは「競技じゃないから気負わなくていいよ」と言ってくれたけれど、お金を払って来てくれているお客様の前で演奏するんだから失敗はできない。


 HIASOBIの曲はともかく、問題は「海谷大漁節」だ。


「お……おっかあ~! きょっ、今日も大漁だったよ~!」

「小倉さん、もうちょっと大きな声出せる? 恥ずかしがらないでもう一度お願い」

「おっかあ~~! 今日も大漁だったよ~~!」

「そうそう、そんな感じで」


 人前で歌を歌うのと何ら変わりないはずなのに、何だこの恥ずかしさは。


「ぷぷっ」

「あーっ、アサ! てめえ笑ったな?」

「いやいや失敬失敬」


 こんな感じで本番直前までリハーサルが続き、最後から二番目の海谷高専の演奏に入ったところで舞台袖で待機した。


 じり、じりと胃を締め上げられるような感覚がやってきた。心臓もバクバクしてきて……ああ、やっぱり出やがったか……。


「小倉さん、汗かいてるけど大丈夫?」

「あー、いつものことっス……あたし、本番前になると緊張するんで」


 ガキンチョの頃から音楽教室でドラムを叩いてきて、小学校では金管バンドにも所属して何度も場数をこなしてきた。それなのにライブ前の緊張癖は一向に治らない。大勢の人前に立つだけなら平気なんだが、なぜかライブのときだけ緊張してしまう。


「そういうときは手のひらに『人』って三回書いて飲むといいんだよ」

「あー、定番のおまじないっスね。何度も試したんスけどあたしには効かなくて……」

「うーん、じゃあ、これでどう?」


 相磯さんはあたしの手をギュッと握ってきた。


「え」

「わっ、脈がすごい。本当に緊張しちゃってるんだね」


 相磯さんが手をさする。


「小さい頃眠れないときにお母さんがこうしてくれたの。そしたら落ち着いて寝られたんだ」

「ああ、ちょっと落ち着いてきたかもしんないっス」


 でも手を握られるのって、それはそれで何か恥ずかしいな。


「明日香」


 アサが呼んだ。眉間にしわを寄せて険しい顔つきになっている。こいつのことだから緊張してるわけじゃなさそうだが。


「なんだ?」

「ツラ貸したまえ」


 ツラ貸せって……不良じゃねえんだからさ。


「人という字を三回だな」


 アサの手があたしの頬をツツツとなぞった。


「おい、本当にツラ弄んな。手のひらだぞ。そこに書いたって飲めねえ」

 

 ペロッ。


 頬を舐められたことに気づくまで、少しだけ時間がかかってしまった。

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