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窓から富士山を眺めながら俺は…  作者: 白い黒猫


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患者のアイドル 富士山さん


「今日はまた綺麗やな~」

「天気も良いからね!」

「何が見えるんですか?」

「見なさい! 左のビルの向こうに見えるのが富士山!」

「まだ上の方に雪積もってんだな~真っ白だ」

「富士山はどちらですか?」

「ほら! 茶色い大きな建物の左! 山脈から飛び出ているのが富士山や!」

 そんな賑やかな話し声で朝が始まる。時間は六時まわった所。何故そんなに皆が、明るく元気なのか俺には理解出来ない。

 というのは、ここが病院で、その話している人が入院患者だから。


 そして俺も等しく昨日からそのお仲間の入院患者。

 しかしそんな元気でも、人と楽しくお話する気分でもない。


 そう思っていると、隣のベッドのスキンヘッドのオッサンがやってきてカーテンの上の網になっている部分から声をかけてくる!

「兄ちゃんも来や~! 今日は最近稀に見るほど綺麗で見事な富士山見えとるんや!」

 俺は用紙に今朝の体温を書き入れながらため息をつく。

 行きたくもないが、行かないとこのオッサンはしつこそうだ。昨日の初対面から察していたが、このオッサンはグイグイくる。

 多分ヤクザではあるものの悪い人ではないが、若干面倒くさい人なことは一日で分かった。

 俺は重い身体で立ち上がりベッドから離れようとして引っ張られる。それで思い出す。

 胸に付けられた携帯型心電図の存在を。青いメッシュのポーチに入れらてた機械を首から下げてから病室を出る事にした。

 コレが何気にウザい。

 ベッドの上で手のひらサイズとはいえ邪魔。油断すると落下させてしまう。

 そして存在を忘れて立ち上がると引っ張られる。電極が胸からウッカリ取れると看護師さんが飛んできて『取れてますよね~』と言ってつけ直しに来る。


 眩い光の中で、ベージュのお揃いのパジャマを着た人達が窓の外を見ながら嬉しそうに話をしている。

 皆何故そんなに楽しそうなんだろう? そう思う。

 隣のスキンヘッドのオッサンもそうだが、点滴スタンドを連れている人も数人いてそんな状態なのに、態々ここに集い富士山を楽しんでいる。


 でも、確かに遠くではあるものの富士山を実際見ると、なんか元気が少し出た気がした。

 東京から西に向かう新幹線の中でも、乗客は窓から富士山が見えるとテンションを上げ、車内がなんか活気づく。

 日本人の中にあるDNAがそうさせるのか、霊峰と言われるだけにそういう効果を持っているからか、富士山は人を元気にする。

 俺はスマホを手に窓から見える風景を撮影した。

 すると周りにいた人も撮影をしだす。突然始まる富士山撮影会。 

 おばあちゃんが窓にスマホを向けでカシャカシャカシャ……と音をたてている。何故連写モード? と思うが、他の人もそうなっている。

 年寄りは何故何でも撮る時連写になるんだろうか?

「あの、お兄さん……コレでどうやったら写真取れるのかしら?」

 おじいちゃんがスマホを手に聞いてきた。初めて触る【かんたんスマホ】。

「このカメラのマークをタッチするとこの画面になるので撮りたいものに向けて、この丸を押すと撮れますよ」

 そう教えると別のおばあちゃんが話しかけてくる。

「【らいん】ってもので孫に写真送りたいけどどうすればよいのかな~」

「私も娘に送りたいので教えて~」

「撮った写真、どうやってみれるんだい?」

 この中では恐らくは一番若い俺が、気が付くと囲まれていた。

 スキンヘッドのオッサンは離れたところでニヤニヤしているのに助けてはくれなかった。オッサンも教えられるとは思うが身長も高くスキンヘッドの怖そうな人の所は誰も聞きに行かないようだ。


「皆さん~密になってます~集まらないで下さい~」

 看護師さんから注意を受けて富士山撮影会+スマホ講座は終了した。

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