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窓から富士山を眺めながら俺は…  作者: 白い黒猫


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ずっと見ていた眼

「よぅ、兄ちゃん大変やったな~」

 オッサンがニヤニヤそう声をかけてきて俺は大きくため息をつく。

「まぁ、何かあったの?」

 お婆ちゃんがノンビリと聞いてきてオレは焦る。あんな恥しい事されたことを、オッサンはまさか(ご年配者だとはいえ)晒す気なのではないかと。

「この兄ちゃんな~。

 さっき新人看護師さんの練習台になって大変やったんや。点滴用の血管中々みつからのうてな!」

 その後のオシッコチューブの事が強烈だったことと、手術への不安で忘れていたもう一つの憂鬱案件の事を俺は思い出す。


 あまり慣れていない看護師だったようで、血管が見つからず何箇所も刺されてしまった。見かねた研修担当していた先輩看護師に交代し点滴チューブをセット出来たのだが、腕に余計な穴がいくつか出来た。

「あら〜それは大変だったわね〜。

 私は血管細いみたい、いつも失敗されるのでその辛さわかるわ〜」

 お婆ちゃんは顔を心配そうに歪め俺に同情の視線を向ける。そのお婆ちゃんの腕を見ると、部分部分内出血をおこしていて紫や黄色に染まり大変な状態になっている。俺よりキツい状態に見える。そして手の甲という痛そうな場所に点滴チューブがついている。

「皆、それを許すなんて優しすぎや! 俺はなそういう時はな、『下手くそやな〜! 貸してみ!』 と針を奪って一発で入れてやるのよ! 注射器の扱い得意だからな!」

 オッサンはそう言って自慢げにカッカと笑う。しかし俺は笑えない。それって法律的にアウトな事で慣れていたということだよね?

「まあ、スゴイです! なんでそんなにお上手なんですか?」

 素直に感心して、尊敬の眼差し、突っ込んだ事を聞いてくるお婆ちゃん。

 お婆ちゃん、そこは察してスルーしてあげて!

 上品そうなお婆ちゃんはオッサンがヤクザ者だと気がついてもいない。ニコニコと、患者仲間という親しみもった目をオッサンに向けている。

 俺はどうしたものかとオッサンに視線をむける。オッサンも流石に余計な事を言った事に気がついたようだ。純朴な視線に晒されて困っている。

「昔。……少し扱っていた……事があるもんで」

 オッサンの方が空気読んでモゴモゴと濁した返答をした。

「まあ、そういうお仕事されていたのね!」

 お世話になっている医者や看護師達と同列な尊敬の籠った目で見られオッサンは居心地悪くなったの離れていった。


 お婆ちゃんは、改めて俺の方を見つめ目を優しげに細める。

「その格好をしているという事は、今日手術なのね。いいわね~」

 今の俺はツーピースのパジャマではなく浴衣タイプのパジャマになっている。

 オッサンがヤクザ者だと気付けなかったお婆ちゃんでも、オレがコレから手術を受ける人である事は容易に判断出来たようだ。

「い、いいですか? そんなに」 

「ここだと皆ね~手術したら次の日には元気に歩いて直ぐに退院していくの。

 そういう人いっぱい見てきたから! だから貴方も大船に乗った気で行ってらっしゃい」

 明るく話すその言葉に少し不安が取り除かれたのと同時に、裏に見えるもう一つの意味も見えて切なくなる。

 このお婆ちゃんはそれだけ人を見送る程ここ長く入院しているということ。腕の様々な色となった内出血の跡の多さもそれを物語っている。

「そうですね! と言っても俺は寝ているだけだからする事は事もないですが頑張って来ますよ」

 俺より大変な状況の人に慰められ励まされ情けない。だから俺はできる限り明るい笑顔を作りお婆ちゃんに答える。

 お婆ちゃんは柔らかく笑い視線を外に向ける。

「あ! 見て! 富士山の雲が移動したわ! 綺麗に丸々見える! 素敵ね~」

 俺にはいつも以上に富士山が神々しく見えた。

「本当に綺麗ですね」

 何か色々吹っ切れた。悩んでも仕方がない事をウジウジ考えても無意味だ。

「昔お父ちゃんと、富士山登った事あるのよ! 今と違って私も元気で体力あったから」

「それはスゴいですね!」

「すごくないわよ~お金とかなかったから、夫婦で山登りばかりしてたのよ」

 俺は今の時間はお婆ちゃんとの会話を楽しむことにした。

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