74話 過去の勇者
『続いてのニュースです。活動を休止をしたアイドルユニット、フォルテッシモの二人がストーカー被害に遭っているのを、事務所の関係者によっての発表で明らかとなり、昨日の夕方、二人をストーカーをしていた男が逮捕されたことが分かりました。』
いつもよりゆったりとしながら学校の行く準備をしていた俺は、昨日のストーカー男が逮捕された事がニュースにされているのをのんびり眺めていた。
『逮捕された男は、「もうこんな事は二度としない」と言いながら怯えた表情で話しており、警察は現在、男の被害に遭ったアイドルや女子高生をくまなく調べる方針で行くとの事です。』
「お姉ちゃん、ストーカーの被害にあってたんだ……」
「でもあっさりと捕まったんなら、もう被害に遭う事はないと思うけどな。」
華怜に合わせながらしゃべっていると、横にいた真莉亜が顔を近づけてきて、華怜に聞こえないように小さな声で俺に話してきた。
(ねぇ、怯えた表情で話したって言ってるけど、どんな事したの?)
(昔俺の仲間にいたベレナスのやってた拷問を少し優しくした感じのやつをずっとやってたよ。)
(それって、犯罪すれすれってレベルじゃないよね?)
(大丈夫、口止めはしたし、もし誰かにバラしたらどうなるか教えてるから問題ないよ。)
(……あえて言うけど、それもう勇者のやり方じゃないよね。)
(もう勇者じゃないから関係ないよ。)
真莉亜が俺のやった事を聞いてちょっと引いてるけど、お前も消えない傷を作ってって夏奈と言ってたから二人とも同罪だからな。
前の桜姉の時みたいに逃げられると思うなよ。
「それにしても、逮捕させたのが一人の高校生って言ってるけど、表彰状を断念するなんてもったいないなぁ。私だったらすぐに貰いに行くけど。」
華怜がテレビを見ながら独り言をしゃべっていたけど、そのもったいない事をしたのはお兄ちゃんであって、俺自身は目立つのが苦手なだけだからな。
しかも今回のは犯罪まがいな事をしてるから、下手に詮索されたら俺の人生オワタになるから、ストーカー男から自首させるように計画を立ててたんだよ。
(それに向こうは、しゃべりたくてもしゃべれないだろうしな。)
「それよりお前ら、ゆったりするのはいいけど、学校間に合うのか?」
「「え?」」
華怜と真莉亜は俺に言われて時計を確認したら、あと20分しかない事に気付いて慌て始めた。
「うわああヤバい!今日私日直だった!」
「零君ごめん!5分で準備終わらせるから!」
「おう、急ぎすぎてから忘れ物しないよにな。」
その後二人はバタバタしながら準備をして、全力ダッシュで一緒に学校に向かい、残り3分の所で校門をくぐる事ができた。
「はぁ~……何とか間に合った。」
「お疲れ、よく頑張ったな。」
俺は前から運動とかしていたから体力はそこそこあったけど、真莉亜は焦りと俺への申し訳なさのせいで、付いた時にはヘトヘトな状態で教室に入り、朝礼が終わった瞬間、溶けかけのアイスみたいになって机に突っ伏していた。
「神崎ならまだしも、零がここまでギリギリになるのは滅多にないな。」
「流石に真莉亜を置いて学校に行くのは悪いと思ったしな。それに俺も朝からゆっくりニュースを見ていたしね。」
「あぁーあれね。ストーカーなんてゲスな行動をする奴がいたなんてねぇ。」
「ホントだよな。全くつまらん奴がおるのは歯がゆいものだよ。」
トモも明日香も俺と同じ悪人が嫌いで、特にトモは昔からヒーローに憧れていたから、悪という悪を絶対に許さない性格してる。
だからこそ俺も明日香もトモの事が好きなんだけどな。
「白崎君、ちょっといい?」
「ん、どうしたんだ夏奈?」
次の時間が自習だったから、櫻井先生に課題のプリントを渡されて配ってた夏奈が俺の所にやって来た。
「さっき櫻井先生が、自習の間に職員室に来てほしいって云ってたから、それを伝えに来たの。」
「櫻井先生が? わかった、連絡ありがとう。」
櫻井先生が俺に用事?
まさか……昨日したことがバレたとかじゃないよな…!?
もしそれがバレてたら―――俺の人生、オワタ!
「お前、なんかしでかしたのか?」
「何もしてないと思うよ……多分。」
「なんで自信なさげなのよ。それより早く行ったら?」
「そ、そうだな。それじゃあ、逝ってくる。」
「おい、言い方間違ってるぞ。」
俺は内心冷や汗が滝のように流れていながら、重い足取りで職員室にゆっくりと向かって行った。
「し、失礼します。」
「あぁ来たのね。少しだけ待ってちょうだい。」
俺が職員室に入ると、櫻井先生が俺を待ってくれてみたいで、机の片付けを終わらせ手から俺に歩み寄って来た。
「あの、話というのは。」
「あぁごめんね、ここじゃなくて別の部屋で二人で話したいの。付いて来て。」
先生は手に持ったどこかの部屋のカギを俺に見せると、そのままどこかに向かって歩き始めて、俺はその後を追うかのように付いて行った。
「ここよ、中に入って。」
「えっと、失礼します。」
特別教室棟にある部屋のカギを開けて中に入ると、そこは休憩室のような部屋になっていて、部屋には畳が敷かれていた。
「そこに座ってくれるかしら。あぁ足は崩しても問題ないから。」
「あ、はい。」
座布団の上に座った俺は、正面に座った櫻井先生の顔をおどおどしながら見てしまっていた。
理由は簡単で、櫻井先生がすごい真剣な顔で俺の顔を見てきているのが答えで、これを意味するのは、俺たちの間では死を意味するからだ。
(お、俺の人生……終わった。)
「急にごめんなさい。どうしても話しておきたかった事があるから。」
「あ、はい大丈夫です。それで話というのは……」
最早救いはないと確信した俺は、諦めた状態で櫻井先生が言ってくる言葉をただ待った。
すると先生から、俺が一番予想してなかった言葉が聞こえてきてしまった。
「まずは初めましてかしらね、6代目勇者くん。」
「――――――へぇ?」
突然先生の口から勇者と言うワードが出てきてしまって、俺は予想が全然違って思わず腑抜けた声を出してしまった。
「え、は、ん、えぇ?」
「あれ…おかしいわね、てっきり知ってると思ってたけど……あぁそうか、私転生してるからもう名前が変わってるんだったわね。」
「え、あ、あの……先生っていったい…」
「あぁごめんなさいね。私はパラディエス大陸4代目勇者、瑞浪風子あらため、櫻井祥子よ。」
「えっ、ええええええええ!!」
俺は柄にもなく叫んでしまい、今は授業中だというのを思い出して急いで口を両手で押さえた。
「すみません、急に叫んでしまって。」
「大丈夫よ、すでにこの空間の音が漏れないようにしてるから問題ないわ。」
そう言われて周囲を“神眼”で見て見ると、確かにこの部屋が結界のようなもので覆われているのが分かって、その時にスキルの中で俺が知ってる“防音”と“結界作成”を使っているのが瞬時に分かった。
「“神眼”か。私と同じものを使っているのね。」
「やっぱり“神眼”は分かるんですか?」
「分かるわよ。その黄金色の瞳は“神眼”の特徴だからね。」
先生は俺の神眼を見て笑いながら言ってきた。
だけど俺はいきなり先生が4代目勇者である事に対してまだ完全に頭の中の整理が追いついていなかった。
「ほ、本当に先生は4代目勇者なのですか?」
「えぇ本当よ、ほら。」
まだちょっと疑いを持ってた俺が聞いてみると、先生は手の平に『ファイア』を出したり『ウォーター』を出したりと、パラディエスにある基礎魔法の初級を全部出して見せた。
「ほ、本当に勇者だったんですね。」
「そうよ。今日の一時間目が自習になるってわかったから、どうしてもいうならこの時間しか言えなかったの。」
「そうだったんですね。てっきり俺はあっちかと思ったので。」
「あっちって何かしら?」
「あぁいや、何でもないです。」
どうやら俺がストーカー男にした拷問はバレてなかったみたいで、とりあえず一安心する事ができたし、さっきまで心臓がバクバク鳴ってたけど、今は安心したおかげで平常心でいられている。
「それで先生、どうして急にこの時間に自分が勇者である事を話したのですか?」
「……白崎くん、今巷で噂になってる異能については知ってるかしら?」
「! はい、最近それを知りました。」
「それで確認だけど、白崎くんは異能を持ってたりとかいない?」
「いえ、俺は魔法の他に妖術や神術は持ってますけど、異能は持ってません。」
「身近にも?(妖術や神術って何かしら?)」
「……思い当たる奴はいます。」
はっきりと言って違うとも言えるし、その可能性でもあると思うといった曖昧な感じになるけど、もしもの意味をふまえて、ここで言ってた方がいいかもしれないな。
「それは誰かしら?」
「確信じゃないですけど、トモ……相川智也と加藤明日香の二人です。」
「なるほど、あの二人が。」
先生は考えるかのように顎を触っていたけど、俺はあぁ言ったけどまだ勇者だと思えないのか、まだ俺の中では勇者なのかって思うようになってしまっているから、ここで打ち明けていた方がいいかもな。
「あの、先生。」
「ん?」
「疑ってる訳じゃないですけど、まだ俺の中で先生が勇者だって事を信じきれてない部分があるので、聖剣を見せてもらう事はできますか?」
「アハハ……そうだよね、いきなり勇者と言ってもおかしくないし、見せた方がいいわね。」
そう言って申し訳なさそうにしていた先生は、"収納庫"を使って、中を確認しながら探し始めた。
「ほら、これが当時私が使ってた聖剣、サラスバティよ。」
そう言って見せてきた聖剣は、刀身がサファイアのように青く光っていて、“神眼”で見てみると、まるで水で作られたかのように水魔法が剣からオーラとなって出ていた。
「“神眼”と“見極め師”で見ましたけど、確かに聖剣で間違いないですね。疑ってごめんなさい。」
「気にしなくていいわ。説明が不十分だったし、私も少し悪いわ。」
「いえ、先生はお気になさらないでください。疑った俺が悪いので。」
「ありがとう。それで話を戻すけど、最近ニュースになっている事件だけど、実は異能が関わった事件がいくつかあったの。」
「事件って、例えばどんなのが?」
「これを見て。」
先生は“収納庫”から一冊のノートを渡してきて、俺はその中身を読んでいくと、新聞の一面のニュースが貼られてあり、そこには最近のやつもあれば、何年か前の事件の内容が書かれてあった。
「ここにある事件が、全部異能に関係があるのですか?」
「全部とは言いきれないけど、例えばこの事件、『謎だらけの強盗事件』とか、『繁華街で学生が大乱闘を起こし、数名が意識不明の重体』とか、少し怪しい部分がいくつかあるのはわかるでしょう。」
「まぁ確かに怪しい部分がいくつかあるのはありますけど、これがどうして異能だと分かるのですか?」
このノートに貼ってあった新聞の記事は、よくわからない事件もあれば普通の事件といったものばかりで、異能と関わっているかって言われてもあまりピンとは来なかった。
「そうね、普通だったら見ても分からないでしょうけど、ここにある『謎だらけの強盗事件』の内容を聞いたら、わかると思うわ。」
「先生はこの事件について何か知ってるんですか?」
「えぇ、実はこの事件の後に情報を探し続けていたのだけど、誰もどうやってお金を盗んだのか分かってないのよ。」
「わからないって事は、監視カメラとかには映ってなかったのですか?」
「いえ、ちゃんと映ってたわ。ただ気になる点としては、機械に何も触らないでお金を盗んだというやり方だったの。」
「機械に触らないで盗む?」
確かに怪しい要素はあるけど、気かに触らないで盗むってやり方がどうやってやったのか気になってしまった。
もし本当に触っていなかったら、それこそ“空間転移”などを使ってから取り出したりするしか方法がないよな。
「先生がこの事件に怪しいと思っているのは、触れないで盗んだ事ですか?」
「それもそうだけど、この時代から計画されてたって思ったら、あなたは何が出てくる?」
「事件があったのが数年前で、それから異能があったって事は……‟怠惰”を持った奴の仕業ですかね。」
「時間操作系はそれが高いでしょうけど、この事件の犯人たちはどうして強盗事件をしたのか、満場一致で知らないって言ったのよ。」
「それだったら記憶操作ができる……って事は。」
「おそらく“色欲”が原因でしょうね。」
“色欲”、またの名前を“色欲の悪魔”と言い、それを持った人間が魔人になって使えるスキルは最大三つあり、『洗脳,操敵,標的集中』。
その中にある“操敵”を使って操った可能性が高いと先生は思ってるのだろう。
「色欲だとしたら、簡単に人を操る事が可能ですし、記憶を簡単になくすことも可能でしょうね。」
「白崎くんは色欲と戦った事があるのよね。」
「はい。俺の時はある貴族の一家を全員操って、そこから多くの奴隷を作って金儲けをしていた奴でしたね。」
「私の時も似たような感じだったわ。あれは見てて息苦しかったのを覚えているわ。」
「俺も同じです。特に俺の場合は罪人が嫌いでしたから、誰よりも先に行動していました。」
少し前に戦ったぬらりひょんもそうだったけど、俺はどうも罪人が目に映ると強い嫌悪感に飲まれてしまって、すぐに攻撃的になってしてしまう癖があるから、それを押さえるブレーキがない以上、いつかは自分で止めれるようにしないといけないな。
「色欲がこの異能に関わってるのは分かりましたけど、異能はどうやって生まれたのかがまだわからないですよね?」
「えぇ、そのあたりはまだ調べてる最中だから、近いうちにわかったら私から情報をそっちに渡すわ。」
「ありがとうございます。それと俺の方も色々と情報を持っていますので、先に先生にはそれを教えときましょうか。」
「そうね、それじゃあお願いしようかしら。」
俺は今持ってる情報を全部先生に教えて、異能がどこまで影響しているのかを、これから別々に行動をしていくための話し合いをした。
――――櫻井祥子が頭を抱えるまで5分後。
近場で職場を探しているが、未だにいい会社が見つからず困っています。
次回は金曜日の深夜0時に投稿します。




