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56話 妖防衛戦

≪日本 妖門西側≫


時間は少し遡り、零たちが大和の国に行った同時刻、西と東の妖門からは多くの妖たちが門を通じて現れていた。


「門を囲うようにして配置に付け!」


彼らは対妖との戦闘に慣れており、瑞風神社所属の精鋭部隊が、押し寄せてくる妖を一体も外に出さないようにするために集まっていた。


結界を作る部隊が三十人。

妖と戦う部隊が百人。


合計百三十人が、命を懸けて戦おうとしているのだ。


「隊長!妖たちが現れました!」


「数はどれくらいいる?」


「正確な数は分かりませんが、おおよそ二百体、その中には潮招(しおまねき)土蜘蛛(つちぐも)などが数体含まれています!」


「よし……結界班、結界の作成に取り掛かれ!全員、迎撃体制!ここから一体も外に出すな!」


『うおおおおぉ!!』


隊長の掛け声と同時に、その場にいた人たちも意を決して妖たちに攻撃を仕掛け始めた。


「『妖術 つむじ風』!」

「『妖術 鎌鼬(かまいたち)』!」


先頭に立っていた人たちが次々と妖たちに向けて、自身の妖術を使って先手を取った。


「グゲッ…!」「グガッ…!」「ゴガッ…!」


先行していた餓鬼や鬼火は、()(すべ)もなく妖術を受けていき、先頭からバタバタと倒されていった。


「よし効いてるぞ!全員、このまま攻撃し続けろ!」


隊長は自分たちが有利な状態だと思い、各陣営に攻撃の指示を出し続けた。


しかし、妖たちも馬鹿ではない。

現に餓鬼や鬼火など、先に先行していたものにはちゃんと意味があってずっと前にいた。


「隊長、報告があります!」


「どうした!」


「後続にいた潮招の突進を受けて、一部の陣営の防衛が破られました!」


「な、何ッ!?」


突然の敵の攻撃を受けて、一部の陣営がやられた事を聞いた隊長は焦り始めた。


(どうしてだ!?こっちのほうが有利だったはず!?)


隊長はすぐに自分の頭をフル回転させながら考え始めた。

そしてしばらく考えていたら、ある一つの答えに辿り着いてしまった。


(ま、まさか……先行していた餓鬼や鬼火は肉壁としており、こちらの攻撃が止む瞬間を見計らって攻撃を仕掛けたのか!?)


ここに来て、優勢なのが自分たちではなく、妖たちだって事に気づいてしまった。

そしてこの作戦を迎撃戦闘ではなく、防衛戦にしておくべきだったって事を、今になって後悔していた。


彼は知らなかったのだ。

妖は人を食らうだけの存在だと思い込んでおり、知性は無いと自分の頭の中で決めてしまっていた。

だが実際には、奴らには知性があり、こちらを逆手に取る作戦を作っていた。


彼は戦いについての知識が浅く、今のやり方以外の作戦を考えていなかった。

それ故に彼は、慌てて今の最善な考えを必死に考えた。


「か、各陣営に伝達!結界班の守備につけと!」


「しかしそうしてしまったら、前に出た迎撃部隊が壊滅してしまいます。」


「ぐっ……!」


「うあああああ!!」


「っ!!」


彼がどんなに考えようとしても、妖たちは決して攻撃を止めない。

現に前衛にいて攻撃をしていた人たちは、何とか必死に攻撃をしていたが、餓鬼の数で押されてしまい、ついには餓鬼たちによって捕食されてしまっていた。


もちろん一人二人だけじゃない。

前から次々と餓鬼や鬼火に捕まり、捕食されていった。


「あ……あぁ……」


彼は絶望していた。

今見ている光景が地獄のように地面が赤く血で染まっていく事に。

自分のやり方が間違っていて、他人を犠牲にしてしまっている事に。


(浅はかだった……妖を舐めていた…)


彼はもう戦えなかった。

否、戦う意思があっても、心がもう負けてしまっていた。


(かくなる上は……この命を捨てて、隊長としての責任を持とう。)


彼は前に歩き始めると、両膝をついて、妖が自分の所に来るのを待った。

それを近くで見ていた餓鬼が次々と彼に飛び掛かろうと、他の人間よりも先に向かい始めた。


「隊長、逃げてください!」

「隊長!」


他の場所から叫んでいる者がいるが、彼は決してその場から動こうとはしなかった。

すべては、死んでしまった者たちに報いるため。


「……みんな、すまない。」


「『水遁 村雨(むらさめ)』!」


餓鬼が彼に飛び掛った瞬間、何処からか声が聞こえたと同時に、突然突き刺すような雨が降り始めて、餓鬼や鬼火に襲いかかった。


「自分の命を捨てる行為は、絶対にやっては行けない事です。それをやったとしたら、彼らは貴方を許さないと思いますよ。」


彼らが見たのは、あらゆる場所に妖の死体があり、その中心には、忍者のような格好をして、頭に耳が生えた一人の女の子だった。


「き…君は?」


「まだその命を捨てようとはしないでください。今の状況が絶望であっても、まだ希望が残っているのですから。」


「君は、何処かの五大派閥の所属している妖術師なのか?」


「いいえ、違います。某の名はシグレ。我が主君の命により、この西の妖門の守護にあたれと言われたので、ここに推参しました。」


「主君の命…?」


彼は彼女の言っている言葉が分からなかった。

何処の派閥にも所属せず、妖術師として動いている者はまずいないし、さっきの雨みたいな攻撃を見て、かなりの強者だというのは自分でもよくわかった。


だからこそ、彼女の主はどれくらい強いのか、計り知れないと思ってしまった。


だけどそれは絶望ではなく、僅かな希望だと思ってしまっているのは、彼だけではない。

周りで見ていた人たちは、彼女が今の自分たちの希望になっていると感じて見ているのだから。


「確認ですけど、貴方はここにいる人たちを指揮している方ですか?」


「え?あぁ、俺が隊長だ。」


「でしたら貴方がた全員は、結界を作成している人たちの守護を優先してください。こちらは一人で大丈夫ですので。」


「ひ、一人でだと!流石にそれは危険すぎるぞ!」


彼はさっきの事を思い出して、奴らには知性がある事がわかった以上、彼女の行動は危険極まりないのが分かるからだ。

しかしシグレは、彼の想像していなかった言葉を言い放った。


「それなら大丈夫です。さっきの攻撃は()()()ですので、アレで倒れるのなら、拙者の敵ではないのはもう分かりましたので。」


「……へ?」


彼は腑抜けた声を出して彼女を見た。

理由は簡単、さっき見た攻撃が牽制だったって事に焦っているのだから。


(今のが牽制……?それじゃあ…彼女の本気は一体!?)


「ほら、早く立って行動をしてください。でないと、また奴らに捕まってしまいますよ。」


「……わかった。全員、結界班の守護に付け!彼女の攻撃の邪魔は絶対にするな!」


彼らは隊長の言葉を聞いて我に返り、すぐさま結界班の場所まで走り出し、彼等を囲って守るように配置に着いた。


「さてと……主君も頑張っておられると思われますし、拙者も失敗はできませんね。」


彼女が姿勢を低くして構えると、妖たちは後退り始める。

彼らにとっても、さっきの攻撃は異常であって、危険だと思っていた。

それぐらいにさせるほどの事を、彼女はやったのだから。


「今は亡き水牙一族(すいがいちぞく)は一人、シグレ…いざ参る!」



☲☲☲☲☲☲☲☲☲☲☲☲☲☲☲☲☲☲☲☲☲☲☲☲☲☲☲☲☲



≪日本 妖門東側≫


西と同じで、東でも妖の襲撃に苦戦していた。


「こちら結界班!妖に押され始めました!」

「こちら第一班、死傷者が半数超えました!」


「これは……マズイな…」


こちらでも西と同じで、精鋭部隊の隊長である男が、苦虫を噛み潰したような顔になって、今の戦場の状況を見ていた。

ほんの僅か数分前まではこちらが有利な状況だったのだが、何故か突然妖たちの動きが活発化していき、どんどんこちらが押されていってしまい、各部隊の一部が犠牲になってしまっている状態だ。


「このままでは危険です!一度引いて結界班の守備に入りましょう!」


「……やむを得ない。全員防衛体制!各部隊は結界班の守備に回れ!」


『了解!』


隊長の指示で、各部隊の人たちは一斉に結界班のいる場所に移動を始めて、一体でも逃がさないために結界班の守りに入った。


その代わりに妖たちは、自身たちに攻撃をしてくる人間がいなくなったせいか、さらに攻撃を激しくし始めました。


「猿魔から投石が来ます!」


「っ!マズイ、結界班が!!」


敵の後方にいた猿魔が両腕を地面に入れて、地面から巨大な土の塊を取り出し、それを結界班のいる方に目掛けて投げた。


しかも今行動を始めたから、結界班の方にはまだ誰もおらず、ノーガードの状態の結界班にとっては、この投石が当たれば致命的になってしまうのだ。


(あの投石が当たるまでに着く部隊はいない!だとしたら、俺が行くしかない!)


隊長はその場から走り出し、投石が落ちる場所にいる結界班の前に立ち、自信が持つ妖術を全力で放った。


「『妖術 風塵突発(ふうじんとっぱ)』!」


隊長の妖術により、向かってきた投石は木っ端微塵になった。

しかし投石されたのは一個だけではなく、数個がすでに投げられており、その投石は各地にいる結界班の方へ向かっていた。


「クソッ…逃げろお前らーー!!」


隊長はすでに妖術を使って体力がなくなっており、その場に崩れ落ち、ただ叫ぶことしか出来なかった。


ただすぐには動くことができず、気づいた時にはもうあと少しで着弾する寸前だった。

もうダメだと思い、目を瞑って悔しがっていたら、その投石は突然空中で壊れ、結界班には一個も当たらなかった。


「『海神筆頭流奥義 朧水月(おぼろすいげつ)』!」


何故なら、空中で全ての投石を瞬時に切った一人の侍が現れたからだ。


「『海神筆頭流奥義 紅桜(べにざくら)』!」


その侍らしき人物は、地面に足を着けた瞬間、妖たちの方向を向いて、炎の飛ぶ斬撃を放った。


もちろん前方で狼狽えてた妖たちは簡単には動かず、前から順に斬撃によって切られ、後ろにいたヤツらも、残りの余波で燃え上がり、たった一撃によって妖の半数があっさりと滅ぼされた。


その場でそれを見ていた者全員がポカーンとしていた。

それもそのはず、さっきまで苦戦していた妖をこうもあっさりと半分も倒してしまったら、誰もが信じられないと思ってしまうからだ。


「そこの者よ、大丈夫か?」


しかし当の本人は周りからの視線に気にせず、倒れている隊長である男に近づき、しゃがみこんでから顔を確認していた。


「あ…あぁ…はぁ……はぁ……」


「魔力不足…いや、確か妖術と言ってたから、妖力不足と言ったほうがいいのか。」


「お前は……一体誰だ?」


「拙者の名はヒスイ。東の妖門にいる妖術師の応援に参った。」


「応援?……俺たちの…味方なのか?」


「そうだ、だがまずはこれを飲め。効果があるかどうかは分からぬが、多分効くと思う。」


そう言ってヒスイと名乗った女の子からは、何やら得体の知れない液体が入った飲み物を渡してきた。


「これは…?」


「一度飲んでみてくれ。安心してくれ、毒ではない。」


初めて見る物だから、自身としては躊躇ってしまう。

しかし目の前にいる彼女の目は、嘘を言っていないと直感で感じてしまい、一度信じてそれを一気に飲んだ。


すると体の倦怠感が少しずつなくなっていき、動こうとしなかった体が徐々に動かせれるようになった。


「これは…体が軽くなっていく!?」


「ふむ、どうやら効果はあったみたいだな。さすがはリラが作ったポーションだ。」


男は動かせれるようになった体を使い立ち上がって、目の前に立っていた彼女を改めて見つめた。


「これは一体何なのだ?体の倦怠感が一気に無くなったぞ?」


「それは拙者の仲間が作ったポーション、この場合は薬と言ったほうがいいな。それを飲んだおかげで、妖力と言ったヤツが回復したのだ。」


「これが……まずは助けてくれて感謝する。後の事はー」


「いや、この後のヤツらについては拙者に任せてくれ。貴殿は結界の守備にあたってくれ。」


「まさか、あの数を一人でやるのか!?」


男は思わず叫んだ。

今の妖の数は、目視で確認したらまだ百はおってもおかしくない数だったし、しかも後方には猿魔や土蜘蛛が未だ健在している以上、彼女一人では無理だと思ったからだ。


「そうだ。見た感じ前のヤツらはゴブリンと同じ強さだろうし、後ろにいるヤツらが骨がありそうだ。」


「…は?」


さっきから彼女の言ってることが全然わからなかった。

ポーション?…ゴブリン…?

はっきり聞こえていた謎のワードは、妖術師の自分にはさっぱりわからなかった。


「それより、ここにいる妖術師たちを束ねている者なのだろう?早く結界というものを守る行動をしたらどうなのだ?」


「え?…あ、あぁ。ぜ、全員、奴らが動かないうちに行動を再開しろ!」


体調の声を聞いて我に返った妖術師たちは、すぐさま行動を再開して、結界班のいる場所に再び移動を開始し始めた。


しかし妖たちもその声で我に返ってしまい、再び結界班がいる所に向かって走り出した。


「『海神筆頭流奥義 雷霆(らいてい)』」


だけどヒスイは、彼等のもとへ行かせる事は決して許さず、結界班に近づいていた餓鬼たちは一瞬で首を切られていった。


「妖…人の理から外れた獣どもが……貴様らの相手は、このヒスイが相手をしてやる。」


彼女はそう言ってから、前衛にいる餓鬼や鬼火たちから次々と急所である首を躊躇いなく切り続けて行った。

九州に大寒波襲来!

地元も久しぶりの銀世界になりました。

来週は火曜日と金曜日の昼12時に投稿します。

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