60話 VS地獄王ぬらりひょん1
「デ……デカすぎる。」
「何……あれ。」
それはこの中で誰が放った言葉なのか分からなかった。
何故ならそれを分からなくするほど大きすぎる大蛇が、空を覆い尽くさんと言わんばかりに、俺たちの前に存在していた。
『澱め、彷徨え、苦しみ、絶望しろ!儂こそは人に地獄を与えし者、地獄王ぬらりひょんなり!』
『そしてこの肉体こそ、神をも恐れた災害、八岐大蛇!その肉体を持った儂こそ、神を超えた存在なり!』
ぬらりひょんが何かを言う度に空気が震え、周りが瘴気で満たされ、妖気が体の底から恐怖を滾らせてくる。
『さぁ、今こそ全てを食い尽くしてやる!人を!大地を!神を!』
「あ……あぁ……」
まさに災害。
まさに絶望。
今自分たちの目の前にいる化け物は、自分に死を与えてきている存在であって、絶対に倒せないと言ってきている。
全身から恐怖が溢れだしてくる。
長年妖を滅ぼしてきていた巫女たちでさえも、自身の恐怖を味わっていた。
そして妖術師であって、人である常磐姉妹の二人は、今から自分たちは死ぬと悟ってしまった。
もう無理だ、倒せない。
今までやってきた事は、全部水の泡になってしまった。
その場にいる全員が、膝を着いて怯えてしまっていた………二人を除いて。
「神をも超えた存在……全てを食い尽くさんとする……か。今俺たちの前にいるコイツは、余程の馬鹿みたいだな。」
「全くそうだよね。魔王だった私でさえも呆れてしまうよ。」
今立っている二人は、少し前まで勇者だった者と、魔王だった存在の二人だった。
『ば、馬鹿な……何故恐れない。何故怯えない。貴様らは、今目の前にいる儂が分からないのか!?』
「何故怯えないのかって?簡単だよ。だって今の状況は、俺の中では最悪想定内で収めていた事だからだよ。」
『なっ……は?……』
俺の言葉が予想外だったのか、ぬらりひょんは明らかに焦っていたし、恐れているようにも見えた。
「しかし八岐大蛇か。一度本を読んで見た事があったけど……思ってたよりしょぼいわね。」
「だよな〜……龍の巣の山脈にいた魔龍と比べたら、あんまし迫力はないよな〜」
更に俺たちの喋っていた事が聞こえていたのか、八岐大蛇はたじろいで、後ろにいた全員も嘘だろって言うかのように驚いていた。
『あ、ありえない!ありえないありえないありえないありえないありえない……ありえない!!』
『この姿を見て恐れないなどありえない!そんな事、儂の中では想定外だ!』
ぬらりひょんがずっと叫んでいるけど、俺たちはお互いに聖剣と魔剣を鞘から抜いて、剣先を目の前にいる敵に向けた。
「まぁそっちから動いたのだから、今度はこっちの番だな。」
「そうだね。それじゃあ…始めようか。」
俺たちは大きく息を吸った。
そして今からやる事は、ここにいる全員に希望と力を与えるため、今自分たちにできる最大の支援を行うために大声で叫んだ。
「我が名は白崎零!ある世界においては勇者として、人を光に導き、希望と救済を与えていた者なり!」
「我が名は神崎真莉亜!とある世界で魔王として君臨しており、災いとして存在していた者なり!」
「我らは全ての責務を終え、その名を世界に置いて帰還した!」
「故に今の我らはただの人であり、平和な世界を謳歌するために人として生きる事を選んだ!」
「だが我らの意思は性となり、勇者だった者は未だに人を救う事を止めず戦い続けた!」
「そして魔王だった者は、己の憎悪を捨て、二度目の生では勇者と同じ人を救う意志を持ち、悪に立ち向かいし者に力を与える者となった!」
「「ならば今こそ我らは、人に希望と力を与え、我らの前にある災害を討ち倒さんとする!!」」
俺たちが叫ぶ度に周りの瘴気が消えて、後ろにいる全員の恐怖が削がれていっているのが分かった。
そして俺たちは、ぬらりひょんを本気で討ち倒すために、全員に最高の支援を与えた。
「導け!『勇ましき者への福音』!!」
「力を与えろ!『魔王権限』!!」
俺が使った魔法で恐怖を消して、真莉亜の固有魔法で俺たち全員のステータスを2倍にさせた。
「すごい……震えが完全になくなった!」
「それに何これ!体の底から力が湧き上がってくる!」
「行けるぞ……これなら行けるぞ!」
「素晴らしいです!これで倒す事ができます!」
全員の体は光のオーラを纏い始め、体から恐怖がなくなった事で立ち上がる事ができ、妖気や瘴気を受けず楽なった。
これが俺が唯一光魔法で使える支援魔法、『勇ましき者への福音』。
もちろん真莉亜の固有魔法である『魔王権限』もまた、俺たち全員が最大の力を使えるようになり、半径100mの範囲にいるぬらりひょんには、重い重圧がかかっていた。
『グッ……ぬおっ!……か、体が……重い…!』
俺たちの準備が整ったところで、俺は全員に伝令を出した。
「いいか、恐怖状態や無力化をする事は出来なかったけど、奴には重圧がかかっているから、こっちが優位になってる!一気にここで終わらせるぞ!」
俺の言葉で全員が武器を構えて、いつでもぬらりひょんを討たんと、自分自身の闘志を燃やし始めた。
「作戦はこのまま続行!相手はぬらりひょん、並びに八岐大蛇の一体だけ!ここで奴を討ち、この長い地獄に終止符を打つぞ!!」
『おおぉぉぉ!!』
全部を終わらせるため、俺たちは一斉にぬらりひょんに攻撃を開始した。
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≪大和の国 庵≫
30分前……
『まず俺たちは日本に戻った後、妖の頭の三体を討伐した事を話し、ぬらりひょんがまだ生きている事を伝える。』
俺は出発前に、みんなに俺が考えた作戦を伝えた。
『次に奴と戦いやすくするために、俺たち以外の人を離さないといけない。そこで問題になるのは、翠嵐さんと霧島さんの二人だ。』
『そっか。二人は距離を置かせるようにしないと元も子もないのか。』
『あぁ、そうだ。』
ここで大事なのは、稗田鵬祭と翠嵐さんを離さないといけない事と、それを霧島さんも同様でしないといけない事だ。
ここでもし感ずかれてしまったら、二人も巻き込んで、優先的に殺してくる可能性があるからだ。
『二人に聞くけど、翠嵐さんと霧島さんは妖術師としては強いのか?』
『お父さんは強い方だけど、霧島さんは妖術を使ったところを見た事がないわ。』
『私も同じです。』
二人の言ってる事を踏まえると、やはり二人には安全な場所まで離さないといけないな。
でもどうやって離そうかな……
下手にやったらバレるし、感ずかれないようにしないといけないしな……
『なぁ…二人とも。』
『どうしたの?』
『翠嵐さんと霧島さんを簡単に遠ざける方法とか持ってたりしない?』
俺が投げやり覚悟で二人に言ってみると、意外な言葉が帰ってきた。
『あるよ。』
『あります。』
『あるの!?』
まさかのある事に驚いてしまった。
あるの! あるんだったら有効的に使いたい!
『ちなみにどんなの?』
『私たちって、こう見えて治療の妖術というものがあるのだよ。』
『治療? それって絆創膏とか包帯とか使わなくてか?』
『うん。私たちの使える治療の妖術は珍しいものみたいなの。だから他の妖術師よりかは希少価値が高いみたいなの。だから公の場には公表してないんだよ。』
なるほどな……だから二人の傷があまり見えなかったのか。
『……で、それがどういう意味になるんだ?』
『つまり、私たちは治療の妖術が使えるって事は、普通の治療は必要ないって事になるじゃない。』
『まぁ…そうだよな………あ、なるほどそういう事か。』
ようやく意味がわかって俺はハッとなった。
そうか、だったらアレがいらないのか。
『え? 零君、今のでないが分かるの?』
『真莉亜、治療をする時って何が必要になる?』
『えっと……絆創膏…消毒液…後は包帯とかだよね。』
『それをまとめる箱って何?』
『箱って……あ、救急箱!』
『そうだ。つまり二人が言いたい事をまとめると、翠嵐さんか霧島さんに救急箱を持ってきてって頼めば、それが合図の代わりになるって事。そういう事だろ?』
『うん、それで合ってるよ。』
よし、これで問題は解決する事ができた。
次の段階に進むとしよう。
『問題が解決したところで次だけど、その後は俺のスキルにある『結界作成』ってやつで俺たちとぬらりひょんを囲む。そうすれば奴は出る事ができないし、外から干渉される事もなくなる。』
『それでどうにかなるのか?』
『……それで上手くいくとは思えないんですよね。』
桜さんから心配されたけど、こればかりは大丈夫とは言えない。
多分ぬらりひょんの力の源となってるやつが俺の予想のヤツだったら、まず簡単に逃げられる。
『桜さん、結界は使えますよね?』
『あぁ、使えるぞ。』
『だったら俺が結界を張ったら、その上から結界を張ってもらっていいですか?』
『わかった。』
『真莉亜。お前は俺と桜さんが結界を張ったら、躊躇わずに稗田鵬祭の首を斬れ。』
『了解。』
ここまでが瑞風神社までの手順であって、第一段階が終了になる。
そしてこれからが本来の作戦に入る事になる。
『それからはぬらりひょんとの戦闘になるけど……真莉亜、『魔王権限』は使いこなせそうか?』
『大丈夫よ。こんな時の為に何度か使用はしてきていたから。』
『そんじゃあ、まずはそれを開口一番に使って、後はボコボコにするだけだ。』
『ねぇ白崎君。その……『魔王権限』だっけ? それってどういったものなの?』
常磐が気になって聞いてきてそっちを見ると、みんなも気になっているみたいで、俺は簡単に説明する事にした。
まぁ説明を聞いたみんなは案の定、言葉を失っていた。
『まぁ…その…なんだ。みんなの思っている事は大体察しているから。俺たちも流石にそう思ったし。』
『こればかりは私たちも同情するわ。』
『と、とりあえずこれは一旦置いといて、他の三人の加護を教えてくれないか?』
真莉亜の加護は聞いたけど、他の三人については髑髏の奇襲のせいで聞けなかったから、全員の使える妖術と加護は把握しておきたいしな。
『私と香織は、須佐之男様の加護だったわ。』
『吾は風神と雷神じゃ。』
『須佐之男……という事はこれで全員揃ったのか。』
『全員って?』
『俺が天照神、真莉亜が月読命、そして二人が須佐之男神。この三柱は兄弟なんだよ。』
『へぇー…そうなんだ。』
真莉亜は感心しているのか分からない反応をしていたけど、今はほっといて、みんなに作戦を話す方を優先した。
『真莉亜が『魔王権限』を使った瞬間、全員と共鳴を使って連携して、俺と桜さんが奴の動きを封じたら一斉にぬらりひょんに攻撃の隙を与えないやり方でいく。』
『ただ相手は総大将。何を隠し持っているか分かりません。俺もたった一種類だけしか見ていないので、何を使ってくるかは分かりません。』
一種類だけと言ったが、生贄に使う相手も化け物だろうし、大きさは異世界にいたタイタンやドラゴンと同じくらいで見とくかな。
『最後にもう一つ。先頭に入ったら、俺が全員に指示を出すやり方でやります。』
俺の支持でやるって言葉に対し、誰一人として首を横には振らなかった。
『以上が、俺がたてた作戦だ。』
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「真莉亜! 手順通りに!」
「了解!「『共鳴』!」」
俺と真莉亜は同時に『共鳴』を使ってみんなと思考を連携にして、準備ができたところで、俺と桜さんは早速攻撃を開始した。
「桜さん!」
「あぁ!「『神術 多重封洞 天大岩戸』!」」
俺と桜さんが先方してぬらりひょんの動きを完全に封じに入った。
しかも普通よりも二重で二倍の神術だから、簡単には破れる事はないだろう。
『か…体が全く動かん!?』
「全員、一斉攻撃開始!!」
俺の掛け声を引き金に、全員がぬらりひょんに向けて攻撃を放った。
そして俺も、『身体強化』と『神眼』を常時使用して、ぬらりひょんに向かって走った。
「『捌の太刀 居合十六蓮華』!」
「『21ノ憎悪ノ刃 常闇の剣撃』!」
「『桜花白狐流 捌ノ型 八重桜』!」
俺と真莉亜と桜さんは初手から大技を放ち、八岐大蛇の首を別々に狙って斬りにかかるが、どれも全て深手を負わせる事ができなかった。
「チッ……強化した状態でも、やはり硬いな。」
『無駄じゃ……いくら貴様ら人間でも、大蛇の体には傷を付ける事は絶対にできない!』
「そうか、ならこれはどうだ。『玖の太刀 無骨』!」
『な……何!?』
俺が第二撃として使った剣技は、技名の通り、骨が無いようなほど簡単に斬る事ができる力技であり、異世界では、対人用のために使っていた技でもある。
この技に加えて、真莉亜の『魔王権限』で強化されているからか、今度は大蛇の首を一つ斬り落とす事ができた。
「まずは一つ。」
『貴様! 儂にタダで済むと思うな!』
「させない!『神術 神空刃』!」
ぬらりひょんは動きを封じられながらも、俺を確実に殺しに来る為に大蛇で突進を仕掛けてきたが、後方にいた常磐が神術を使ってくれたおかげで、大蛇の攻撃が俺に当たる事はなかった。
『グッ……クソッ!』
「余所見とはいい度胸ね。『神堕ろし』!」
『ゴハッ……!』
常磐の攻撃で怯んだところを、真莉亜がすかさずレーヴァテインを使った攻撃で両断する事はできなくても、首元から大量の出血をして苦しんでいた。
『……よくも儂をここまで苦しめたな!……こうなれば…アレを使うしかあるまいな!』
「やっぱり何か他に隠しているものがあったか。」
『グッ……ぉぉおおおお!!』
八岐大蛇から黒い靄が出始めると、俺と桜さんで動きを封じていた神術にヒビが入りだし、ついには壊れてしまった。
「神術を破るか。」
「どうやら、向こうも本気で来るみたいですね。」
『見よ! これが儂の真の力の正体だ!!』
ぬらりひょんが出していた黒い靄が徐々に形になっていき、その形は、俺と真莉亜が一番知ってる形になっていった。
「やっぱり持ってたか……構えろ、アレは妖術じゃない! 俺たちと同じ魔法だ!」
俺の言葉で、その場にいたみんなが驚愕の顔をしていた。
「白崎君、アレの正体って…」
「アレは俺たちがいた異世界の力で、大罪の悪魔…暴食の悪魔だ!」
残りもあとわずかになり、大体3,4話位で第二章を完結させられそうです。
来週の投稿ですけど、仕事や体調不良が続いてしまったため、お休みをさせてもらいます。
再来週からは、ちゃんと投稿できるようにしたいです。




