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54話 真実の語りあい

『生贄…ですか。』


俺が言った言葉に対し、二人は真剣な顔になって話を聞いてくれていた。


何故俺がこれに至ったというのは、異世界に召喚されてからまだ間もない時に起きた大事件を思い出したからだ。


『レイ様、何故そう思われたのですか?』


『……リラは知らないだろうけど、実は俺が召喚されてから少しした時に王都で大きな事件があったんだよ。』


『それはどういったものだったんですか?』


『当時は俺の師匠から聞いた話ですけど、ある男がなんも罪のない人間を30人以上も殺害した事件があったんだよ。しかもたった一週間でね。』


『それは、何とも恐ろしい。』


俺の話の内容を聞いた二人は、背筋を凍ったかのように身震いをしていた。

当時の俺も、その話を聞いて怖い思いをしていたな。


『で、話を戻すけど、その犯人の殺していた理由が、「悪魔を召喚させるのに必要だったのさ」って言っててな、それで何となくだけど、ぬらりひょんのやってるやり方が似ていて、そう思ったって訳だ。』


『なるほど……』


『ま、あくまで推測だ。これが当たってるかどうかは分からないし、違う理由の可能性もあるかもしれないけどな。』


『ですが、その可能性はゼロでは無いですよね?』


『まぁな…とりあえず今は、桜さんが戻って来るまで暖をとろう。体がキンキンに冷えているからな。』


そうして俺は『共鳴』を解除して、囲炉裏(いろり)に焚いてある火に近づいて体を暖める事にした。


しばらくしていたら戸のほうから音が聞こえてきて、振り向いてみると、信じられなさそうな顔をした四人と、疲れているのか大きく息を吐いた桜さんたちが戻って来た。


「お疲れ様、どうだった?」


「うん、とりあえず加護は貰えたよ。」


「おぉーよかったじゃん。ちなみに誰の加護?」


「えーと、月読命(ツクヨミノミコト)…だったかな?」


おぉ、月読(ツクヨミ)の加護か。

月読といったら月の神であって、俺の加護主でもある天照とは姉弟(きょうだい)だった神様だったな。


「ちなみに神術みたいなものも使えたりする?」


「うん、『月影(つきかげ)』,『八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま)』,『月弓(つきゆみ)一射(いっしゃ)』,『月光蝶(げっこうちょう)』の四つが使えそうだよ。」


「なるほど、神術は俺と同じ四つか。」


「あと、スキルにあった『魔眼(まがん)』が『月ノ目』に進化したよ。」


「スキルの進化か…俺の『聖眼』も進化したし、どうやら俺たちはあまり大差はないみたいだな。」


真莉亜と他の二人の加護については桜さんと話し合いが終わった後に聞いてみる事にしよう。


「零、待たせてしまったな。」


「いえ、暖をとりたかったのでちょうどよかったです。」


「そうか。ではすまないが、外に来てもらえるか?」


「わかりました。」


桜さんに言われてから外に出て、俺は二人で話し合う場を設けてもらった。


それと俺は念の為に『防音』を使って周囲に声が聞こえないようにして、桜さんの手に触れてから『共鳴』を使って、万全な状態で話し合う事にした。


『すまないな、せっかく体を温めていたのに外に出してしまって。』


『いえ、お気になさらず。早速ですけど、単刀直入に言わせてもらっていいですか?』


『あぁ、構わないよ。大体言ってくる事は分かっているからな。』


桜さんから許可が出たところで、いきなりぶっ込んでいく事にした。


『ではまず、貴方の本名は、玉藻の前…なんですよね?』


『そうだ。それが妾の本当の名前だ。』


『という事は、ここがぬらりひょんの作った庭って事は最初から知ってたって事ですよね?』


『…あぁ。』


桜さんは俺の質問にあっさりと肯定した。

これで分かる事は、桜さんはもう俺には隠し事はなしでいきたいのだろう。


『どうして、俺たちに黙ってたんですか?』


『…同じ過ちを犯さないようにしたいと、願ったからこその弱気なのだろう。』


『過ちというのは、同じ柱であった御三方の事ですか?』


『あぁ…鴉天狗、雪女、そして鵺…彼らと同じように、また妾の前からいなくなるのが怖かった。』


『だからこそ、俺と真莉亜には真実を言わなかったのですね。』


『……』


桜さんは俯いて何も言わなかったけど、多分その通りなのだろう。


確かに、目の前で誰かがいなくなるのを願いたくないという意思は、俺も同じだ。

現に勇者だったからこそ、一番実感できる。


だからこそ、俺も自分の話を桜さんに聞いてもらおう。


『桜さんの思っている事はよく分かります。俺も勇者だった時は、何度もそのようになった事がありますから。』


『…零も、妾と同じなのか?』


『はい。俺が勇者として冒険を始めてから間もない時、ある村に立ち寄った時でした。』


今から話す事は、当時まだ真莉亜が魔王だった時で、俺が勇者として冒険を始めた時の話であり、俺が一番後悔している話だ。


『その村には何も無く、あっても祭りが年に一回しかしないような村でしたけど、自然が多くあって、とても平和な毎日を過ごせそうなくらいのどかな村でした。』


『当時俺と仲間がその村に訪れた時に、その平和は悪魔たちによって一気に壊されてしまいました。』


『悪魔…それは妖と似た者なのか?』


『その認識で大丈夫です。悪魔たちは無害な人間ばかりを襲い始め、俺も何とか悪魔を倒したりはしてましたけど、その村には100人程いたのですが、終わった時には半分しか生き残りはいませんでした。』


『…そうか。』


突然目の前にいた人がもういないという辛さを知っているせいか、桜さんは同情するかのように悲しい顔をしていた。


『死んだ人を眺めながら悲しんでいた俺に、さらに追い打ちをかけてくるかのように、村にいた子供がこう言ったんですよ。』

『「どうしてみんなを助けれなかったの……」って。』


『…!』


今でも俺はそれを鮮明に覚えている。

俺だけじゃない、姫様やメリッサ、ハンドレットにべレナスも、昨日の事かのように覚えてると言ってた。

それぐらい、俺やアイツらにとってはトラウマでもあるからだ。


『無邪気な子供が泣きながら言ってきたんですよ。「お母さんを返して!」って、「なんでいなくなったの!」って…ずっと俺に向かって叫んでたんですよ。』


『……』


『その時思ったんですよ…俺が弱いせいでこうなってしまったって。』


『一年間ずっと師匠のもとで修行していたのに、それでも助けられない命があるのかって自分に怒りました。』

『その時に生まれて初めてやりましたよ…頭を地面につけて土下座したのは。』


『!』


その当時の俺は、ただ助けられなかった命があったからこそ、村の生き残った人たちへの心からの謝罪をして、ずっと俺に言ってきていた子供にも本気で謝った。


それをやった時に、みんなや村の人たちが本気で俺を止めにかかったんだっけな。

そんでその後姫様が泣きながら説教をしてきたんだっけな。


『その後はしばらくその村に留まって、師匠の部下の人が来るまでは、俺たちが村の護衛をしてました。』


『何故、そこまでその村に尽くしたんだ?』


『ほんの少しだけの償いでもあり、俺に向かって叫んでいた子供が、少し俺に似ていたからでもあったからです。』


『どういう事だ?』


『俺の家族も、父親が居ないんです。』


『…!』


親の事を話していなかったからか、桜さんは少し目を見開いて俺を見てきた。

あっ、そういえば家にいた時はちょうど母さんがいなかったから分からなくてもおかしくは無いのか。


『もう五年前になりますけど、病死で亡くなって、それからはずっと母が一人で俺と妹のために頑張ってくれたんです。』


『そうか…だから其方は、今の自分と似た経緯を持ったその子供に同情したんだな。』


『…そうなりますね。』


桜さんから言われてもそうなのかは分からないけど、少なくとも他の人からしたらそう思われているのかもな。


『…其方は優しいのだな。』


『どうでしょうかね。その時にできた償いが、それだけだったからそうしたのかもしれません。』


『だがそれだけでも、心が救われた者はいたに違いないと思うぞ。その行動をやった己を誇るといい。』


『…ありがとうございます。』


自分自身の失敗した話をしていて胸が苦しむような痛みに襲われていたけど、桜さんが言ってくれた言葉のおかげで、少しだけ楽になる事ができた。


…あの時、そう言ってくれる人が一人でもおったら、今みたいに息苦しくなるような気持ちにならなくて済んだかもしれないな。


俺は『共鳴』を解除して、桜さんに俺の思いを伝える事にした。


「桜さん。」


「なんだ?」


「俺と桜さんは少なからずも、同じ境遇を知っている者同士です。」


「あぁ……そうだな。」


「だから、もう一人で何かを抱え込まないでください。」


「え?」


桜さんは俺から思ってもいなかった事を言われたせいか,意外そうな顔になっていた。

というか桜さんでもこういった顔はするんだな。


「俺は大切な人を失った人の心が分かります。だからと言って桜さんの苦しみが全部分かる訳でもありません。」


「あ、あぁ…そうだな。」


「だけど、お互いに苦しみを分かち合う事はできます。」


「…!」


「俺だけじゃないです、真莉亜だって過去に辛い思いを何度もしています。」

「だからもし、一人で辛くなったときは、俺と真莉亜に言ってください。」


俺もそうだけど、真莉亜も過去の自分に悲しんでたんだ。

この場にはいないけど、きっと真莉亜も俺と同じ答えを言ってくれると信じてるからこそ、今この場で桜さんに言ってしまおう。


「そうか…其方たちは、妾の苦しみを分かち合おうとしたいのか。」


「ぬらりひょんを倒せばこの世界は消えていまい、桜さんやお二人はどこかに行ってしまうかもしれません。けど俺と桜さんは天照様の加護で繋がっているのですから、実質桜さんは、俺の姉弟子のようなものだと思っております。」


「姉弟子…」


桜さんは考えるような素振りになって何かを考え出すと、なぜか今度はニヤニヤし始めてた。


「そうか…零が弟弟子のようになるのか…弟…」


「あ、あの…桜さん?」


「むっ、あぁ、すまない。兄弟がいなかったせいか、兄弟という言葉に反応してしまった。」


なんか……悲しい話からズレていっていないか?

そしてなんでろう…こうイジリたいという精神が芽生えてくる気持ち。


……ちょっとだけ悪戯してみるか。


「じゃあこれからは桜さんの事、『姉さん』って言いましょうか?」


「ん゛っ!!」


俺が姉さんというワードを言った瞬間、桜さんは膝をついてから胸を押さえ始めた。


「ま…待て零、妾は其方の姉ではない。だから…妾の事を姉だとー」


「どうしたんですか…()()()()()?」


「グフッ…!」


追撃するかのように俺が桜さんの事をお姉ちゃんと呼ぶと、さっきまで胸を押さえる仕草をしていたが、今度は口から血を吐くような声を出して再び苦しみ始めた。


「別にいいんですよ、桜さんの事を姉さんって言っても。俺も満更(まんざら)でもないので。」


「くっ…しかし…」


「まぁ、ふざけるのはこの辺にして、実際悩みがあったりしたらいつでも言ってください。相談相手には乗ってあげますので。」


そう言って俺は、両膝をついている桜さんに手を差し伸べた。


「零…ふっ、ありがとう。」


桜さんは立つと、俺の方を見て微笑みながらお礼を言ってきた。

俺もこんな事しかできないけど、これで少しでも桜さんの荷が軽くなってくれるのを願うしかできないな。


「と、ところで零よ。」


「? どうしました?」


俺が空に出ている月を見て過去の事を思い出しながら考えていると、桜さんの方から声がしたので向いてみると、なぜか顔を少し赤くしてもじもじしていた。


え、何…今度はどうしたの?

何で顔を少し赤くしてるの?

何を恥ずかしそうにしているの?


「そ、その…さっき言ってた事なのだが…」


「さっき?」


「わ、妾の事を…お姉ちゃんと言ってた事だ。」


「あぁ、それですか。…それが?」


「その…今度からは妾の事を姉として呼んでよいぞ。」


あぁ…どうやら俺がさっき言った事を真に受けようとしているのか。

しかし桜さんを姉か…

九尾の姉……姉…


……悪くないな。


「わかりました。ではこれからよろしくお願いしますね、姉さん。」


「ふふっ、義理の姉弟になるが、零のような弟を持つのも悪くないな。」


桜さんと本音を話し合ったおかげで蟠りみたいなものもなくなって、しかも桜さんとはこれから義理の姉弟として接していく事になった。


これからどうなるかは分からないけど、真莉亜ならまだしも、母さんと華怜にはどうやって説明しようかな。

まぁ今は考えても仕方ないけどな。



☲☲☲☲☲☲☲☲☲☲☲☲☲☲☲☲☲☲☲☲☲☲☲☲☲☲☲☲



「ふむ…禍津峰(まがつのみね)樹黙僧魔(じゅぼくそうま)がやられたか。」


零たちが奇襲作戦を成功した同時期、ある場所では一人の男が考え事をしていた。


「まぁ良いわい。()()()()()()()()は充分集まった。」


その男は、何か考え事をしながらニヤニヤと笑いながら彼等の行動を高みの見物をしながら見ていた。


「しかしこうもあっさりとヤツらを倒してしまうとは……しかも力の一部を受け継いだか。まぁ恐らくはヤツらの本来の意思だろう。」


「あの忌々(いまいま)しい女狐め……儂の邪魔ばっかりしおって、奇襲を仕掛けてきたならこっちもそうするとしよう。」


暗暴骸香(あんぼうがいか)、まずはあの小僧から先に殺せ。そして残りは一人ずつ苦しめるように殺せ。」


男は残った最後の頭、髑髏(どくろ)に指示を出して奇襲を仕掛ける合図を出した。

そしてそれを聞いた髑髏は、早速おびき寄せようと行動に移りだした。


「ふっふっふっ…せいぜい最後の時間を楽しむ事だな。何せ最後に勝つのは、この()()()()()()なのだからな!」


その男、名をぬらりひょん。

ぬらりひょんは月を見上げながら、自身が勝利する想像を考えながら笑い、その歓喜の時を待ちわびていた。


次回はちょうど元日なので、1月1日の0時に投稿します!

そのほうが……ロマンがあるだろう。

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