表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
70/157

62話 決着

「中では一体どうなっているんだ……」


私が言葉を零しながら見ているのは、黒い靄によって作られたドーム状みたいなものだ。


これが発生したのは20分前。

助太刀として一番最初に来てくれた鵬祭殿が元凶であるぬらりひょんであり、奇襲作戦から戻って来た娘たちが私たちを離した瞬間に攻撃して、今はあの黒い靄の中に入っている状態だ。


(まさか私の隣にいたのがぬらりひょんだったとは……気付いて感ずかれてしまったら殺されていた可能性もあるのか。)


今尚全身からの冷や汗が滴り落ちている。

といっても、ついさっきまで死と隣り合わせの状態だったのだ。

今生きている事は最早奇跡と言ってもおかしくない。


「みんな……どうか無事に帰ってきてくれ。」


「ご主人様……勇者様……」


横にいるルナちゃんも、自身の主が無事に帰って来てくれるようにずっと祈っている。

だが今の私も、彼女と同じように祈る事しかできない。


この際何でもいい、みんなが無事に帰って来てくれるだけでいい。

だから頼む……もう二度と、妻と同じ悲劇を起こさないでくれ。


「ッ!? 当主様、見てください!」


ルナちゃんが何かに気付いたみたいで、私もそれを見ると、ぬらりひょんが作った黒い靄の塊が少しずつ消えていってるのがわかった。


「も、靄が……消えていってる?」


「もしかして、決着がついたのでしょうか?」


靄が消えていっているというのなら、それが確実であるだろう。

ただどちらが勝ったのかはわからない故に、もしぬらりひょんが勝ってしまっていたら、ここはもう終わりになるだろう。


「全員、警戒は緩めるな! どちらが来てもいいように体勢は整えておけ!」


その場にいる部下全員に指示を出して、私も攻撃ができるように武器だけ構えた。


「待ってください、この気配は……」


ルナちゃんが待ったをかけてきたけど、それでも靄が晴れていくので警戒していたら、私の目に映っていたのは、倒れ込んでいるぬらりひょんと、この世界の未来のために戦ってくれたみんなが、誰も失わずに生きていた。


「ご主人様!」


ルナちゃんも分かったみたいで、涙を流しながら喜んでいた。

彼女もそれに答えるかのように、ルナちゃんのほうを向いて笑っていた。


私も娘たちの姿を見て、ここまで成長して安心したのか、笑って空を見上げた。


(優花。私たちの娘は、私たち以上に逞しくなっているぞ。)



☲☲☲☲☲☲☲☲☲☲☲☲☲☲☲☲☲☲☲☲☲☲☲☲☲☲☲☲



『あ…ありえない。こんな…こんな事になるなんて…』


「まだ生きてたんだな。コイツはどこまでもしぶとい奴だぜ。」


「だけど力を使いすぎたせいで、今は喋っているだけで精一杯みたいね。」


「どうせ生かす意味は無い。ここで息の根を止めて、この地獄を終わらせるとしよう。」


桜さんはそう言ってぬらりひょんに近づき、刀を抜いて首元に当てた。


『ひっ……ま、待ってくれ! まだ……まだ死にたくない! 死にたくないのじゃ!』


「黙れ。」


桜さんは俺たちの見極めの時に使った高速の居合で、ぬらりひょんの両腕を斬った。

というか今の居合、全く太刀筋が見えなかった。


『グアアアァァ!! う、腕がァァァ!!』


ぬらりひょんは腕を斬られて、その場でずっと悶絶していた。

しかし腕斬った程度でこれとか……真莉亜と比べたら全然大したことなかったな。

まぁほとんど俺の慢心と油断が作ってしまった事だけどな……


「その程度で叫ぶな。貴様が殺してきた人間たちは、これ以上の苦しみを味わってきたんだ。貴様が犯して来た罪、この一刀で終わらせる!」


「待ってください、桜さん。」


俺は桜さんを一度止めるために肩に手を置いた。

桜さんは余程ぬらりひょんに憎悪を抱いているのか、ぬらりひょんに向けていた鋭い目線のまんま俺を見てきた。


「零、悪いが止めないでくれ。これ以上邪魔をしていたら、其方までも斬ってしまいそうなのだ。」


「桜さんの気持ちは分かります。だけどどうしてもコイツに聞いておきたい事があるので、それだけでも許してください。」


「……わかった。」


「ありがとうございます。」


桜さんは渋々俺の頼みを聞いてくれて、一度後ろに下がってくれた。

俺は桜さんに一言お礼を言うと、ぬらりひょんのほうを向いて、逃げないとうに腹のところに足を置いた。


「さて、ぬらりひょん。俺はどうしてもお前に聞いときたい事があるんだけどいいかな?」


『な、何だ……何が聞きたい?』


「そう震えるな。俺が聞きたいのは、"暴食の悪魔(ベルゼブブ)"を誰に貰ったかだけだ。」


『ベ…暴食の悪魔(ベルゼブブ)をじゃと……?』


ぬらりひょんは俺がどうしてそれを聞いてきたのか分からないみたいで、混乱しているのか、目の焦点が全くあっていなかった。


「お前が俺と最初に会った時に使っていたのが『混喰(こんじき)』、そして死合会城(しあいかいじょう)って言っていたアレも、正式名称は『暴食の世界(イブクロ)』って名前なんだよ。」


『なっ…』


「そんで"暴食の悪魔(ベルゼブブ)"にはある機能があって、その機能っていうのが…()()()()()()。お前、大和の国を作る前からありったけの人間を殺してきていたんだろう?」


!?


俺の話を聞いていた全員が、恐ろしい事実を聞いて驚愕した顔をしていた。

そしてぬらりひょんもまた、図星だったみたいでさらに焦った顔をしていた。


「冷静に考えてみたらおかしいんだよ。大和の国を複製、八岐大蛇の復活、それに加えての『暴食の世界(イブクロ)』と妖力。それだけ使うのに、どれ位の魔力や妖力が必要になると思うんだよ。」


「で、でもおかしいよ零君?! そうなったら、ぬらりひょんは"暴食の世界(ベルゼブブ)"を昔から持ってるって事になるよ!?」


「おかしくないぜ。それを可能にできる力が、一つだけ存在するんだからな。」


「それって……?」


「"怠惰の悪魔(ベルフェゴール)"。」


「え?」


「その中にある機能の一つ、『時間転移』を使ってからあらゆる場所で同じような事をして、それをずっとやってたんだろう。」


俺も最初の時は"暴食の悪魔(ベルゼブブ)"とは気付かなかったけど、過去の記憶から七つの大罪の悪魔を思い出して考えてみたら暴食だとすぐ分かり、ケルベロスが出た時点で確信に変わったんだからな。


「零、今言ったのは本当なのか?」


「あくまで可能性と見ていたんですけど、コイツの動揺具合からして、事実なんでしょうね。」


『ひっ……』


冷静になった桜さんが俺に聞いてきて、ぬらりひょんのほうを見ると、小さな悲鳴をあげながら、いつ殺されるのか分からないままずっとビビっていた。


「さて、話を戻すけど、"暴食の悪魔(ベルゼブブ)"を誰から貰ったんだ?」


『……』


「沈黙か……フンッ!」


『グアアアアアアアァァァ!!』


沈黙を続けたぬらりひょんに対し、俺は腹の所に置いてた足に魔力を送り込んで、ぬらりひょんの腹を凍らせた。

もちろん直で凍らせているから、かなりのダメージがはいっているだろう。


「もう一回聞くぞ。誰から貰ったんだ?」


『フーッ…フーッ…! お、女だった。』


「女?」


『顔は布で隠れていてわからなかったが、声は間違いなく女の声だった。』


「ふーん…それで?」


『そ、その女が儂に、こ、これを渡してきてこう言ったんじゃ。』


『「これを使えば、お前は神になることができる。力が欲しいなら、これをくれてやろう。」……って言っておったわ。』


「神になる……か。ちなみにそれ以外でわかる事は?」


『わ、分からぬ。それしか分からなかった。』


「そうか。」


恐らくぬらりひょんが言ってる女が、ティファニスさんの手紙に書いてあった脱獄者なんだろう。

しかし顔がわからないときたか……振り出しに戻ったけど、微かに情報を得る事はできたな。


「もういい。これ以上話したところで意味はないだろうし、あとは桜さんに任せますか。」


『ひっ……!』


俺は聞きたいことを終えて、腹に置いていた足をどかして後ろに下がると、ぬらりひょんは俺たちから距離を取ろうと後退りし始める。

しかし桜さんはそれを許すわけもなく、すぐにぬらりひょんが逃げないように着物を刀で抑えてもう一本の刀を抜刀した。


「もうお前には何も言う事などない。これで終いだ!」


『わ、儂は……まだ…まだ死にたくないのじゃーーー!!』


ぬらりひょんは最後のあがきに妖術を使って、懐に忍ばせていた黒い靄を刃物に変えて桜さんを突き刺した。


「「桜さん!!」」


『わっはっはっは!手応えは完全にあった!九尾、貴様も地獄へ道連れじゃ!!』


「いいや、死ぬのは貴様だけだ。」


『わっはっはっは……は?』


仕留めたはずの桜さんの声が聞こえて、高笑いしていたぬらりひょんは笑うのをやめて刺したはずの桜さんを見てみると、全身が桜の花びらになっていってた。


「『桜花白狐流 陸ノ型 桜雲(おううん)』……これで貴様は完全に妖力を失ったな。」


桜さんはいつの間にか俺と真莉亜の横に立っていて、後ろにいた久遠さんがぬらりひょんに近づいて行った。


「やるぞ久遠、冬華!」


「ああ!」「はい!」


『ま、待ってくれーーーー!!』


「万里の彼方まで吹き飛べ!『妖術 風塵嵐舞(ふうじんらんぶ)』!!」


久遠さんは渾身の一撃をぬらりひょんに放ち、ぬらりひょんは宙に飛ばされて、しかも久遠さんの使った妖術は竜巻の中に無数のかまいたちがあって、四方八方から飛んでくるかまいたちを受け続けていた。


『グゲッ…グガッ…ホガッ…ズバッ…』


中でずっとかまいたちの餌食になっていたぬらりひょんだが、竜巻が止んでようやく開放されたと思っていたら、次に待ち構えていた冬華さんの妖術がぬらりひょんに襲いかかっていた。


「永遠の地獄を貴方に捧げたまう!『妖術 氷獄千年針(ひょうごくせんねんばり)』!!」


冬華さんが起こした吹雪がぬらりひょんを覆い出すと、周辺に大量の氷の針が現れて、一気にぬらりひょんを刺していった。


ただ俺から見たら、それは針ではなく氷柱ではないのかと思ってしまったけど、あえてそれは言わない事にした。


『痛い……痛い痛い痛い痛い痛い!!やめてくれーーーー!!』


ぬらりひょんの悲痛な叫び声が聞こえてくるけど、誰も同情などはしなかった。

俺もかつては命乞いをしてきた悪魔を何度も見てきたし、斬っても悲しみもなければ、殺す事に対する恐怖も全くなかった。


だからこそぬらりひょんが泣き叫んだとしても、俺は助ける事など絶対にしない。

それがたとえ勇者としての責務でもな。


「貴様がどんなに泣き叫んだり誰かに許しを乞うたとしても、妾だけは絶対に許さない。」


桜さんはそう言うと、空を飛んでぬらりひょんを完全に仕留めに行った。


『嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ……嫌だーーーー!!』


「貴様によって殺された者たちの無念、今ここで晴らす!『桜花白狐流 奥義 千本桜(せんぼんざくら) 百花繚乱(ひゃっかりょうらん)』!!」


『グギャーーーーーー!!』


ぬらりひょんは桜さんの最後の技によって完全に消滅し、五月の夜空に桜の花びらがヒラヒラと落ちてきた。


「綺麗な技だな、桜さんの技は。」


「そうだね。見てて惚れ惚れするよ。」


「二人とも見て、朝日が。」


常磐が指さした方を向くと、山の頭から太陽が登ってきて、暗い空を明るくしていった。


「終わったんだね。」


「あぁ、これで……やっと…」


「零君!?」

「白崎君!」

「お兄さん!」


体がついに限界が来たみたいで、俺はその場に倒れ込んだ。

三人が俺の所に来て何かを叫んでいるけど、その声はだんだん遠くなっていって、完全に聞こえなくなったところで俺は意識を手放した。



☲☲☲☲☲☲☲☲☲☲☲☲☲☲☲☲☲☲☲☲☲☲☲☲☲☲☲☲



「んっ……んー…ここは……」


目を覚ますとそこには何も無く、ただ白い空間が広がっていた。


「確か俺はぬらりひょんと戦っていて、桜さんがトドメを刺して、それから……どうなったんだっけ?」


「お目覚めになったのですね。」


「ん?」


俺が辺りを見渡しながらどうなったのか思い出していると、後ろから声が聞こえ振り返ると、そこには一人の女性が優しい笑顔で立っていた。


「えっと……あなたは?」


「初めまして。私はあなたに加護を渡した神、名を天照大御神と申します。」


「天照神!?」


俺は慌ててその場から立ち上がり、天照神がいる方を向いた。

だって後ろに日本の最高神が立ってるなんて怖ぇーし、しかも多分この人は俺が起きるまで待ってくれてたと思うし。


すると立った時に、俺はある違和感に気がついた。

さっきまで重かった体が、今はとても軽く感じられたからだ。


「あの……体が軽く感じるのですけど、ここはどこなんですか?」


「ここは精神世界と言いまして、今はあなたの精神と私の精神を繋げて会話をしております。」


「精神世界? じゃあ今の俺の体は?」


「安心してください。現実世界のあなたは、ただの疲労で眠っているだけですので、ここで話す事が終われば、あなたを元の現実世界に戻します。」


「話す事……ですか?」


話す事と言われてふと思ったのが、桜さんたちのその後の事だろう。


桜さんたちは本来俺たちと同じ場所にいては行けない存在だ。

もし存在がバレてしまったら、何かしらのアクションをかけてきてもおかしくは無いからな。


「話す事なんですけど、玉藻の…いえ、今は十六夜桜と名乗っていましたね。彼女たち三人を、貴方に任せても良いでしょうか?」


「俺たちにですか?」


「あなたも含めて、加護を与えられた皆さんはまだ加護との共鳴が完全ではありません。桜には、あなたたちの指南役としておらせておこうかと思います。」


「なるほど。」


「それにあなたが持っていらっしゃる()()に連れていかれたら、身の安全も出来ると思いますしね。」


「そうですね。確かにあの場所なら……って、えっ!?」


この神様なんて言った……俺が持ってる世界って言ったよな?!

ていう事は『夢の世界(シープ・ワールド)』を知ってるって訳だし、もしかして俺が勇者だって事も分かってるパターンだったりするのか!?


「えぇ、その通りですよ。」


「心読まれた!!」


俺は後退りして少し距離をとった。

だってこれ以上心見られたらたまったもんじゃないから。


「ごめんなさい。悪気があって見た訳ではありません。ただ本当に私の加護を与えて良いのかを確認するために見させてもらっただけです。」


「そ、そうか。なら仕方ない……のか?」


天照様の言葉に疑問を抱いたが、知らない人間に加護を与えて後悔しないために確認をするのは確かかと思い、俺は天照様の言葉を鵜呑みにした。


「それではそろそろあなたを起こさないといけないので、これで話を終わらせようと思いますが、何か言っておきたいことがあればどうぞ。」


「あーだったら一つだけ。橘花たちにお礼を兼ねてまた会いたいのですけど、それは可能ですか?」


「うーん……呼び出したいのは構いませんが、ここでは出来ないので……あ、そうだ!」


天照様は何か思いついたみたいで、手を叩いて閃いたって顔をしてこっちを見てきた。


「あなたの世界に、祠を作って貰ってくれませんか? そしたら後は彼女がどうにかしてくれると思いますので!」


「祠ですか。分かりました。」


何で祠を作らないといけないのか分からないが、とりあえず了承した。

しかし祠か……後で調べて見るか。


「他にないようでしたら、最後に一つだけ言っておきたい事が。」


「まだ何か?」


天照様が俺を帰そうとしていた時に何かを思い出して、戻すのを一旦停めた。


「心していいてください。これから先、あなたは再び多くの試練に立ち向かわなければなりません。」


「あなたの友との(えにし)に亀裂ができたりする時もあります。

あなたの過去と向き合わないといけない時もあります。

あなたの大切なものをを壊しに来る時もあります。

あなたの知らない世界を見ないといけない時もあります。」


「そして近々、あなたは自身と向き合わないといけなくなります。努々この言葉を忘れないでください。」


「多くの……試練。」


俺は天照様の言った言葉を真に受けて聞いていたら、体が徐々に消えていっているのがわかった。


「か、体が……!」


「白崎零……貴方は決して、間違った選択肢をしないでください。汝に、栄光の導きがあらん事を。」


最後に天照様の言葉が聞こえたところで、俺は再び意識を手放した。

来週、第二章の最終話を投稿できるようにしておきます(ガチ)


次回は火曜日と金曜日の昼12時に投稿予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
https://narou.nar.jp/rank/index201_0.php
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ