83話 憤怒との語り合い
俺の気分で一気に投稿しようと思いました。
4月の終わりまでなので、4日間で一話ずつ投稿します。
体育館の扉を塞いでいた障害物をいとも簡単に壊して見せて、そこから中に入って来た零は、突然攻撃態勢で向か入れられている事に、顔を引きずらせながらそれを見た。
「お、おい……いくら何でも武器を構えながら迎え入れるのはどうかと思うぞ。」
「普通ならしないけど、あなたがいったい何者なのか分からない以上、警戒しないといけなくなってしまったの。」
いきなりそう言われて零は首を傾げて考えていると、ハッとして体育館の中にいた奴らの顔を見て行くと、怯えたり警戒されてるのに気付いて、申し訳なさそうにしながら頭を掻いた。
「あぁー……すまん。シャバの空気を吸うのが久しぶり過ぎて、覇気をこっちまで感じさせてしまっていたんだな。そりゃあ警戒されてもおかしくないか。」
零は申し訳なさそうにしていたけど、未だに警戒を解いてくれてない二人に対して、まずは落ち着かせようと両手を上に挙げた。
「まぁーアンタらが警戒するのは分かるけど、ひとまずは先に避難を優先させてくれないか? せっかく外に出られるようにもなったし、敵もいなければ警察も外で待機してもらってるから、そっちからしてくれないか?」
零の言葉に敵意を感じずにいたから、真莉亜と先生はお互いの顔を向き合ってから頷いて、警戒を解いて後ろを向いた。
「扉に近い者から外に避難しなさい! 出たらすぐに運動場で避難訓練と同じように集団で固まりなさい!」
櫻井先生の言葉で、ようやく外に出られると思った生徒たちは、扉に近い者から順に外に出始めて行った。
零は全員が避難している間に、話しやすいように壇上の前にあった階段に腰を掛けて、トモや他の全員に話をしようと視線を送って、先生と四人に合わせて、生徒会のメンバーの全員もその場に残った。
それからしばらく待って最後の一人が外に出ると、警察が中に入って来て、捉われていたヴェノムを確保して運び出すと、一人の女性教師が櫻井先生の所にやって来た。
「櫻井先生、生徒と教員の避難が完了しました。」
「ありがとうございます。私たちの事は大丈夫ですので、他の生徒や教員の皆さんをお願いします。」
「わ、わかりました。」
女性教師は櫻井先生から聞くと、その場を後にして行った。
生徒や教師がいなくなって静まり返った体育館に残ったメンバーは、零がいる壇上の前にまで近寄った。
「全員の避難も終わったから言わせてもらえるけど、あなたは一体誰なの?」
櫻井先生は武器こそは構えなかったが、自身の聖剣を手に持って再び警戒をしながら零に質問をした。
「―――俺はサタン。別の言い方では憤怒の悪魔と言われている奴だ。」
零の体を使っている憤怒は、階段に座って顔を上げてから名乗った。
憤怒といって初めこそは首を斬るしかないと思っていた彼女だったが、憤怒から戦う意識すら全く見えずに、しかも簡単に生徒の避難を優先させたって事に疑問を持っていて、どうするべきかずっと考えていた。
(――――このまま話すのは問題はないだろうけど、今しゃべっているのが彼じゃなかったら、彼は死んでる? いや、それはあり得ないわね。だって憤怒の気配が出るまでは彼の気配は感じ取る事ができたのだから。)
櫻井はこれからどうするべき考えていたら、憤怒はいきなり頭を下げて謝罪をしてきた。
「まずはすまなかった。目覚めて気が立っていたせいか、殺気を混じらせた覇気を周辺にまで浴びさせるような事をしてしまって。」
「…………へ?」
いきなり謝ってくると思っていなかった櫻井先生は、突然の憤怒の謝罪にポカンとしていた。
そして同じく真莉亜も、今の状況の理解に追いつけなくてただただ呆然としていた。
「えっ待って。どうして謝ってるの?」
「いやどうしても何も、本来なら俺が倒した亜種のミノタウロスに向けてた覇気をお前たちにまで被害を与えちまった以上、謝るのは当たり前だろう?」
「ちょっと待って。あなたには悪魔としてのプライドとかないの!?」
「え、ないよ。」
「…………」
あっさりとプライドがないと宣言した憤怒に対し、櫻井先生は言葉を失った。
それは彼女だけではなく、元魔王だった真莉亜も同じ反応をしていた。
パラディエスにいる魔族は、一部を除いて好戦的な性格をしている者が多く、その中でも僅かな数には、侮辱されると無差別に人間を殺したりする種族であるのだ。
だけど目の前にいる憤怒は、そんなのを最初から持ち合わせていないかのように普通に謝ってきて、それを見ていた櫻井先生は思考が停止してしまっていた。
「えっと、あなたは憤怒の悪魔であるのは正しいのよね?」
「あぁ。だけど俺は他の奴らとは全く異なっている部分があるんだ。」
「異なっているって言うのは、その性格がって事なのか?」
「いや、俺は人の感情を多く持っているせいで人間に近い人格になってるんだ。」
「「「「人間に近い?」」」」
悪魔であるのに人間に近いって意味が全然分からなかったのか、その場にいた全員が首を傾げた。
それを見ていた憤怒が、簡単に説明をし始めた。
「俺たち大罪の悪魔というのは、人の感情を塊にして生まれた存在なんだ。例えば憤怒とかは怒りや憎悪などが元となってる。」
「という事は、パラディエスで魔人になってる奴等は、その感情を多く抱いてしまっているから魔人になっているの?」
「半分あってる。もう半分は“大罪の悪魔の結晶核”が制御できてないから、魔人になっても制御出来ずに暴走したりするんだけど、憤怒である俺には感情を制御できるようにブレーキがあるんだよ。」
「つまり―――どういう事だ?」
「もっと分かりやすく言うと、感情と一緒に一人の人間としての魂まで生まれちまったって事だよ。」
憤怒が簡単に説明をしてあげていたけど、それでもトモは微妙に意味が分かっておらずに、それを見ていた憤怒は溜息を吐いた。
「相変わらず、お前は理解力が欠けているよなぁ…―――」
「ん? なんか言ったか?」
「いや何も言ってねぇ。という事だから、今の俺は他の大罪に反逆を起こして、お前たちと一緒に戦っていく事にしたからよろしく。まぁ戦うのは俺じゃなくて持ち主のコイツだけどな。」
憤怒がこっちの味方になった事に対して櫻井先生はまだ納得しきれていない中、ずっと黙って蚊帳の外にいた日下部が憤怒に質問した。
「一つ聞くが、憤怒であるお前が今しゃべっているのなら、体の主である零は今どうなっているんだ?」
日下部の言葉でハッとなったみんなは、一斉に憤怒の方に顔を向けたが、憤怒は心配するなといった表情でみんなを見た。
「今コイツはミノタウロスの攻撃を連続で受けてしまったせいで意識がないだけだ。元々俺と交代する前から瀕死に近い状態だったが、憤怒の再生を使って傷を全部回復させたんだ。」
「つまり零は今眠っている状態で、お前が代わって伝えているのか?」
「そうだ。俺もお前たちと話すのはこれが最初で最後になるだろうし、コイツが眠っている間に軽く説明しておこうと思って俺が表に出てるだけだ。」
「軽く説明?」
日下部がどういった説明だと聞くと、憤怒はさっきまでの余裕な表情をなくして、真剣な眼差しで口を動かした。
「まず大きな事として一つ目は、主であるコイツと俺の適性率は100%であって、今コイツは魔王になってもおかしくない状態になっているって言うのが一つ目だ。」
『ま、魔王!?』
魔王と言われて全員が驚いていたが、その中でも一番驚いていたのは真莉亜だった。
彼女は手違いであっても一度魔王を経験しているから、人間に戻った今の彼女にとっては、自分の彼氏である零が魔王になるのはあまり喜べなかった。
「れ、零君は今魔王になっているの?」
「いやまだだ。今は仮定の状態で止まってるから、なるかならないかはコイツ次第だ。」
「そ、そう…―――」
「神崎真莉亜にとっては、あまり嬉しくはないと思っているんじゃないか。一度その辛さを経験しているなら、理解はできているだろう。」
「―――まぁね。私にとっては反対だよ。」
真莉亜は昔の事を思い出してしまい俯いてしまったが、絶対とは言いきれなかった。
彼女の中では、今の零は魔王になる事を受け入れると思っており、自身を殺戮するだけの兵器になるんじゃないかと考えているからだ。
「まぁ――お前の気持ちは分かるが、お前の予想とは違う形になると思うぞ。」
「どうしてそう言い切れるの?」
「今コイツの体を扱って感じたが、コイツはどうやら普通の人間とは少し違う肉体を持ってるみたいだ。」
「……どういう事?」
憤怒から出た言葉に、全員が何を言ってるのか分かっていないかった。
それは憤怒本人も少し驚いていて、主である零の体の奥に何か錠みたいなので押さえられてる何かがあるのに気付いたからだ。
「俺にはわからないが、おそらくコイツは俺の予想とは違う体を持っているみたいでな。少し調べてみたけど、これは簡単には開ける事はできないみたいだな。」
「それって、零は初めから人じゃないって事になるの!?」
「俺もそう思ったが、今現在扱っているこの体は人間である以上、多分人間と何かのハーフである可能性が高いみたいだな。」
「人間以外に何かがあるって、それって大丈夫なのかよ。」
「それに至っては大丈夫だろう。俺がさっき仮定の状態で止まってるって言ったのは、この錠が邪魔しているから魔王になりきれていないだけで、しかも器用に人間の方には魔王とならないようになっているんだ。」
「それってどういった状態になっているんですか?」
後ろにいた浅野が分からず聞くと、憤怒は少し考えた表情になって、今思いついたかのように話し出した。
「白崎零という器の上に、二つの色が混ざり合わずにその色をキープしているような状態で、どっちもその色には侵食しあわないような感じになっている―――といった感じに思えるな。」
「二つの色が混ざらずにいる…―――」
真莉亜や他のみんなも言葉を失いながらも、今後の零との会話はいつも通りにしていこうと思っていた。
憤怒も全員の表情を見ている限りあまり深追いを振る必要はないと思って、次の話を持ち掛けた。
「気を落としているところ悪いが、次に行かせてもらうぜ。二つ目は色欲の組織の大きさだ。」
「え、まさか分かったりするのか?」
「いやこれも仮定だが、俺の予想としては5,600はいると思っていた方がいいぞ。」
「かなり多いが、どうして仮定でそう思っているんだ?」
トモや明日香が予想していた数よりも多かった事にトモが反応して聞くと、憤怒はポケットに入れてたミノタウロスの魔石をポケットから取り出した。
「これはさっき戦ったミノタウロスの魔石だ。わからない奴等に説明すると、これは心臓と同じであって、魔物にはこれがここに一つあるんだ。」
憤怒が零の体の心臓を指で刺しながら説明した。
魔石を始めて見た者は興味津々に見ていたけど、櫻井先生だけは鋭い眼にして見て、憤怒に声を掛けた。
「それってもしかして、クラッシュだった人間の魔石でなの?」
「あぁそうだ。これができるのは、十中八九あの魔物で確定だろう。」
「―――そう。」
櫻井先生はそれだけを言って明らかに表情を曇らせおり、知らない奴等はかなり驚いていた。
何で顔を曇らせたのかわからなかった他のみんなは、それを聞こうとしたが、櫻井先生の表情から察して、どうしてもそれが聞けずにいた。
「まぁ俺が何で組織がそれくらいの数だと思っているのかは、さっきクラッシュって奴が魔物になったみたいに、他の奴らも魔物になる可能性があるからそう言う予測でいるだけだ。」
「―――そういえば、ヴェノムの奴も試作品がどうとか言ってたから、すでに量産する手前までの段階に言ってるかもしれないわね。」
明日香はヴェノムの言ってた事を思い出して、これ以上放って置くのはマズいなと考えていた。
「まぁ襲撃時間が夜とかだったらコイツと神崎真莉亜の従者を使えばあっさり倒せるだろうが、世間に出ればかなり面倒だから手早く行動をした方がいいと思うぞ。」
「そうね。どうせここに襲撃を仕掛けてきた以上、ここもターゲットにされてるって事だろうし、私も早めに敵の情報を探さないといけないわね。」
「俺たちも早く零たちを博士に合わせて情報交換したほうがいいかもな。」
「私たち生徒会も協力しよう。異能についてはまだ浅いが、戦力にはなるだろうからな。」
それぞれがこれから行動をしていこうと活気ついてきた所で、憤怒はあぁそうだと言ってある事を思い出しれ、それを話した。
「ミノタウロスと戦っていたコイツの記憶を見たんだが、途中でライフルによる妨害でコイツに傷を負わせた奴がいてな、しかも動いていた状態から心臓の横を当ててきたみたいだから、制度はかなりいいと思うぞ。」
「狙撃手がいるのね。だったらサーニャの異能も“遠距離射撃”って言うみたいだから、その心配はないと思うぞ。」
「いや会長、私そもそも異能は使った事がないので無理だと思いますヨ。」
サーニャは日下部の言ってた事に冷静なツッコミを入れて冷たい眼で日下部を見た。
それに気付いた日下部は焦って冗談だと言ってたけど、生徒会のメンバーは会長のおやじギャグの被害に遭っているから、信頼があっても尊敬は最初の時に消えてなかったから宥めても意味はなかった。
「それじゃあ俺からはいう事もなくなってきたし、そろそろ俺も憤怒の中に眠るとするかな。」
「え、お前って零が起きるまでおるんじゃないのか?」
突然憤怒が眠ると言ってきて、トモが全員の代弁をするかのように憤怒に聞いた。
憤怒はトモの答えに何も言わずに、ただ首を横に振って答えた。
「本来ならそうしたいけど、覚醒したばっかでまだ体が馴染んでいなかったからな、俺の役目はこれで終わりだ。まぁ最後にここにいる全員にだけ一つ言っておくとするか。」
憤怒は一回呼吸を置くと、再び真剣な表情になってみんなを見た。
「これからお前たちもそうだが、コイツは血を流す戦いがこれから続くと思う。特にコイツの彼女である神崎真莉亜、そしてトモに明日香、今のお前たちが零の心の支えとなる柱なんだ。コイツが闇に堕ちる事は絶対にしないでくれ。」
トモや他の二人は、憤怒の言った言葉に対して、今更それを聞かなくても分かるだろうと思っているかのようにお互いを見合いながら笑い、憤怒を見て答えた。
「心配するな。俺たちもそうだが、常盤や会長たち、それに先生がいるんだ。零が闇に行きかける時は殴って説得してやるし、そうなっても俺は必ず止めるぜ。なんせ俺は零のヒーローなんだからな。」
トモの言葉に同意するかのように、他のみんなも頷いて憤怒の言葉に答えた。
それを見ていた憤怒は安心したかのように笑ったが、少し悲しそうな顔になってトモを見た。
「そうだよな。お前は昔からそう言った奴だったな。だったら、後はお前たちに任せてもおかしくはないか。」
「憤怒、これから味方になるんだから、仲間としてこれからもよろしくね。」
「あぁ……よろしくな。それじゃあ俺はもう眠るから、コイツの事を頼むぞ―――お前ら。」
憤怒はそう言ってから眠るかのように脱力して、階段にもたれかかってから眠った。
明日も投稿するので、よろしゅう頼みます。




