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82話 憤怒の覚醒

≪体育館≫


「どうだ、見つかったか?」


「ダメ、何処にも見当たらない。」


「こっちもダメだったわ。」


「ステージの下にもないってなると……クソっ、あと何処にあるんだ!?」


トモも焦りながら声を荒げていたが、この場にいる全員も同じことを思っていた。

探してから10分は経ったが、未だにバリアを張っている装置みたいなのは見つからないし、探せる場所がなくなってきていてどうしようもなくなっていた。


(こんな事をしている間にも、零が外で奴と戦ってるんだ。早く探さねぇと……)


コンコンッ


「……? 今、外から聞こえたよな?」


「待って、私が見るわ。」


櫻井先生がトモが開けた壁の穴を覗いてみると、そこには数人の警官がいた。


「警察だ。中にいる人質は全員無事か?」


「警察! やっと来てくれたのね。」


櫻井先生の言葉で何人かが振り向いて、穴から見えた警官の姿を見て安心していた。


「今中の様子はどうなっているんだ?」


「中にいるテロリストはどうにかできて捕縛しているわ。それよりも外の方はどうなっているの?」


「今一人の生徒が牛みたいな化け物と戦っていて、私たちじゃ足でまといなると分かってこちらに行くように頼まれたんだ。そちらの中が無事なのなら開けてほしい。」


「それができないわ。扉や窓に付いているものが固まってびくともしないし、壁を壊してもこのバリアみたいなので外には出れないの。」


警察は話を聞いて扉やなどを調べると、確かにどうする事もできないし、外からバリアを叩いてみてもダメなのが分かって、先生の顔を見た。


「確かにそちらの言った通り、全部が全部人の力では壊せない。何か分かる事はないのか?」


警察の話を聞いていたトモが、先生の肩を叩くと、彼女は頷いてその場から少し離れてトモにその場を譲った。


「このバリアはある装置が作動していて動いている。中にはなかったって事は、外にある可能性があるんだ。何か機械みたいなのがないか探してほしい。」


「機械か……わかった、探してみよう。」


警察の一人が彼の話を聞くと、急いで体育館の周辺を探すために動いた。


(正直これで外にもなかったら手詰まりになっちまう。零、もう少しだけ耐えてくれ。)


トモは外で一人で戦っている零が無事である事を祈りながら、再び機会を探すために行動し始めた。

そんな中、ただ一人動けない者を心配しながらも。


**********


「――――おい牛野郎。何処に行こうとしている。」


ミノタウロスは後ろから声を掛けられて振り向いた。

するとそこにはさっき死んだと思っていた零が立っていて、ミノタウロスは顔には出さなかったが、僅かながら驚いていた。


「グルルゥゥゥ……」


初めは仕留め損なったかと思っており、再びトドメを刺そうと身構え、零に向かって突進した。


「――――フンッ。」


零は突進してきているミノタウロスに対して避ける素振りもせず、ミノタウロスの体を片手で難なく止めてみせた。


「!!??」


瀕死だと思っていた人間が簡単に自分の突進を受け止めた事に、ミノタウロスは動揺を隠せなかった。

突進で確実に殺せると思っていたのだが、この人間は自身の突進をそれを難なく止めて見せて、しかも受け止めたタイミングに合わせたかのように体の傷をどんどん治していき、ついには自分が作った傷を全部治して見せた。


「焦っているな。そうだろうなぁ……だって振出しに戻ったんだから。」


「ブルルルゥゥゥゥゥ……!!」


「おいおい待てよ、お前の攻撃(ターン)は終わってるんだよ。今度は――――俺の攻撃(ターン)だ。」


零はミノタウロスを抑えたまま、空いた右手で殴って飛ばした。


「―――――??」


ミノタウロスは何で自分が飛んでいるのか分かっておらず、ただ一つだけ理解できたのは、さっき人間に殴られて痛いと感じた事だった。


「ブルルァァァァ……!!」


零によって殴り飛ばされたミノタウロスは重力に逆らって空を舞っていたが、やがてその抵抗は終わり、体はどんどん落下していって、地面を抉るかのように通った道に線が描かれていって倒れた。


「一発殴られたからってそこまで名演技に飛ばなくていいんだぞ。それともお前の体が軽かったからそんなに飛んだのか?」


20mは飛ばされて距離はあったはずだったが、零にはそんなの関係ないかのようにミノタウロスの体の上に一瞬のうちに乗って顔を窺っていた。


「グゥゥゥ……フグルルルゥゥゥゥ……」


「あぁそうか。お前は牛だからしゃべるという概念はなかったな。今のは聞かなかった事にしてくれ。」


「ブルルルルゥゥゥ……――――グオオオオオオオ!!」


「おっとっと、危ない危ない。」


ミノタウロスは上体を上げて零に掴みかかろうとしたが、零はミノタウロスの手が来る前に後ろに下がり、ジャンプしてから届かない所まで下がった。


「フー……フー……フー……」


「ふむ、体を慣らすために ストレッチ感覚でお前と遊んでいたが、これじゃあ日が暮れてしまってしょうがない。」


「グルルルルゥゥゥゥ……」


「はぁ~仕方ない。興も冷めたし、さっさと殺してアイツらの元に行くか。」


零は頭を掻いて首を回して軽く柔軟をすると、ミノタウロスに殺意をぶつけて睨み、ミノタウロスは零から感じ取れる殺意を浴びて戦慄した。


わずかな時間でミノタウロスはない知識で察した。

この男はさっき爆発で致命傷にまで追い込んだはずなのに、体にあった傷は全部なくなり、今度は自分が追い込まれてしまっていることに。


そしてミノタウロスは自分の攻撃で卵だったこの人間を孵化させてしまい、眠っていた獣を起こしてしまったと今になって後悔しており、野生の本能で獲物を狩るために身構え、突進を仕掛けた。

しかしその時にはもう遅く、零の攻撃はすでに終わっており、ミノタウロスの体には七本の線が通っていて、そこから大量の血が溢れると同時に、肉体はズレてバラバラになって崩れていった。


ミノタウロスはわずかな時間で感じたのが、どうして死んで、いつの間に攻撃されたのかを思いながらも、それを理解出来ぬまま、体は灰になっていき、一つの魔石を落として消滅した。


「さて、終わった事だし、まだあっちが終わってないから助けに行くか。」


零……否、()()()()()()()()()()()()()()()()は、魔石を拾い上げると、本来の役目を終わらせるために、彼の記憶を頼りに体育館に向かって歩き出した。


**********


「真莉亜ちゃん、しっかりして! 白崎君を助けるんじゃないの!」


夏奈はずっと落ち込んでいた彼女に声を掛けていたが、彼女は何も聞こえていないのか、返事をするどころか顔を下に向けたまま全く動こうとしなかった。


「常盤、神崎の様子はどうだ?」


「ダメ、全く聞こえていないみたい。多分喪失感から出てきた感情に抑え込まれてから何も聞こえていないのかもしれない。」


「それは簡単に言うと、零を失いかもしれないから絶望しているって解釈でいいのか?」


「それで合ってるわ。」


トモは零や常磐と違ってあまり知識には乏しかったが、今の彼女の状態から察してその答えに辿り着いていたのだ。


(神崎がこんな状態になってるって事は、それだけ(アイツ)の事を好きだって意味になるよな。)


トモは明日香と付き合っているから、大切なものが失われそうになる状態になっている彼女を見て痛々しく思っていた。


本来ならクラッシュ相手に手こずる事はないだろうと幼馴染の勘でわかっていた。

だが相手が急に化け物になった事で自体は急転し、今の状況を打開しないといけなくなってしまったのだ。


「おい刑事さん、そっちに機械は見つかったか?」


「ダメだ、それっぽいものが見つからねぇ。多分外にはないかもしれん。」


「クッソ……後は何処を探してない!」


トモも真莉亜ほどではなかったが、零の事が心配で焦っていた。

もちろんそれは他の二人も同じで、零をところに早く行かないといけないと思いながら必死に探していた。


「真莉亜ちゃん、お願いだから協力して!」


「私は弱いよ……どうして私の手は簡単に大切なものに届かないの…―――?」


「夏奈、ごめんけど少し横にズレてくれる?」


「え?」


――――パチン!


生徒のほとんどがまだ機械を探している中、頬を叩いた音が響き渡った。


「――――……え?」


「いい加減にしなさい! アンタが先に折れてどうするのよ!」


「あ…明日香ちゃん…?」


明日香に突然ビンタされてようやく現実に戻って来た真莉亜だったが、何で自分が頬を叩かれたのかをイマイチ理解しきれていなかった。


「アンタにとって零は何なの!? アンタの中ではもう零は死んでんの!?」


「で、でも……」


「じゃあ聞くけど、このままアンタが動かなかったら、アンタは零を見殺しにするって事になるわよ。」


「え……?」


真莉亜は零を見殺すと明日香の口から聞こえてきて、そのまま零が死んだイメージ図が頭の中に流れ込んできて再び暗闇の中に飲まれそうになってしまっていた。


「し…死んじゃいや……死んでほしくない。」


「零が死んでほしくないなら、アンタはどうするかは分かるでしょう。零もきっと、アンタが助けに来てくれるって思っているはずよ。」


「私を……待ってる。」


その時真莉亜は、昨日の昼休みに零が二人に言ってたのを思い出して、零が二人みたいになるためにパラディエスでどれだけの人を助けてきたのかを見続けてきた。

だけど零自身はパラディエスでは、勇者だったからこそ一度も弱音を吐かないで前だけを進み続けていたけど、ホントは自分も助けてほしかった事を誰にも気付かれないように弱音を吐いていたのを覚えていた。


(馬鹿だな――私。―――せっかく好きな人に助けてもらっていたのに、自分が過去(じぶん)に負けてどうするんだよ。)


真莉亜はゆっくり体を立たせると、両手で頬を思いっきり叩いてから明日香やみんなを見た。


「ごめんみんな、私忘れる所だった。私を最初に助けてくれたのは零君だったのを。」


「真莉亜ちゃん……」


「夏奈ちゃん、ごめんめ。もう大丈夫。」


夏奈はようやく元に戻ってくれた真莉亜を見て、安心したかのように笑って真莉亜を見た。


「よし、神崎が戻ったところで、後は何処を探せばいいか考えよう。」


「待って、私に任せて。スキル開放“月ノ目”。」


真莉亜は月読の加護を手に入れた際に、‟魔眼”の進化版である“月ノ目”を使って、周辺を手あたり次第に探した。

床や壁を見ながら何か探していたら、屋根の上に何かがいてあるかのようにあった事が分かり、これだと確信した。


「見つけた。体育館の屋根の上、中心にあるわ。」


「屋根の上……だったらここをずっと探しても見つからない訳ね。」


「考えるのは後だ。明日香、屋根の中心をお前の異能で撃ち抜け。」


「わかったわ。みんな、中央から離れて!」


明日香が天井の中心に異能で定めている間に、他の全員で生徒や教師を壁側に避難させて、避難が完了したところで、明日香に合図を送った。


「一撃で撃ち抜いてやるわ。必殺 “一窮入魂(いっきゅうにゅうこん)”!!」


明日香は10秒間のチャージさせた事により、ヴェノムの時に放っていた攻撃よりも大きくて強力な矢ができており、それを天井の中心へ向けて放った。

放たれた矢は天井を貫いて、真莉亜が言ってた通りにバリアを張る機械がそこにあって、矢はその機械に命中して、体育館を覆っていたバリアは完全になくなって外に出られるようになっていた。


「おい、バリアがなくなって外に出られるぞ!」


一人の生徒が叫んだせいで、その場は祭りのように騒ぎ出して、我先はという感じで外に出ようとしたが、トモの空けた穴が思ってたよりも狭いから出れないのが分かって、落胆していたところを櫻井先生が手を叩いて全員の視線を集めた。


「みんなが外に出たいのは分かるけど、今は外にも敵がいるから、まずは警察の指示を聞きながら行動を……ッ!?」


先生が話をしている最中に、突然空気が揺れる程の殺意が外から襲ってきて、一瞬だったがその場にいた全員がそれを浴びて恐怖する者もいれば、過呼吸になりかけている者もいた。


「な…何だ、今の気配は…?」


「今感じたの、さっきよりも強かったよ……」


「この殺意と一緒に交じり合った覇気は……まさか憤怒の魔人?」


パラディエスにいた真莉亜と櫻井先生だけが、その覇気の正体に気付いて、憤怒というワードが出てきてから、憤怒の結晶核が零の中に入っていってたのを知ってた四人の顔色が変わった。


「まさか……零の中に入った奴が目覚めたって事じゃないよな?」


「おかしくないよ。ただこの覇気、私も似たようなものを感じた時があったけど、さっきのはそれを遥かに超えてるよ。」


「ちょっと待って! もしかしてだけど、白崎くんが憤怒を持ってるの!?」


零の中に憤怒が入った事を知らなかった先生が、明らかに驚いた顔で聞いて来た。


「持ってるというより、憤怒の結晶核が勝手に零君の体の中に入っていったんです。」


「勝手に入っていった? 結晶核に自我があるなんて聞いたことがないよ!?」


さっきまでの勢いがなくなって、一瞬にして感じた殺意に怖気ていたら、先生と真莉亜が何かを感じて壁の方を振り向いた。


「先生、この感じってまさか……」


「―――近づいて来てるわ、確実にこっちに。」


二人は覇気の正体が零本人であるかどうか判断ができなかったから、念のためにいつでも攻撃ができるように構えた。

来てる間に他の三人に指示を出して、距離を置くように全員を下げていたら、扉を防いでいた障害物の所に黒色の渦みたいなものが出始めて、人一人分の大きさまで膨れたら突然消えて、扉を塞いでいた何かの所に穴ができて、そこから一人が中に入って来た。


「なんだ、こっちも終わってたんだな。」


そこから現れたのは、一人でミノタウロスと戦っていた白崎零で、彼のトレードマークだった蒼い瞳は、魔人特有の黒白目に燃える炎のような紅い瞳をしていた。

タイトルを裏切るかのように魔人になった主人公ですが、彼は勇者ですのでお忘れなく。


次回からの投稿ですけど、急な事で申し訳ありませんが、これからは投稿期間をバラバラにさせてもらいます。


突然の連絡で申し訳ありませんが、これからも頑張りますので、よろしくお願いします。

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