72話 理想と現実の違い
「はぁ~……放課後になっちまったな。」
昼休みが終わった後もどうしようかみんなで話し合った結果、変装は俺の『創造作成』でカツラやサングラスなどの変装グッズを作って、それを使わせかてらどうにかするといった作戦にして、最終手段は夏奈の家に泊まらせると投げやりな結果になった。
もちろん夏奈も翠嵐さんと話しをして許可がもらえた所で、どうするかはお互いに連絡を取り合いながら決める方針で行くことにした。
「零君、ホントに大丈夫なの。」
「帰路でこんなにも足取りが重く感じるのは久しぶりだよ。これだったらあの人に頼んで生徒会の仕事の手伝いとかで時間つぶせばよかったな。」
普段は家庭事情とかで逃げてる俺だが、あの生徒会長の事は別に嫌いじゃないし信頼はしている。
ただ俺の事を前から高く評価しているし、事情を知ってて生徒会に勧誘しようとしている人だから苦手であるだけだ。
「前から思ってたけど、生徒会長と零君はどんな関係なの?」
「昔からの先輩後輩だよ。父さんが死ぬ前からずっと剣道をやってて、その時から一緒にやってたんだよ。」
「零君、剣道やってたんだ。それで生徒会長と仲がいいんだ。」
「別に俺だけじゃない。トモも明日香もあの会長に慕われているし、一緒にアイツらと帰らないのは生徒会の手伝いをしてるからなんだよ。」
「そうだったんだ。」
まぁ毎日手伝ったりはしてないだろうしな。
俺とあの二人とは帰る道が少し違うからだけで、ゲーセンなどで遊びに行ったりする時は一緒に帰ったりしている。
「それにあの人は、俺と照の関係を知ってる人物の一人だからな。」
「それって、中学生の時に起きた事件の関係で?」
「いや……それよりも前からだ。」
あの人にはある秘密があって、それを知ってるのは俺と生徒会メンバーだけで、その秘密を知ってるもの同士だからか、生徒会全員との仲はいいし、連絡も取り合ったりはしている。
「さて、着いたな。……先に言っとくが、腹括っておけよ。」
「どうして、会うだけだよね?」
「まぁ見たらすぐわかる。行くぞ。」
そう言ってドアに手をやって開けて、アイツの靴があることを確認してからリビングに一直線に向かった。
「「ただいま。」」
「「おかえりー」」
リビングに入ってから出迎えてくれたのは、先に晩飯の準備に取り掛かってる華怜と、下着姿でのんびりソファーでくつろいでいるライカこと白崎照だった。
「お前また下着でのんびりしやがって、同居人がいるってメールで言ったよな?」
「別に堅苦しいのはなしでいいかな〜って思っただけ。それよりも横にいる子が零ちゃんの彼女さん?」
「あぁ、そうだよ。真莉亜、コイツは今ニュースで話題のアイドルのライカ、改め白崎照だ。」
「どうも〜零ちゃんの従姉妹で、アイドルのライカちゃんこと白崎照で〜す、照でよろしく。」
「そんで照、こっちが俺の彼女で同居している神崎真莉亜だ。」
「よ、よろしくお願いします。」
「うん、よろしく〜」
照はソファー越しに挨拶を済ませると、くつろぐかのようにまたソファーでのんびりし始めた。
てかいい加減服はちゃんと着ろってんだよ。
仮でも人気アイドル兼モデルでもあるんだし、俺も男なんだから少しの恥じらいはあるんだよ、見慣れちまったせいでもうどうでもよくなったけど。
「これが今の人気アイドル……」
「だから言ったろ、腹は括っとけって。」
真莉亜も今のこの状況を見て絶句していた。
テレビや雑誌では満面な笑みで対応したりしてファンを魅了させているけど、プライベートではのんびり屋でマイペースなのが本来のコイツなのだ。
ファンが見たら絶望するだろうし下着姿なら尚更だと思うだろうけど、こう見えてやる時はやる性格であって、頼まれた仕事は普通にこなしてみせるし、学校でも成績は俺と同じでトップクラスでもあったりする。
(ファンの皆さん、これが今の一番人気のアイドルですよ。)
そんな事を心の中で呟きながら制服の上着を脱いで、照と向かい合うような感じでソファーに座った。
「真莉亜、悪いけど華怜の手伝いをやってくれないか? 俺は今からコイツと話さないといけない事があるから。」
「うん、わかった。」
真莉亜は俺の頼みを聞いたらすぐに制服の上着を脱いでからエプロンに着替え、華怜と隣り合わせになるように並んで調理を始めた。
「…さて、そのまんまでいいから正直に話せ。なんで活動を休止したんだ?」
真剣な目で言ったからか、照はくつろいでいた姿勢をやめてちゃんと座り、何故か俺に対し落ち込んでいるかのように暗い顔で話してきた。
「活動を休止させたのは私情じゃなくて、私が所属している事務所にある手紙が送られてきたの。」
「手紙か……ちなみに内容は?」
「これよ……携帯で写真を撮ったけど。」
そこに書かれていた内容は、『僕は君たちの婚約者だ。いつか迎えに行くよ。』と書かれていて、俺はそれが何なのかすぐにわかった。
「お前……これってまさか…」
「うん。私たちの周りにストーカーが出始めたんだよ。」
ストーカーというワードを聞いた俺は眉間に皺を寄せてから怒りを露わにして、聞き耳をたてていた真莉亜と華怜も驚いた表情でこっちを見てきた。
「ストーカーが出始めたのはいつ頃だ?」
「私のわかる限りでは、4日前から。」
「狙いはお前と皇か?」
「ううん、多分事務所の全員。もちろん萌歌ちゃんもその中の一人よ。」
「そうか。」
今俺が出した皇というのは、照とデュエットを組んでいるもう一人の女の子である皇萌歌だ。
彼女とは照を通じて知り合い、面識も何度かある子だからお互いに親しい仲でもあり、ファンも照より少し少ないが人気のアイドルでもある。
「皇は今どうしてる?」
「今は駅近くのホテルで泊まってるわ。ストーカー被害なんて初めてだからかなり怯えてたわ。」
「そりゃそうだろうな。女からのストーカーだったら怖いですむけど、男…ましてや知らない奴からだったら恐怖の対象でしかないだろうな。」
自分が愛されない、憧れた恋でも儚い夢だからこそ芽生えてしまう独占欲。
相手も気持ちなど考えず、自身の欲望を満たすために罪を犯してまで甘い蜜を啜りたいと願う狂人の行い。
ストーカーというのはそういった存在だ。
(俺は罪人が大っ嫌いだ……あの時からずっと…)
昔の事を思い出しながら黙ってた零に、照は申し訳なさそうに頼み後をしてきた。
「ねぇ零ちゃん。明日の夕方なんだけど――――」
「お前の代わりに皇をここかお前の家に送ってほしいんだろ?」
「うん。頼んでくれる?」
「言われなくても自分からやってやるよ。叔父さんと叔母さんは明日家にいるか?」
「それなんだけど、明日はどっちも大切な仕事があるから休めないって言ってた。」
「それだったら家よりかは夏奈の方に任せてもいいな。お前も明日からはあっちに泊まりな。」
夏奈の家はそれこそ神社の中でもあり、妖術師が多くいて安全でもあるし、なりより照は夏奈とも面識はあるからな。
「私はいいけど、そこにいて大丈夫なの?」
「大丈夫だろう。あっちは家が広いし、俺の視野に入れる事はできるしな。」
「でも常磐ちゃんにも迷惑にならないかな……」
「それなら大丈夫だ。あっちはお前が来たとしても何時でもOKにしてもらってるからな。」
「早いんだね。何時から決めてたの?」
「前の事件みたいにならないように今日の昼休みから話し合ってた。」
それを聞いて過去の自分が原因だとわかったのか、顔から大量の汗を流していて、何も言わずに座ったままただ頭を深く下げた。
どうやらあの時自分が悪かった事をようやく自覚したみたいだった。
実はあの時の真相なんだけど、変装はもちろんしていて顔だけでは分からなかっただろうけど、照の髪は俺や華怜みたいに黒じゃなくてオレンジがかった茶髪であって、かなり目立つ色なのだ。
だから俺はあの時ウィッグやぶかぶかのシャツを着てから変装をしたらどうだと言ったが、照は自身のスタイルなどもあまり気にしないから大丈夫だよと言ってたが、結果は即バレになって大惨事になったというのがオチだ。
(今度からはコイツの変装は大丈夫って言ってきたらダメだって言って黙らせるべきだな、俺の身の安全が優先だ。)
「もう別に怒ってねぇから謝らなくていいぞ。それよりもそのストーカーだけど、姿は見てないのか?」
「うん。警察にも話はしていて捜査をしてもらってるけど、何一つ手がかりが見つかっていないみたい。」
「そうか。」
手がかりが見つからないとなると、そのストーカーはかなり手馴れているかもしれないな。
仮に『極限感知』で察知できたとしても、姿がわからないんじゃあ証拠にはならないな。
「……ねぇ零ちゃん。」
「ん?」
これからどうしたもんかと思いながら考えていたら、照が何か思い当たる節があるかのように声をかけてきた。
「零ちゃんは、異能力…って知ってる?」
「異能力って言ったら、最近あらゆる人に送られてくるメールの事か? 俺のところにはまだ来てないけど。」
「うん。それだけど、零ちゃんはどう思う?」
「うーん、ぶっちゃけ言うと詐欺みたいだから来ても無視しようと思う。」
「その異能力なんだけど……実は実在するみたいなの。」
「は……?」
照が言った言葉に思わず呆けた声を出してしまった。
異世界で魔法が使えるのはわかるけど、ここは日本だし魔法などとは無縁の世界だ。
もちろんそれは超能力も同じで、人が道具を使わないで超能力が使えるのはありえない。
だけど今照は異能力が実在すると言った。
だとしたら改めて色々聞かないといけないな。
「それは実際に見たことがあるのか?」
「あるよ。それにこれをみて。」
照は手のひらに小さな炎を出して、それを見た俺は言葉を失った。
「それって……」
「え!? 照お姉ちゃんの手のひらに炎が!!」
俺が手のひらに出した炎が何か言おうとしたら、こっちを見てパニクっている華怜に言葉を遮られて言えず、それどころか華怜は照の手が燃えてると勘違いて慌ててコップに水を入れ始めた。
「待って華怜ちゃん。これは異能力ってやつよ。」
(おいコイツマジかよ……!)
普通はこんなもの見せたら隠すのが当たり前なはずなのに、照はあっさりと異能力ってワードを使いやがった。
「えっ……異能力? お兄ちゃん、それって何?」
「え、あ…あぁ、最近スマホのメールできている怪しいやつだけど、それ以外はわからない。」
「異能力って言うのは、自身の潜在能力を活性化させて使えるようになる力なの。」
「それじゃあ照お姉ちゃんは、その異能力って力を使えるの?」
「うん、そうだよ。」
華怜はそれを聞いて驚いてるけど、俺からしてらどうしても違和感でしか感じられなかった。
だって今照が出した炎は、異能じゃなくて魔法だったからだ。
真莉亜の方を見て俺と同じ反応をしていたから、あっちも気付いているみたいだし、ここはとりあえず信じるフリをして、慎重にことを進めていくやり方でいく事にした。
「なぁ照。お前が異能力が使える事はわかったが、どうしてそれを俺たちに教えるんだ?」
「何となくだよ。零ちゃんたちなら簡単に受け入れてくれるかなって思っただけ。」
「……」
「照お姉ちゃん。」
「それにもしかしたらだけど、私たちを狙ってるストーカーも異能力を使ってると思うからなの。」
「ストーカーが使ってる可能性がある……か。」
4日も足取りが掴めていないストーカーに+最近知った異能力、確かにその可能性があってもおかしくない。
「お兄ちゃん、かなり冷静にしているけどわかってるの?」
「わかってるよ。今見た異能ってやつが実在している事や照のストーカーの事とかでごちゃまぜになってきてるから冷静にさせようとしてるんだよ。」
まぁホントは考えてるだけで、別に頭の中ではちゃんと全部理解出来てる状態だけどな。
「ごめんね零ちゃん、一気に言い過ぎたね。」
「いや大丈夫だ。それでそのストーカーが仮に異能を持ってるとしたら、もしかして透明になったりするやつとかなのか?」
「わからないけど、その可能性もあり得ると思うの。」
「なるほどな。だったら警察が簡単に見つけられないのが納得できそうだよな。」
多分ストーカーが透明化みたいな異能を使ってから近づいているのは確かだろうな。
だったら別に『極限感知』でどうにかできそうだし、透明だから証拠もないから、警察には頼らないやり方で済ませるか。
「零君、かなり冷静に分析してるね。」
「私、お兄ちゃんがすぐに対応できるのが羨ましいよ。」
いつの間にか晩飯の準備に取り掛かってる二人がボソボソと何かしら話をしてたけど、それは気にしないでどうしていくか照に話をした。
「とにかく明日は皇を夏奈の家にまで送るとして、お前も荷造りはちゃんとしておけよ。」
「わかった。……ところで話は変わるけど、零ちゃんいつの間に常磐ちゃんの事名前、しかも呼び捨てで呼ぶようにしたの?」
「あー……まぁ特に意味はないけど、四年経っても苗字呼びはどうかなって思ってな、最近そういう風に呼ぶようにしたんだよ。」
「へぇー……まぁ確かにね。私もいつまでお互い苗字で呼び合うのかと思ってたし、今更だよね。」
(バレてないよな……バレてないよな……)
照は分かったような顔で落ち着いた顔をしているけど、俺の内心はずっと冷や汗がダラダラ流れてビビってる状態であるから、今はかなりホッとしている。
「とりあえず俺は夏奈に連絡して、明日から二人がそっちに泊まれるように手配してもらうようにするよ。」
「うん、お願いするね。」
「お兄ちゃん、照お姉ちゃん、ご飯できたから食べよう。」
「はいよ。」
「はーい。」
今はこのように楽しく団欒をしている俺たちだが……あんなことになるとは思ってもいなかった。
一週間の休みでゆっくりして、昨日から再就職するためにハローワークに行くことになりました。
次回は金曜日の深夜0時に投稿します。




