85話 俺の半分
「それでお兄ちゃん、話って何?」
帰って来てから俺たちは母さんからやたら心配をされて、どこか怪我がないかと言って慌てながら身ぐるみ全部を剥がそうとしてきたから大変だった。
まぁ母親だからこの心配をするのはわかるけど、俺の前で真莉亜の服を脱がそうとしたのには流石に焦ったし、危うく真莉亜が生まれたままの姿に成りかねなかった。
そんなこんなあって、華怜が風呂から上がってきたタイミングで話をする事にして、俺は華怜にホットミルクを渡して、母さんと真莉亜にコーヒーを渡してから、俺はソファーに座った。
「――――今から俺が話すのは冗談じゃないから、それだけは先に言っておくよ。」
俺はコーヒーを一口飲んでから、息を吸って告白した。
「俺は少し前まで異世界で勇者をしていて、真莉亜はその時の魔王なんだ。」
俺は何も躊躇わずに、今の自分たちの事を二人に打ち明かした。
―――さぁ言ってやったぞ。
華怜ならまだしも、母さんはどう反応する。
「零くんが勇者で、真莉亜ちゃんが魔王でしょう? 知ってるわよ。」
「「「………えっ?」」」
振り向いて見ると母さんはコーヒーを飲んでいて、表情からして全く驚いてるって様子はなかった。
対する華怜は俺たちに驚いているのか、それとも母さんの発言に驚いているのか分からなかったけど、明らかに驚いているのは目に見えて分かった。
「え、お、俺が勇者だって驚かないの?」
「驚かないよ。だって前から知ってたから。」
「い、何時から?」
「真莉亜ちゃんが家に来た時から。」
「最初からじゃねぇかよ!!」
そんな前から知ってたんなら、最初から信じられなくてもいいから俺たちに言って欲しかったんですけど。
いやそれよりも母さんの素っ気ない表情から推測できる事は、最早一つしかないよな?
「という事は、母さんってまさか……」
「うん、私が5代目勇者だよ。」
なんと5代目勇者は自分の母親でした~……っておいマジかよ!!
母さんが5代目勇者なんて思えるかよ!!
「ていうか真莉亜、お前は母さんの事は知らなかったのかよ?」
「いやいやいや、私も零君に会いたいしか言ってなかったから、お母さんがまさか勇者だったなんて知らなかったんだよ。」
「―――いや待てよ。そういえば俺たちがデートした時母さんどっか行ってたけど、あれ何処に行ってたの?」
「あぁ、あれは私の担当をしていた神界の神様が話があるからって手紙に書かれていたから会いに行ってたんだよ。」
「その時に俺たちの事を詳しく聞いたんだね。」
「そうよ。それからは小説の仕事をしつつ、情報を少しずつ探していたって訳なの。」
なるほど、あの時にはすでに神徒が来てから話を聞いて、それから勇者として魔女王イザベラの討伐をするのに承諾してから、俺たちが母さんの事を知るまで情報を探りながら待っていたのか。
となると先生も同じ時期に話がやってきて、私情で大罪の悪魔の情報を探していて、異能者の事を知ったって感じなのか。
「じゃあ母さんは、今どこまで知ってるような状態なの?」
「零くんが大罪の悪魔を持った魔人と戦っていて、今暴食と憤怒を持ってる状態で、憤怒が零くんの中にあるのは分かってるわね。」
「つまり、詳しい内容とかは知らないって事でいいの?」
「そうね。後は真莉亜ちゃんの事や今噂になってる異能者の件で少しだけ情報を知ってるわ。」
今の母さんの言ってる事が本当なら、今日の事は知らないのかもしれないな。
まぁ俺も全部話すつもりだし、このまま進めていくか。
「俺たちもまだ異能については情報が薄いから、この際にお互いが持ってる情報を交換し合おうか。」
「そうだね。だれどその前に華怜を起こしてあげなさい。」
「……だな。おい華怜、死んでないよな?」
「――――ハッ! お兄ちゃん大変だよ! 私、お兄ちゃんたちがファンタジーの世界に行ってたって空耳が聞こえちゃったんだよ!」
「安心しな華怜、それは空耳じゃないぞ。ほらこれ。」
俺は手の平に氷を出してから華怜に見せて、真莉亜も俺と同じように手から炎を出して現実を見せてやった。
華怜は幻覚じゃないのかと思って何度か目を擦ったりしていたけど、何度もやっても俺たちの手にあるのが消えない事に気付くと、華怜は俺を焦ったような目で見てきた。
「お兄ちゃん……これは夢ですか?」
「ところがどっこい……夢じゃありません……現実です!」
「―――お、お兄ちゃんとお姉ちゃんがファンタジーに飲まれた……」
華怜はソファーに座ると、絶望したかのように俯いた。
まぁいきなり俺たちが魔法が使えると言ったらこうなってもおかしくないし、華怜は特にアニメやゲームが好きだから、それが現実になってしまって思考が追いつけなくなってしまっているのだろう。
「あぁー……追い打ちをかけるようで悪いけど、母さんも俺と同じ勇者みたいだから、母さんも魔法は使えるからな。」
「そ…そんな……それじゃあ、魔法が使えない私は才能無し……」
「いや、別にお前は魔法が使えるような訓練をしてないからできないだけで、訓練を受ければ多分使えると思うぞ。」
「なん‥‥だと‥‥」
さっきから華怜の表情が百面相みたいにころころと変わって面白い事になっているけど、本来の目的だある話が一向に進まないからもうほっといてもいいか。
「母さん、話は俺たちだけでしようぜ。真莉亜、悪いけど俺の代わりに華怜に説明してやってくれんか?」
「わかったわ。華怜ちゃん、私の部屋に行こうか?」
「はい、詳しく事情を聞かせてください。」
そうして真莉亜と華怜はリビングから出て行って、俺は母さんと二人で話をしあう事にした。
「それじゃあ先に俺から話そうか。まずは俺がパラディエスに召喚された所からかな。」
俺はパラディエスで過ごした三年間の話から始めて、最初の一年は修行をして、それから二年間の魔王討伐の冒険を話してから、こっちに戻って来てから真莉亜と恋人関係になった理由を話した。
それから俺と真莉亜は、暴食を持ったぬらりひょんと戦って、俺が桜姉と姉弟弟子になってから“夢の世界”で一緒に過ごすことになった事や、日本とパラディエスの神の加護を持っている事や、行方不明になった優越神フォルトナの事などを包み隠さず話した。
「――という事があって、今に至るって訳だ。」
「……なるほどねぇ。」
母さんは俺の話を静かに聞いてくれて、コーヒーを飲んで俺を見てきた。
「どうやら零くんは、私以上に波乱万丈な異世界生活をしてたみたいね。」
「まぁ確かに、何度も死にかけた思いはたくさんしたけどな。向こうでもこっちでも。」
まぁ殆どは師匠のせいだけど、思い出したくないからこれは伏せておこう。
師匠との一年間の特訓がどれだけ地獄だったとか言いたくないしな。
「それにしても、異能者を率いているのが色欲の魔人だったなんてねぇ。どおりで集団性のある動きをしたりしてたのね。」
「その言い方だと、まさか母さんも異能者の襲撃を?」
「大丈夫よ。襲撃はあったけど、全員返り討ちにしてから洗脳は解いてるから、心配はしないで。」
母さんは俺に笑って言ってきたけど、俺にとっては母さんもすでに襲撃を受けてたなんて思ってもいなかったから、このまま放っておいたらいつかは華怜も対象にされるのも時間の問題かもな。
「華怜ちゃんの事も心配しないで。お母さん特性の探知機を付与させてるから、何時でも駆けつけられるわ。」
「頭で考えてる事を読まないでくれるかなぁ~」
まぁ母さんが大丈夫って言ってるなら問題はないだろう。
何せ母さんに魔法で戦うのは無謀と言ってもおかしくないしな。
「―――…ねぇ母さん。」
「何かしら?」
「俺の体の中には“憤怒の結晶核”が入ってるんだ。」
「……!」
母さんは俺の中に憤怒が入っている事に驚きを隠せなかった。
まぁ当然と言ったら当然だし、自分の息子が大罪の悪魔を所持してるって言ったら驚くのもおかしくない。
「それで憤怒を通じて知ったのだけど、どうやら俺の体は人間以外にも違う種族が混ざっているみたいなんだ。」
「…………」
「なぁ母さん、正直に教えてほしい。俺は人間以外に何が入っているんだ?」
母さんは俺の気迫に押されてずっと黙ったまま俺を見ていたけど、諦めたかのように上を向いてから、少ししてまた俺を見てきた。
「―――分かったわ。正直に話すわね。」
母さんはコーヒーを飲んでから自分を落ち着かせると、次の言葉を聞いてから、俺は静かに驚愕をする事になった。
「零くんの体は、“人間”と“魔族”のハーフなの。」
「俺が“半魔族”………やっぱりか――――」
「その様子からして、知っていたのね。」
「まぁな。主な理由は、母さんが俺や華怜みたいに蒼色の目をしていないのが証拠だ。」
俺や華怜は蒼色の目をしているけど、母さんはそれとは全く違って緑色の目をしていた。
しかも母さんは昔の目の色は同じ蒼色だったのに、パラディエスに行ってから目の色が変わった時点で、薄々分かってはいた事だ。
「少しだけ昔の事を話すけどね、母さんも勇者だった時に“嫉妬”を持ってたのよ。」
「嫉妬か。だから母さんの目は緑色なのか。」
「大罪の悪魔になった後遺症みたいなものだからね。取り出しても目の色は変わらなかったわ。」
「一応確認するけど、他にも理由はあるんだよね?」
「―――――そうよ。」
「そっか。」
俺はその辺りは大方察する事ができるし、あえてそこは聞かない事にした。
すると悲しそうに昔の話を語っていた母さんは、“収納庫”から一つのネックレスを取り出した。
「それは?」
「昔の仲間が私に渡してくれたネックレスよ。もう20年前のだけどね。」
そういえば、母さんが勇者だったのは20年も前だったってメールに書いてあったな。
母さんの持ってたネックレスを見ていると、昔アイリスたちに貰ったものを思い出して、“収納庫”からネックレスを取り出した。
「あら、零くんもネックレスを貰ってたの?」
「俺の仲間からな。普通の紐で付けてあるけど、これは俺にとっては宝物みたいなものだからな。」
「もしかして、真莉亜ちゃんの前に好きだった子かしら?」
「―――いや、年の差があったから妹として見ていたから、好きは好きでも、ラブじゃなくてライクだったな。」
「そっか。ちなみにいくつ違い?」
「五つ違いだった。だけど俺が元に戻ったから、実質一つ違いになったけどな。」
真莉亜と付き合ってから思っていたけど、メリッサならまだしもアイリスは俺の事が好きだったのかもしれないな。
最初こそは後ろを付いて来るような子だったけど、魔王城にいた時にはもう立派な聖女としていたから、あの時の俺は見てて嬉しかったっけなぁ。
「聖女としてちゃんと成長したのね。良かったじゃない。」
「何で俺の許可なしに俺の中を覗くのかな~……スキル使うのは禁止でしょう普通は。」
さっきもそうだったけど、何でこの母親は息子の心の中や頭の中を勝手に覗いては俺をからかったりするんだよ。
普通は見られたくないから心の奥に封じておくものでしょうに。
「あらあら、心の中を読まれているようじゃあ、まだまだお母さんには勝てないわよ~」
「おっと母さん、そんなに俺をおちょくってもいいのかい? 痛め見る事になるよ?」
「へぇ~……ならお母さんに痛い目に合わせてちょうだ~い。」
あら、どうやら母さんは“あの本”を知らないみたいだな。
なら教えてあげた方がいいかもしれないし、母さんから言質を取ってるから問題ないしな。
「なら教えてあげるよ。母さんが召喚されて起きた大事件の話を!」
「………へぇ?」
母さんから腑抜けた声が聞こえたけど、そんなの関係なしに言ってやるとしましょうか……母さんの黒歴史を!!
「母さんは召喚されてから早々に、恐怖のあまりに耐えきれずに魔力を暴走させてしまって、勇者にも関わらずに恐怖の対象とされてしまっていたんでしょ?」
「ちょ、ちょっと待って! え、何で知ってるの!?」
「何で知ってるかって? それはこれを愛読していたからだよ。」
俺は“収納庫”から一冊の本を取り出して、それを母さんに見せるように前に出した。
「5代目勇者の……冒険譚…?」
「勇者の名前は書いてないけど、内容は当時の仲間や関係者が取材をして教えてくれて、それを一冊の本にして発売してたんだよ。」
「……それ、見せてくれる?」
「いいよ。」
母さんは俺から本を貰うと、黙々と本を読みだしたので、俺はコーヒーをお代わりするついでに棚からお菓子を出して食べながら待つ事にした。
しかし母さんが嫉妬を持ってたなんてなぁ〜
それを持ってたって事は、何かに激しく妬んでて取り込んでしまったのか、もしくは他に何か理由があって嫉妬を持たないといけなくなったかのどっちかだろうな。
(まぁそれを言うのは野暮だし、俺も憤怒を持っいる時点で言える立場じゃないから、考えても無駄だな。)
そんな事を思っていたら母さんが本を閉じて、顔を赤くさせながらワナワナと震えていて、その顔は恥ずかしがっているようにも見えたし、怒っているようにも見えた。
「……ねぇ零くん、この本を書くのに協力したのは一体誰か分かる?」
「うーん……全員は分からないけど、確か師匠や王様に女王、後は母さんの仲間だった人たちから聞いたって言ってあったかな。」
「前の三人の名前を教えて。」
「師匠はグレン・イムソムニア、王様はエーリッヒ・バビレンス・ユースタシア、女王はアナスタシア・フォン・ユースタシアだよ。」
「――――そう、あの三人ね。」
「か、母さん?」
なんか少しずつ魔力が漏れ出してきているのに気付いた俺は、何も考えずに“結界作成”を使って母さんを結界内に囲んで、“消音”で外に声が漏れないように音を消した。
すると案の定、母さんから濃度の濃い魔力がどんどん漏れ出して、母さんは普段は見せない鬼の形相で怒りだした。
「あの3バカトリオめ! 私の黒歴史を簡単に教えやがって! 次会った時は天誅下してやるからなぁああああ!!」
「ぉぉ…ぉっ…」
“結界作成”で囲んで抑えているはずなのに感じる魔力に思わず沿ってしまいそうになった。
母さんの体の中には嫉妬の残滓が残っているからこそ魔力は十分蓄えはあるはずだけど、それを圧縮させたかのようなこの魔力は俺も流石に堪えた。
「まぁまぁ母さん、ここは一旦落ち着かせよう。俺の結界でも抑えきれなくなったらヤバいし、俺や真莉亜はまだしも華怜にはマズイから落ち着かせね。」
「………それもそうね。ごめんね零くん、抑えるのに無茶させちゃって。」
「いやいや大丈夫だよ。ただ母さんの魔力は俺でもすごいと思ったよ。」
「普通はこんなに魔力を外には洩らさなかったんだけどね。感情が勝ってしまうとこんな風になってしまうの。」
「そっか。なら俺が感情をコントロールできないのは母さんの遺伝でそうなってんだな。」
俺はなんとなく察しては納得してしまって、それからは何も考えずにお菓子を食べてからコーヒーでそれを流し込んだ。
「零くん、母さんも後から話をするから、零くんがこっちに戻って来てからの話を教えてくれる?」
「別にいいけど、少し長くなるよ?」
「大丈夫よ。明日はお休みにしてるから、ゆっくり話を聞けるわ。」
「……わかったよ。なら、俺と真莉亜が学校で昼休みをしていたところからね。」
それから俺と母さんは、久しぶりにお互いの昔話を語り合いながら、長い夜を過ごしていった。
というわけで、歴代勇者は教師と母親でした。
はっきりいって出すのはバラバラがいいかなって思ったりしたのですけど、主人公の正体で繋げないといけなかったので仕方ないよね……
今日は三日目!
明日は最終日なので、是非とも読んでください!




