68話 時空神の手紙
「さて、豚汁にある材料か……どうしようかな。」
俺は桜姉の言ってた通りに、豚汁のあてとなるおかずを人数分作るために、食材の保管庫を漁りながらどうするか迷っていた。
ていっても全員(25人分)のおかずとなると、かなり絞られてきているから迷ってはいないけど、流石に特訓後の体にはこたえるな。
「……よし、オードブルにして量を多めにするか。そうすればどうにかできるだろう。」
それじゃあ早速取り掛かって……
「……やっぱ一人じゃキツイな……シラヌイ。」
「ワンッ」
「ごめんけどリラを呼んできてくれるか?今外にいるはずだから。」
「ワンッ」
シラヌイは吠えると、すぐにリラがいる場所へと走っていった。
俺はリラが来るまでに材料となる食材をとってきて、手始めにどうするか考えた。
「レイ様、何でしょうか!」
「……早いな。」
頼んでわずか10秒でリラが走ってやってきた……しかも期待に満ちた視線で。
「今から晩飯の準備するから、ちょっと手伝ってくれる?」
「わかりました!」
リラはすぐにエプロンを身につけて、俺の隣に来てからシラヌイと一緒に何時でも動けるような体勢で待てをしていた。
(忠犬が二匹……いや、シグレも含んだら三匹か。)
「じゃあ準備ができたところで、リラは俺と指示通りに料理をしてくれ。」
「はい!」
「シラヌイはそのまま待機。大体のおかずができたらみんなを呼んできてくれ。」
「ワン!」
二人のいい返事が来たところで、俺は早速リラに指示を出した。
「よし、とりあえずリラはひき肉とひよこ豆、あと出してきたキノコを使ってスパゲティを作ってくれ。」
「わかりました。」
「さて、それじゃあ俺はその間にサラダなどを作るか。」
俺はリラに指示を出した後、俺は俺でサラダなどを作っていくことにした。
「「……」」
「……なぁリラ。」
「どうしました?」
「暴食を見て、お前はどう思った?」
「…!……単刀直入に言いますと、レイ様がパラディウスで戦った暴食よりも強かったです。」
「だよな。俺もそう思った。」
お互い何もしゃべらずに黙々と料理を作っていた時、俺はリラに暴食を持っていたぬらりひょんの話をした。
何故この時なのかというのも、従者の中で大罪を持った魔人全員を見ているのがリラだけだからだ。
「あのぬらりひょんが暴食をあそこまで力を発揮していたというのは、かなり適性率があったと見られますね。」
「だろうな。俺から見たら、恐らくあれは80%ぐらいだったと思うんだよな。」
適性率というのは、大罪の結晶核と器となった人間との相性といったもので、それが高ければ高いほど大罪の力を出し切ることが出来るのだ。
もちろん適性率が低い場合はただの魔人にしかなれないから、それに対する対処はそこまで難しくない。
だから俺たちも魔人と戦う時は、適性率などで戦闘を変えたりしていた。
「今回の暴食でわかったことは、あっちにいた時よりもかなり厄介になっているのと、それを持ち出した脱獄者が手馴れているということだな。」
「ですけどレイ様は一度戦っているのですから、その辺りでは有利になるのではないんですか?」
「……そうもいかねぇんだよ。」
「どうしてですか?」
「適性率が前より高くなってるなら、当時俺が戦った時よりも強いはずだ。だとしたら俺が経験している大罪の魔人たちよりも強いのはもう確定だ。現にぬらりひょんが実際そうだったからな。」
俺は野菜を切りながら、勇者の時に戦った大罪の魔人たちを思い出していた。
よくよく考えてみたら、暴食の魔人はぬらりひょんよりも弱かったし、俺も今より強くなかったのにそこまで手こずったりしなかったしな。
「それじゃあ、今レイ様のアドバンテージは大罪たちの機能とスキルを知ってることだけってことになるんですね。」
「あぁ……だけど分からない魔人が一体だけいるんだけどな。」
「……もしかして、憤怒ですか?」
「正解だ。」
憤怒の魔人……俺が勇者時代、唯一戦わなかった魔人だ。
というのも、憤怒の魔人はその当時既に王都の魔術師が討伐しており、結晶核はティファニスさんと同じ最高神の誰かに渡していたみたいなのだ。
だから当時は歴史の本などでしかわからなかったから、どのような機能とスキルなのかは目にしてない以上わからない。
その分どのように対策をとるかも、今現状では全くないのだ。
「でも確か憤怒は、大罪の中でも"最弱の魔人"って言われてませんでしたか?」
「最弱って呼ばれているのは、対象となった魔人の適性率が全員低いから言われているだけでそう呼ばれてるんだよ。」
「それじゃあ、歴史上では憤怒の魔人は全員弱かったのですか?」
「あぁ。パラディエスの歴史で憤怒の適性率が一番高かったのは5代目勇者の時の魔王で、適性率は50%だったって言われてる。」
「最高が50%……」
憤怒の最高が50%と聞いて、リラは腕を動かしながらも俺の話を真剣に聞いてくれていた。
話していた俺もだけど、どうしても憤怒だけは不明な点がいくつもあった。
何で同じ魔族である魔王でも適性率がそこまで低いのかも分からないし、そもそも大罪の魔人がどうしてそんな簡単に生まれるのかも全くわかっていないのだ。
俺もそれをいくつか調べてみようと思ったりしたけど、あっちにあった大図書館にはそのようなものはなかったし、近いものもあったけど重要な文は曖昧にされてたりと、情報を得ることはできなかったため諦めていた。
(ティファニスさんたちに聞いて見るしかないよな……あぁでも誤魔化してきたりするかもしれないなぁ……)
俺はどうやってティファニスさんから情報を得ようかと考えながらも、次の料理の仕込みに手を付け始めた。
「まぁとにかく、憤怒の件に対してはいったんこれでやめだ。とりあえず大罪の魔人と会ったら、なりふり構わず討つことだけを考えよう。」
「そうですね。」
「ただ方針を決めるのは、晩飯食べ終わった後にもらった手紙を読んでからだけどな。」
「レイ様、その手紙にはなんて書かれているのでしょうか……?」
「さぁな……俺の予想はお叱りの手紙だと思ってるよ。」
リラと話していきながら料理していたからか、特訓の疲れはそのあとには長引くようなことはなく、豚汁に合うおかずが全部そろうことができた。
「よし、完成だな。シラヌイ、みんなを頼んだぞ。」
「ワンッ!」
そうしてシラヌイは外に出て、みんなに聞こえるように大きな遠吠えをし始めた。
桜姉から聞いてた通り、ホントに忠義な性格をしているから、今日のシラヌイたちの食事も歓迎会を込めて少し豪華にして挙げた。
もちろん、体の毒にならない食材を使って考慮はしている。
「ただいま~……って、うわあぁぁ……おいしそう…!」
「疲れたぁぁ……ん?おおおぉぉ!今日はすごい豪華!」
「すごい。これ全部お二人で作られたのですか?」
一番最初に帰ってきたのは、服に土などがついてボロボロの真莉亜と竜人姉妹の三人で、俺とリラが作った料理に今にもかぶりつきそうな目で見ていた。
その後も他のみんながやってくる度に同じリアクションをしていって、最後に桜姉たちが豚汁とご飯を持ってきたところで、俺はシラヌイを褒めるために顔をワシャワシャしてあげた。
リラには作り終えた最初にハグして頭を撫でてあげたから、シラヌイには嫉妬の目は全く向けていなかった。
「全員戻って来て、汚れた奴らはちゃんと服を着替えたところで、それじゃあいただきます。」
『いただきます。』
俺の声を合図に、全員手を合わせて同時に声を合わせて言った。
そんでその後はもうすごかった……
え、何がすごかったかって?
特訓などで腹空かしていたメンツがとにかくめっちゃ食って、少なくなってきたところで俺がおかわりを持っていくとさらに盛り上がって、食い始めてわずか15分で全部完食してしまった。
すんげぇ勢いで食べていってたけど、まぁみんな美味そうに食べてくれていたし、誰も残さずに食べてくれたのは作ってやった側からしたら嬉しいからいいか。
全員食べ終わって皿などを洗って片づけたところで、俺はみんなにその場におってほしいと言って留まらせた。
「ちょっとみんなには悪いけど、全員に別々で伝えるのは面倒だからこの手紙の内容を伝える目でおってほしい。それとこの巻物もだ。」
「それは誰の手紙?」
「私たちは知ってるけど、零君と私のいた異世界の神様の手紙みたいだよ。何の内容なのかは知らないし、巻物も何なのかは全然知らない。」
「俺の予想は二つあるけど、どっちもあり得そうだからちょっと不安だけど読んでいくぞ。」
俺はそう言ってティファニスさんから貰った時空神クロノア様の手紙を開封した。
「―――――――――――。」
「零、まさかだと思うがまた読めないというオチではないだろうな。」
「いや大丈夫。日本語じゃないけどちゃんと読めるよ。」
俺は手紙の内容を口に出しながら読んでいった。
『6代目勇者レイ・シラサキ御一行へ
初めまして、私はクロノアと申し、パラディエスでは時空神と呼ばれている神だ。
まだ対面していないのにこのような手紙での形となってしまった事になってしまって申し訳ないと思っている。
今回このような手紙で伝えておきたいことがいくつかあり、まず一つ目はレイ・シラサキ本人に対することで、君が氷の極限魔法で時が止められることに関しては何も追及などはしない。
ただし、いつまでもそのように時間を何度も止めたりするのはあまりすすめない。
それは己の身を亡ぼすものでもあり、周りにも影響などを引き起こす可能性もある。
君が勇者である以上、そのような道を選ばないとは思うが、その事は頭の隅にでも入れておいてほしい。
二つ目は君たちの追っている黒幕の情報だ。
本来ならティファニスが話さないといけなかったが、彼女のミスで伝え忘れていた事を後から知って、代わりとして私の書いたこの手紙に重要な情報をいくつか教えておくとするよ。
今君たちが追っている黒幕、兼神界から逃げ出した脱獄者の名前は‟魔女王イザベラ”、400年前に初代勇者と戦っていた魔王本人だ。
彼女は君たちが知っている大罪の悪魔の結晶核を作った張本人で、結晶核は人間の感情を塊にして結晶化させた物であり、取り込んだ人間はその感情を爆発的に上昇させて魔人になっているのだ。
勇者である君が戦ってきた魔人の結晶核は、君とその仲間によって全部回収された後に神界の最高神のもとに保管していたのだが、彼女は私たちの隙を見て牢から出た後それを盗み、君たちの居る地球に逃げ込んでしまったのだ。
こうなってしまったのは私たちの責任であるのは重々承知なのだが、ティファニスに聞いているとは思うが、今の私たちは簡単に地球に行く事ができないのだ。
だからせめてもの手助けとして、手紙と一緒に渡すように頼んでおいた巻物を君に送るとするよ。
その中には今は無き‟古代魔法”の一つが入っていて、その魔法は神の力にも匹敵するほどの力でもあり、今のパラディエスでは架空とされている魔法だ。
巻物の紐を解くと自動的に君の体の中に入っていくように仕込んでいるから、誰が開けても問題はないし、その魔法の所有権は君だけの物となるから、剝奪されることは絶対ないから安心してほしい。
ちなみにだが君と同じ地球にいる二人の勇者にも古代魔法を渡しているので、贔屓などはしていないからその辺りはあまり気にしないでくれ。
最後に一つ言っておくが、これから厳しい戦いなどをして行くであろうし、地球にいる以上、私たちの世界であるパラディエスとは常識がまったく違って大変だとは思うが、今頼りにできるのは君たちだけしかいないのだ。
どうか誰も失わずに、すべてが終わってくれることを祈っている。
頼んだぞ。
時空神クロノアより』
「……なるほどね。」
「魔女王イザベラ。それが黒幕の正体なんだ。」
俺が手紙を読んでいって、真莉亜はあまり驚いた様子はないけど、リラたちは黒幕の名前を聞いて言葉を失っていて、夏奈や桜姉たちは知らないからかあまり驚いてはいなかったけど、ぬらりひょんに暴食を渡した黒幕に対して怒りをあらわにしていた。
「それにしても、この巻物がまさかあの古代魔法だなんてな。」
「白崎様、古代魔法というのはなんなのですか?」
冬華さんが古代魔法のことについて聞いてきたけど、これは話してもいいのかって思ってしまったけど、別にもう存在していないと言われていたからいいよな。
「古代魔法というのは、初代勇者の時代に存在していた魔法でして、大罪の悪魔に対抗するために作ったとされている魔法です。」
「それじゃあ、その古代魔法は全部で七つあるの?」
「あぁ、この巻物の中にあるのは、おそらくその一つだろう。ただなんの古代魔法なのかはわからない。」
とりあえず紐を解く前に巻物に何か書いてないか確認をしたけど、どこにも書いてあるわけでもなく本当に何の古代魔法が入っているのかわからない状態だった。
別に会ったことのない神様を信じていないわけじゃないけど、古代魔法というのは別の言い方を言うと破壊兵器って言う風に言い伝えられていたから不安でしかないのだ。
(えーいもう当たって砕けろ!後のことなど知らん!)
俺は意を決して巻物を開けるため紐に触ったけど、俺はそこで止まってしまった。
「…?どうしたの零君?」
「……なぁお前ら。」
『?』
「この紐を解いたら俺は古代魔法を一つ所持することになるが、これを持った瞬間、俺は普通の人間には戻れないと思う。」
俺の言葉で何人かは察したみたいだけど、真莉亜や他の分かっていないメンバーはあり得ないって顔をしていた。
「まぁ化け物にはならないだろうけど、少なからずも魔人に近い者にはなるだろう。だからあえて確認として言わせてほしい。お前たちは俺が魔人になっても、付いて来てくれるよな?」
俺は心の隅に置いていた本音を打ち明けるかのように聞いた。
実際勇者である時点で人間離れをしているけど、この古代魔法は今の俺たちにはわからないからこそ副作用みたいなことが起きるんじゃないかって思ってしまっている。
だからこれを解く前にどうしても不安を取り除きたかった。
「……零君。」
「なんだ?」
「二股してる時点で普通の人じゃないともうよ。」
「グボァ…!」
零は10000のダメージを心に負った。
「ちょ…神崎さん!それは言っちゃダメだと思うよ。」
「ごめん、どうしてもそれに引っかかってしまってつい。」
「いやそうじゃなくて、元々二股になった起源は神崎さんだからね!」
「え?……あ゛っ。」
真莉亜は自分が犯人だと思い出したみたいで、両膝を付いて俺に土下座してきた。
「本当に申し訳ございませんでした。」
「いやもういいよ…うん。」
「……レイ様。」
「なんだ。お前も二股について話したい事があるのか?」
「いやそれはもういいです。私が言いたいのはレイ様の言った言葉です。」
リラは真剣な目で俺を見てきて、項垂れている俺と目線を合わせるかのように俺の隣に座った。
「私たちはレイ様によって救われました。レイ様に希望や勇気をもらいました。レイ様に戦う意思を教わりました。私たちに生きる理由を教えてもらったからこそ、私たちはレイ様に付いて来たのです。」
「……リラ。」
「だからレイ様、私たちの事は気にしないでください。レイ様が人の道を外れたとしても、私たちは絶対にレイ様を裏切ったりしません。信じてください。」
リラの言葉に賛同するかのように、他のみんなも頷きながら俺を見てきた。
どうやらリラが言った事はみんな同じ気持ちだったみたいで安心したけど、近いうちに俺も将来的に考えた方がいいかもな。
「ふぅ……お前らの気持ちは分かったよ。桜姉たちや真莉亜の従者のみんなも同じでいいんだよね。」
「もちろんだ。お前が私の弟である以上、止めるときはちゃんと止めてやるよ。」
「私たちも同じです。私たちもあなたを信じていますから。」
「……わかった。それじゃあ、始めるか。」
全員の気持ちが分かって安心した俺は、何も恐れない勢いで紐を解いた。
会社を辞めたらしばらくは体を休めてのんびり暮らすか……
次回は金曜日の深夜0時に投稿します。




